第10話 まだいる騎士団長

 あれから数日、騎士団長はまだ村に駐在していた。


「あれ、まだ村にいたんですか?」

「おや? リクト殿か。はは、そりゃあいるさ。コイツらの性根を叩き直さなきゃならんからな。コラッ! そこサボるなぁっ! 素振り百回追加だっ!」

「んひぃぃぃぃっ!」


 団員達は皆死んだ魚の目をしていた。


「ああ、そうだ。リクト殿」

「はい?」

「詰所の件だが……。何やらここまで立派な詰所を作ってもらったと言うのにも関わらず、奴らは君に一銭も払ってないとか……。すまなかったな。これは迷惑料だ。受け取って欲しい」


 団長は硬貨がギッシリ詰まった袋を取り出し俺に押し付けてきた。


「こんなにもらえませんって。多過ぎですよ」

「気にするな、君には散々迷惑を掛けてしまったからな。それは私からの謝罪の気持ちだ。金で解決するのは何だが……、他に方法が浮かばなくてだな。それとも……私の身体でもやろうか?」

「え?」

「ははっ、冗談だ。こんな傷だらけの身体じゃ興奮せんだろう」

「え?」

「……え? まさか……する……のか?」


 俺は改めて団長を見た。確かに所々に傷はあるが、団長は傷など気にならないほど美しかった。腰まで伸びた赤い神に純銀の鎧、胸当ての部分が膨らんでいるのはああしないとキツいからだろう。加えて細いウエストに白いスカートから伸びた脚、まさに美女と呼ぶに相応しい。


「そりゃしますよ。団長さんめっちゃ美人じゃないですか」

「なっ、なななななっ!? なにをバカにゃ……!」

「にゃ?」

「くぅぅぅぅっ! ちょっとこいっ!」


 団長は俺の腕を引き詰所に向かう。その際騎士達に素振りを一万回然り気無く追加する辺り鬼だなと思った。


「どうしたんですか? 団長さん」

「ふ、ふんっ! これを見てもまだ美人とか言えるか?」

「え? ちょっ……!? 何してんすか!?」


 団長は鎧を外し肌を晒した。


「よく見ろ、この胸にある傷を。それと背中や脚もだ」

「は、はぁ……」


 団長の胸の真ん中や背中、膝から下には深い傷があった。全て鎧で隠れていた部分だ。


「これは私の勲章であり、誇りだ。どうだ、醜いだろう? 私はこの傷を悔いた事は一度もない。男にしてみたら萎えるだろう? こんな私が美女? 男はこの傷を見て誰もが隣を去っていった。わかったら美女などと言う言葉は口にしないでもら……なにをしている?」

「見る目ないっすね、そいつら」

「な、なぁっ!? な、何故そんなふくらませ……」

「そりゃあ……団長さんみたいな美女の裸体なんて見せられたらこうなりますよ」

「み、醜いとは思わないのか?」

「全然? だってそれは勲章なんでしょ? 勲章を醜いなんて思うほど腐っちゃいませんよ。団長さんは美女だ」

「くっ……うぅっ。く、口では何とでも言える! こ、こいっリクト殿! 口だけではないと証明してみせろ!」

「いいんですか? なら……」


 それから二人は団員達が一万回の素振りを終えて詰所に戻るまで愛し合った。


「団長~……、素振り終わりまし……た? な、何してるんですか団長っ!?」

「んはぁぁぁぁっ! 凄いぞっリクトォォォッ! この私相手に全く萎えさせないとはっ!」

「言ったでしょ? 美女だって。あ、ちゃんと避妊してますよね?」

「……あ、ああ。……し、してるぞ?」


 嘘だな。しかもほとんど経験ないだろ……。


「だ、団長! 団長っ!!」

「えぇぇいっ! うるさいっ! 私は今忙しいんだっ! 後にしろ後に!」

「「「「えぇぇぇぇ……」」」」


 団長は自分の全てを受け入れ、全く萎えないリクトにすっかりやられていた。リクトの予想通り、団長は経験がない。膜は激しい訓練で破れた。実施これが団長にとっての初体験だった。


「私に女としての幸せがくるなどっ……! リクト……リクトォォォォォッ!」

「くぅっ! そんなに締めたらまたっ!」

「こいっリクトォォッ! リクトの全てを受け入れてやろうっ! そのままくるんだっリクトォォォッ!」


 これが団長の賢者タイムが始まるまで繰り返された。


「団長? 私達になぁんて言いましたっけ?」

「……知らんな。私はもう団長ではないからな。ふふっ、私は母親になるのだ、この子のなっ!」

「何バカな事言ってるんですか!? 団長が辞めたら下はどうなると……」

「知らん。副団長にやらせればいいだろ。とにかくだ、私はもう引退するっ! そしてこの村でリクトと一緒に死ぬまで暮らすのだ!」


 団員達は唖然としていた。あの鬼のような団長が目の前ですっかり女になっていたのだから。


「あ、後から来た団長にリクトくんをとられるなんてぇぇぇぇっ! 横暴よっ! 私達は抗議するわっ!」

「「「そうだそうだ! リクトを返せ~!」」」

「あぁん? 返せだと? 欲しいのなら力ずくでこいっ!! 例え傷が増えようが……愛を知った私は負けはせんからなぁっ!」

「「「「団長相手に力ずくで勝てるわけないでしょ!?」」」」

「なら諦めるのだな。ああ、そうだ。この村は私が守るからお前達はもう帰って良いぞ? 副団長によろしく言っておいてくれ」

「「「「んなっ!?」」」」


 団長は皆の見ている前だが気にせず甘えてきた。


「リクトぉ……、どうやら外れてしまったようだ……。ちゃんと命中するまで続けても良いだろうか?」

「タフですね。まぁ……俺もまだ元気なんで良いですよ?」

「元気なのはわかっている……。なにせ私の中にミッチリ入ってるからなぁ……。そんなに気に入ってくれたのか?」

「ええ、だんだん女になっていく団長さんが可愛くてねっ?」

「んはぁっ! か、可愛いなどと……! ふふふっ、嬉しいぞ……リクト殿っ!」


 団長は再び動き始めた。


「だ、団員ばっかりズルいですよっ! なら私達も騎士やめます!」

「はぁ? 見習いが何を……。見習いは妊娠、結婚以外では三年の拘束期間がある事を忘れたのか。残念だったな?」

「なら孕むだけです! リクトくんを渡して下さいっ!」

「ダメだ。リクトには私が奉仕するのだ。お前らのでる幕ない! リクトはなぁ……、こんな私でも愛してくれるのだ! 私にはもうリクトしかいないのだっ!」


 俺は団長にこう言った。


「団長さ、別に皆を帰さなくてもよくない?」

「な、なにっ!? リクト……、まさか奴らを選ぶ……のか?」

「いやいや、多分皆を帰したら団長が俺に溺れて辞めたとか言われるだろ? それじゃあまりにも国のために働いてきた団長が可哀想だしさ、ここは何事もなかったかのように振る舞ってだな、どうしようもないあの四人を一から鍛えるって目的で残しておいた方がいいって」

「し、しかし……。私は今すぐリクトとの子が欲しいのだ……」

「そりゃ孕ませますよ? でも報告しなきゃバレないでしょ? 皆には本当に強くなってもらってさ、強くなったら俺が抱くってことでどうかな? そしたら団長は役目を果たしてるし、何より皆も強くなるし万事解決じゃない?」

「……そんな事言って……、リクトは皆を抱きたいだけじゃないだろうな?」

「違うって。俺はのんびり平和に暮らしたいの。だからあまり騒いで欲しくないんだよ。ね? 頼むよ~」


 団長は折れた。


「り、リクトに頼まれたら飲むしかないじゃないか。全く……、お前たち、リクトの優しさに感謝しろよ? 強くなったら抱いてもらえるそうだ。まぁ、頑張るんだな」

「「「「は、はいっ! 死ぬ気で強くなります!」」」」


 この後団長は団員を一人欠いた事を副団長に報告し、また残る四人の不甲斐なさを諌めるためにも村に残ると付け加えるのであった。

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