第27話
「っはあ、はあ、はあ」
致命傷を受けた黒狼はそのまま崩れ落ち微動だにしなくなった。
……どうやら、何とかなったぞ。
あっぶねえ死ぬかと思った!? むちゃくちゃ痛かったわ生まれ変わって二日で早くも第二の人生が終了するかと思ったわ! そうなったら次こそ黄泉の国行きだ!
斧を引き抜き上体を起こす。息を止めた黒狼から溢れる赤い血が広がっていく。
……これ、俺がやったんだな。
ゲームでのモンスター狩りなら何度も経験したが、リアルで殺めた事は無かった。
実際に体験するとおぞましいものがあるな。
憐れむような余裕は無い。偶然助かったようなものなのだ。
動物が可哀そうとかそんな情は湧き上がってこない。
むしろ、生き残った達成感、仕留めた高揚感が勝った。
興奮によってか痛みは感じない。
アドレナリンすげえ! それとも痛覚が鈍いとか、痛さに慣れたとかなのか?
本当にこの身体、年はくったがあらゆる面で向上している。
さっきも咄嗟の判断で飛出せたが、元の俺だったら絶対間に合わなかっただろうし。それにあれほどの怪我を負ってもまだピンピンしている。
どういうカラクリだよ!?
にしてもいきなり命がけの戦いに身を投じることになるとは。一体何なんだよ?
平和な村って触れ込みはどこ行ったヒデヲ!
……だが安心するのはまだ早い。
先程家畜小屋から出てきたのは3頭。まだ2頭残っている!
顔をあげてヒデヲたちを確認する。
驚くべきことにヒデヲは大きな丸太を抱え振り回して2頭の狼を牽制していた。
なんという胆力だ。
その背後にかろうじてアルが見える。
魔法を使うタイミングを計っているのか、ヒデヲに守られつつも右手を前にかざしているように見える。
キョウヘイの姿は確認できない。
騒ぎに乗じて逃げたか、藪にうまく隠れているのか、それとももう……。
俺は全身に力を入れる。よし、まだまだ身体は動くぞ。
「パパー!」
俺の足にいつものようにメアがすがってくる。
待て俺は外見中年になったがメアのパパではない!
一刻も早くヒデヲの加勢に行かないとヤバい。
とはいえこのままメアを放っておくことはできないと判断した俺は、一度メアの頭を撫でてからその場にしゃがみこむ。
「ほうら、メア、おんぶだ。パパを助けに行くぞ」
「うんっ」
背中にメアがつかまる。
重さと柔らかさを感じて俺は立ち上がり、メアをしっかりと支える。
斧を握って歯を食いしばり、ヒデヲの元へと全力で走りだす。
負傷し、メアを背負い斧を持っているのに元の俺よりも遥かに素早く動けている。
若かりし頃は別段もやしっ子ではなく運動は得意ではないが不得意でもないのだ。
疑いようは無い。
だが、あと少しというところの距離を残してそれは起きた。
両の手で丸太を横なぎに振るったヒデヲが、押さえていた片手を滑らせてしまう。
次への動作が遅れたその瞬間に狼の一頭がヒデヲへと飛び掛かっていく。
あわや顔面を強靭な顎が捉える瀬戸際で、ヒデヲは後ろによろめいて倒れていく。
それが功を奏し、ヒデヲの目先をかすめるように狼が通過していく。
だが、そこから狼は素早く反転し、仰向けになったヒデヲに再び噛みつこうとする。
だがヒデヲの対応も早かった。
上体を起こし狼に向き直り丸太を引き寄せて狼の顔面を受け止めた。
またしても間一髪のところで狼の牙を避けたものの、力負けしたヒデヲは再び地面に倒れ、今度は狼が上に乗るような態勢になった。
「ぐあッッッ」
ヒデヲが苦痛の声を上げるも、必死に丸太を押し返してこらえていた。
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