第四十八話 暴れる心と寄り添う心

Szene-01 トゥサイ村、村長宅


 カシカルド王国からの依頼で、兵として優秀な人材を探していたトゥサイ村。

 エールタイン達の功績を知ったトゥサイ村の村長は、そこで色気を出してしまう。

 気になる人材としてカシカルドへは連絡をせず、情報を高く売ろうと考えた。


「情報一つぐらい上手くいくと思ったが、ここまでしくじるとは」


 ブツブツ独り言を呟きながら、家から持ち出せる物を纏めていた。


「村長。一人はレアルプドルフに捕まっているかも知れない――荷物を纏めてどうしたんです?」


 村長から、帰って来ない連中について調べるよう頼まれて走り回っていた村民が帰村した。

 だが村民の目に入った光景は、イライラしながらティーを飲むのではなく、家財道具を纏めている村長であった。

 村長は作業を中断して男へ振り向いた。


「おお、ご苦労。あいつは捕まっていたか。他に帰って来ない理由があるとすれば逃げたか、もしくは消されるかだろ。まったく、どいつもこいつも使い物にならん……お前は帰って来れたな」


 棒立ちで話している男が答える。


「俺もあちこち回ってみたんですが、これと言って変わった様子が無いんですよ。捕まったりいなくなったりした連中って、何をやらかしたんすかね」

「けっ。実際、お前が戻って来たことからすりゃあ、何かしら欲が出たか、平和ボケしている衛兵でも気づくような怪しい動きを見せたか。そんなとこだろう」


 村長は作業を再開しながら続けた。


「最初の連中は消されたようだが――ん? 消されたってんなら、町が何かしら怪しんでもおかしくないはず。だからこそもう一人走らせたが、そいつは捕まった。やっぱりこちらの動きはバレているんじゃねえか?」

「でも、俺は帰って来ましたよ。何事もなく」

「かーっ! もうわからん! あの戦いを守り切っちまったからこんなことになった。実にやりにくい町だ」


 村民の男は首を傾げ、村長へ不思議そうに尋ねた。


「交易は助かっていますし、村を守ってくれている。東からの悪人は、あの町で止められるから村には来ない。何が気に入らないんです?」

「あ? なんだ、俺に意見するのか」


 作業の手を止めて振り返り、睨みつけながら言う村長。

 村民の男は両手を振って否定する。


「とんでもない!」

「なら黙っていろ。こっちも村のためにやっている、そうだろ?」

「……はい」


 村民の男が頷いたのを見ると、村長は改めて作業を続けた。


Szene-02 レアルプドルフ、エールタイン家


 ブーズから帰宅したエールタインとティベルダは、交代で体を拭き合ってから家着に着替える。

 帰宅後に点けた火の勢いも落ち着いた暖炉の前で、二人とも床に座る。


「つかれたー。ティベルダ、お疲れ様」

「エール様がお疲れ様なのです! 私はこれからがお仕事ですよ」

「お仕事?」


 力を抜け切らせ、床に仰向けで寝転がっているエールタインにティベルダが覆い被さる。

 首元に顔をうずめるティベルダの頭を、エールタインは半ば反射的に撫でていた。

 しばしその状態で帰宅後の時間に浸る二人。

 ティベルダの腕は主人の二の腕を抱き、長い髪が二人の腰を抱いている。


「このまま寝ちゃいそうだよ。ボクには帰るとご褒美が待っているんだね」

「そう思ってもらえて幸せです。私を大事にしてくださるご主人様――私のエール様」


 ティベルダは首元に顔を擦りつけた後、喉を舐め上げて唇に触れるか触れないかというところで止まった。


「きれい――エール様は吸い込まれそうな程に綺麗なお顔」


 目を紫色に変えてエールタインの動きを止めたティベルダ。

 自身の気持ちを解放して、主人を独占してゆく。

 淡い笑みを浮かべ、ゆっくりと唇を重ねた。


「もっと、もっとエール様を。はあ――エール様」


 無抵抗の主人は、まるで誰も近寄ることが出来ない薬を塗られていくように、従者から舌を這わされていた。

 思い通りに主人を味わったティベルダの目が紫から青へと戻る。

 すると一気に力が抜け、主人に体を預けるとそのまま眠りについた。

 ティベルダの能力が切れ、エールタインの体は束縛から解放される。


「ん――眠っていたのかな」


 エールタインは自分の上でスヤスヤと眠るティベルダへ目をやる。


「そっか――また、されていたみたいだね。初めは分からなかったけど、たぶん、そうだよね」


 動きを止められる前と同じように、頭を撫でてあげるエールタイン。

 家で二人きりの時、ティベルダが思いをさらけ出し、それを満たしている事に気付きだしていた。


「さすがにさ、これだけティベルダの匂いがすれば、ね。ボクじゃないといけないんでしょ? ティベルダ。それはボクも同じなんだよ。だから安心しな」


 聞こえていないのを承知で話しかけるエールタイン。

 愛おしそうに目を細めてティベルダを見つめている。


「体が冷えるから何かかけようかと思ったけど、温かいね。少しヒールが発動しちゃってるのか。火もまだ大丈夫そうだし、このまま寝ようか。床だけど、ヒールで体も痛くならないよね」


 エールタインは撫でる手を止めてティベルダを優しく抱きしめる。

 そのまま目を閉じて眠りに就いた。

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