第24話 BORN THIS WAY③

 あたしが日本に来てはじめての友だち、すみちゃんに声をかけたのは最初に会ってから数日後のことだった。


 「はーい、どうもありがとうございましたー!」


 まばらな人だかりからぱらぱらと拍手。

 金色に染めた短髪の女性の前に置かれたギターケースにおひねりがちゃりんちゃりんと放り込まれていく。

 そのなかには見習いシスターのフランチェスカもいた。


 †††


 人通りが絶えてきたので、短髪の女性は帰り支度をはじめる。


 「今日もまずまずってとこか」


 ケースからおひねりを回収してそこにアコギを収め、ぱちんっとロック。次いで折りたたみ椅子を畳む。


 「よっこらせと……」


 短髪の女性が振り向いたとき、金髪の可愛らしい少女が立っていた。

 外国人はあまりいないのでよく覚えている。


 「あれ? 今日もきてくれたんだ? ありがとー」

 「あ、あの、ステキな演奏でした!」


 短髪の女性がふふっと笑う。


 「ありがと! えーと、名前は?」

 「フランチェスカです」

 「フランチェスカ? フランス人?」

 「スペインから来ました」

 「スペイン人なんだ!」


 スペインから来たという少女をまじまじと見る。よく見れば彼女の服装はシスターっぽい服だ。


 「あんた、もしかしてシスターなの?」

 「はい! まだ見習いですけど」

 「へぇ……!」


 途端、くぅっと腹の虫が鳴った。


 「あははっ。まだ夕飯食べてないからさ」と短髪の頭をぽりぽり掻く。


 「ね、よかったら一緒に食べない?」

 「え、でも……」

 「おごるよ。いつも来てくれてるお礼にさ」


 †††


 「おばちゃーん、いつものふたつね!」

 「あいよー」


 ふたりが入ったのは商店街にある昔ながらのラーメン屋だ。ギターケースを壁に立てて、カウンターに腰かける。


 「ここのラーメン、めっちゃうまいんだよ」

 「あたし、日本でラーメン食べるのはじめてで……」


 その時、カウンター越しに「おまちどお!」の声と同時にどんぶりがごとりと置かれた。

 昔ながらのラーメンが湯気を立ててふたりの鼻腔をくすぐる。


 「いただきます!」


 ぱちんっと割り箸を割っておもむろに麺をすする。


 「んーっ! 至福のひとときっ!」


 一方、フランチェスカはと言えば慣れない箸で苦労していた。


 「お嬢ちゃん、フォークだそうか?」

 「あ、い、いえ。お箸使えるようにならないと……」


 なんとか麺をはさんでそのまま口に運ぶ。スープの絡んだ麺が歯ごたえが良い。


 「Delicioso!」


 聞き慣れない言葉にふたりがキョトンとする。


 「あ、私の国の言葉で、『美味しい』って意味なんです」

 「へぇ、でもお嬢ちゃん日本語うまいんだねぇ」

 「この子、スペインから来たんだって」


 おばさんが目を丸くした。


 「あらー、そんな遠いところから……じゃあチャーシューおまけしとくね。お嬢ちゃんのお名前は?」

 「フランチェスカです」

 「ふ、フラ……? 長い名前で覚えられないから、フラちゃんでいいかい?」

 「はい!」

 「そういえば、まだあたしの名前言ってなかったよね? 上月こうづきすみれって言うの。上に月があると書いてこうづき」とカウンターに漢字を書く。


 「あたしさぁ、自分の名前キライなのね。だから、すみちゃんで良いよ。で、あんたのことはフラっちって呼んでいい?」

 「は、はい。すみれさん……じゃなかった、すみちゃん」


 すみちゃんこと、すみれはにっと白い歯を見せて笑う。




その④に続く。

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