冥凍姫の灼零核【アルバコア】
「
そこまで呟いて、瑞穂はハッとしたように視線を上げ、向かいに座る少女の白く精緻な顔を見据えた。
「鉄と炎の――【人形】――」
「【
「元々、研究者気質というか技術者っていう感じの人――じゃなかった、
「良く言えばそうですが、客観的に言えば単に頭のおかしい奴です」
感情の見えない白い口元から、辛辣な言葉が飛び出す。そのあまりの
「今回――ティマニタは、とある
同意を求めるようなノエの冷たい視線に、瑞穂は曖昧に頷いて見せる。
「な、なるほど――? それで、あなたはそのティマニタって
ん――? という感じで、ノエは微かに眉を寄せた。
「よくわかりましたね。
「そりゃ、その口ぶりからしたら、あなたがそのティマニタって
瑞穂はふと思い出す。自分を襲う騒動を起こした後、瑞穂が慌てて持ってきた衣服を着た後の、ノエのぼおっと立ち竦むような、所在なさげなあの様子を。微動だにしない白い表情の奥に透けて見える、まるで捨てられた子犬のような不安げな震えを。
「でも――」
瑞穂は視線を記憶から、目の前の少女へと切り替える。
「
「それは前も言いましたが、
そこまで言うと、ノエはテーブルの上に置いていたカップを手に取り、冷め切ったコーヒーを啜ると、上目遣いで瑞穂を見据えた。
「――【枷の男】とともに四天王を2人も
ゆっくりと手にしたカップを置き、ノエは目を閉じて。
「――ドミジウスは、魔術的に言えば【兄】にあたる存在でした」
えっ――と瑞穂は声を漏らし、訝しげに目を凝らすように向かい合って座る白皙の美少女を見つめる。まるで、記憶の中にある炎と鉄屑の怪物と、少しでも符合する部分を見つけ出そうとするかのように。
「ぐぎぎぎぎい――われは、どみじうすう――」
おそろしく棒読みな口調で、ノエはドミジウスの口調を真似る。そして、ふぅと溜息をつき、くだらない物真似をしたことを自己嫌悪するかのように瞳を細めた。
「――
そう――ある時、ティマニタは、スミノの膨大な魔力を利用して双属性の
そこでティマニタがとった
言いながらノエは手を伸ばし、その細い指先が瑞穂の手の甲に触れる。瑞穂の腕を、肩を、ひんやりと冷たい感触が走り、思わずその手から、握っていたフォークとナイフがこぼれ落ちる。
「――だから――元々がひとつだったからか、
ただ静かに呟くノエ。瑞穂はどぎまぎしたように、その手を引っ込めて訊く。
「でっ、でも――どうしてそんな回りくどい方法で自殺なんか――」
「
僅かに嘆きの滲んだ口調を漏らして、ノエは瑞穂の困ったような顔を、幼く可愛らしい顔を見つめ、瑞穂もまたノエの磁器のように整った顔を見返して――そして、2人の少女は全く同時に問いを口にしていた。
「――
「――あなた、そもそもどうして、自殺なんてしようとしているんですか――なんで、自分から死のうだなんて――【殺してくれ】だなんて、そんなことを言うんですか――」
放たれた2つの問いは、そのどちらも答えられることはなかった。
ただ沈黙だけが、手狭なワンルームの中に満ちていく――。
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