第41話

「仕事中で申し訳ねぇんだが、ちょっと一杯付き合ってくれねーか?」


奥から一升瓶を抱えて大将がやってきた。


「わかっちゃいねえんだアイツはさ。この辺りは老人ばっかだろ? 俺はさ、行き場の無くなったじーさんたちが気軽に来て、ちょっと話しでもできるような場を作りたかったわけよ。じーさんたち、ヘタしたら一日誰とも話ししなかったってことあるくらい孤独なんだよ。だから俺は、そんな孤独な老人たちの居場所を作ってきたつもりなんだ。」


大将は苦虫を噛み潰すような顔をして、酒をチビチビと飲んだ。


「あんた、田舎に帰るって決めたの自分だろ! 決心したからには潔くしなさいよ!」


おかみさんが大将の背中を叩いた。


「この人昔から、年取ったら故郷に帰るってずっと言ってて、やっとその夢が叶うってのに何グダグダ言ってんだろうね。」


「わかってるよ、うるせーなー。」


大将は溜息をつきながらおかみさんに言った。


「あの、サトシさんは、家具など全部撤去するって言ってたんですけど、看板とか…表の信楽焼きのタヌキなんかも処分することになるんでしょうか?」


内田が大将に聞いた。


…信楽焼きのタヌキ?


「看板はね、サトシは飾ってくれそうもないから、俺が思い出に持っていくよ。でもタヌキは…あの大きさだろ? ちょっと無理かなぁ…。町のみんなからかわいがってもらったタヌキだから忍びないんだけどねぇ。」


「確かにちょっと大きすぎますよね」


そんなデカいタヌキの置物あったか?


「すいません、ちょっと失礼します。内田すぐ戻ってくるから話してて。」


僕はタヌキを確認しに表に出た。


“タヌ子???!!!”

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る