第16話

大門からしばらく歩いた先には川があった。

目測で20メートルほどは幅があるだろうか。それなりに大きい。

よく目を凝らすとものすごい緩やかに流れているのがわかる。


「かわわだー」

「メアー、かわわじゃなくて、かわだぞー」


メアはここに来るまでの間で俺とヒデヲの周りを飛び跳ね回ったり、蝶々を追いかけたり、先に進んでは咲いている花を撫でては次の花を撫でたりとせわしなかった。

まさしく、蝶よ花よといった感じだ。


今は川辺の淵で四つん這いになり両手で水面をバシャバシャしている。


「メアー、危ないから川に入っちゃだめだぞー」

「はーい、手だけだよー」


離れたメアに大声で注意しつつ、ヒデヲは川へと近づいていく。

俺もその後に続いた。


「この辺はな聞きかじった程度でしかないんだが、昔は川なんて無かったらしい。

この平野で地形が変わるぐらい激しい戦いがあって、その時に出来たんだそうだ」

「へえー。どのくらい昔の話なんだ?」

「さあ、わからんねけどずっーと昔って話だ」


川辺は砂利や石で覆われ少し開けていた。

水面は所々で日の光が反射してきらびやかだ。透明度も高く澄んでいてこのまま飲んでも大丈夫そうだな。いや、一見綺麗に見えても有害な可能性はあるが、この村の人たちはどうしているのだろうか。


「この川を利用しようと先人たちは何とか開墾して村を起こしたって訳だ。それがローン村だ。この川を中心に発展したからな丁度村の真ん中をぶった切るように流れているのさ。」

「結構川幅もあるしこれじゃ行き来は不便じゃないのか?」


俺が驚いた様子で訊くのが楽しいのか、ヒデヲは笑う。


「だっはっはっ、見てみろいくつも橋が掛けられてるから往来は不便しないぞ。」


ヒデヲは川沿いの先――流れからして上流側から下流へと指さした。

その指し示す川沿いを見渡すと、まるで意図的に作られたかのように一直線に流れていて等間隔にいくつも橋がかけられていた。

そしてここから遠くない場所にも橋が掛けられているのが確認できた。

そうか、あれで横断するのか。

とは言え、ヒデヲ並みに屈強そうだと川底を歩くなり泳ぐなりして渡れそうだが。


「結構深いのか? 水位が上昇するとか、逆に干ばつで干上がったりとかは?」

「おう、結構深いぞ。俺の知る限り水位の変化はほとんどないな。ローン村は年間を通して穏やかな気候だからな。雨も稀に降るが、雨量も多くない。ただこの川の源流は村からは大分離れた山脈にあるそうだ。昔、トモキが辿って確かめにいったから本当だろうな。そっちはこの平野と違ってよく雨がよく降る地域なんだと。だからか、水不足に陥るといったことは今までなかったな」


ヒデヲは誇らしげに言う。


「ちなみに、水中や地中まで結界が張ってあるらしくて、天地どこからもモンスターは村には入ってこれないようになってるそうだ。超大きな球体の結界と、あとなんだったっけか……万一のためにともう一つ言ってたんだが、忘れちまった」


腕を組みながらうんうん唸るヒデヲ。

その間も渋面だったり笑顔になったりとせわしなかった。


「ふーん……それで、ここが現場なのか?」

「……いいや、まだ先だ。そんじゃ、先を急ぐとするか。メア、いくぞー」

「うんっ」


メアは小走りにやってくるともはや上半身びしょびしょだった。


「おわ!メア派手にやったなー」


ヒデヲが腰の布でわしわしと拭いてやると愛しいわが娘に笑みを浮かべた。


「おっし、あっちだ。行くぞ」

「いくぞー」

「ああ、わかった」


俺たちは川を沿って下流へと歩みを再開した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る