第20話 Pequeña Francesca①

 

 午前の礼拝を終え、昼食を済ませたフランチェスカがすることはお昼寝シエスタだ。

 礼拝堂の定位置の長椅子に横になり、目にアイマスク、耳にイヤホンを装着すれば準備万端。たちまちくかーっとイビキをあげた。


 ――あたしはときどき昔の、子どもの頃の夢を見る。この時もそうだった。



 スペイン。フランシスコ・ザビエルの生誕地として知られるこの地の、とある館にて神父パードレらしき男と少年が部屋の前にて椅子に腰を下ろしていた。ふたりとも神に祈りを捧げるべく、手を組む。


 「ねぇパパ、まだなの?」

 「静かに。すべては神のお導きだよ。祈りなさい」


 途端、隣の部屋から女の子の産声が響き渡った。

 神父と少年が同時に立ち上がり、扉を開ける。

 産婆が「元気な女の子ですよ」と見せたのはタオルに包まれた赤子だ。涙で顔をくしゃくしゃにしながらあげるその産声は生きているあかしだ。

 産婆が赤子をベッド上の母親に抱かせてやる。


 「フローレンティナ。大丈夫かい?」


 夫であり、今しがた生まれたばかりの父親のアルフォンソが妻の頭に手を添えて労う。


 「ありがとう。もう平気よ。フリアン、あなたのエルマーナよ。あなたはお兄ちゃんになるの」


 長男のフリアンが妹の顔を眺める。


 「そういえば、名前がまだ決まってなかったね? どんな名前にしよう?」

 「実はもう決めてあるの。『フランチェスカ』よ」

 「フランチェスカ? スペイン人ならフランシスカのほうが良くないかい?」

 「フランチェスカのほうが力強い感じがして好きなの。この子には元気にたくましく育ってほしいから……」


 そう言って母、フローレンティナが娘のぷにっとした頬にキスする。


 この日、ザビエルの名を継ぐ嬰児みどりごがこの世に生を受けた。

 そして、奇しくもこの日はフランシスコ・ザビエルの生まれた日と同じだった。




②に続く。

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