第2話 計画通り

 俺が生まれた場所はごくごく平凡な村で、ごくごく平凡な家庭だった。記憶はそのままあったため、授乳の際にはつい興奮してしまったのは内緒である。

 母親がまぁ綺麗で我慢するのが大変だった。

 俺はこの世界で新たな名を与えられた。俺の名は【リクト】。家名はない。家名は貴族でもなければ持たないらしい。偶然同じ名前になったのは神の悪戯なのかもしれない。

 そんな俺も気付けば既に十二歳。この世界では成人とされる歳になった。そして驚いた事に、この世界では成人の儀式として、男は母親に筆下ろしをしてもらうのである。もちろん避妊はしっかりした上でだが。そして女は父親に破られる……なんて事はない。女の場合は結婚するまで初めてを守るのが習わしなのだそうだ。ただしこれが世界の常識かどうかはわからない。


「……リクト、おいで……」

「う、うん……母さん」


 儀式は滞りなく済んだ。前世では機会がなかったため、俺は今はじめて女を経験したのだった。母親は十五で俺を産んだらしく、まだ二十七だ。前世の俺より若い。

 俺の家は数年前に父親が農作業中に魔物に襲われ母子家庭になっていた。そのため、俺は成人しても村から出る事はなく、母親のためにこの村で働くしかない。むしろラッキーである。


 さて、もうそろそろ知りたいだろうから……俺が神から貰った三つのスキルについて説明しよう。

 俺が神から貰ったスキル。

 まず一つ目は【無限収納】だ。これは異なる空間にそれこそ無限にアイテムを保管できるスキルで、収納しているアイテムは劣化しないという優れたスキルなのである。これは絶対に外せない。恐らく今後入手できる可能性は無いだろう。容量に制限のあるアイテムならありそうだが、それでは使えない。そのために俺はこのスキルを望んだ。

 そして二つ目。二つ目のスキルは【ログインボーナス】だ。このスキルは一日一回、定時になると世界に散らばるアイテムの中からランダムで何かを得られるスキルなのである。これがあればわざわざ魔物を倒したりダンジョンに潜らずとも安全に何かしらアイテムを得られる。俺の【無限収納】には既に十二年分、つまり四千個以上のアイテムが眠っている。

 そして三つ目。三つ目のスキルは【超豪運】。これがあれば二つ目のスキル、【ログインボーナス】で得られるアイテムのレア度が跳ね上がる。つまり……なにもしなくても俺は毎日生きているだけで働かなくても食っていけるというわけだ。

 決して誰かのためとか考えて願ったスキルではない。全ては自分が楽に生きるために願ったスキルだ。そうともわからず、神はこの三つを簡単に与えてくれた。いやいや、すまんな。


「リクト、おはよ……。今日からあなたも大人ね。これからどうするか決めた?」

「うん、父さんが死んでからもう決めてるよ。俺は村で暮らす。そして母さんを守るよ」

「ふふっ、リクトったら……。でも……リクトももうそろそろ親離れしないと……ね? 早くお嫁さん見つけないと……」

「え~? 俺にはまだ早いよ。それに……こんな子供の少ない村でどうやって相手を探すのさ?」


 村は過疎っていた。若者は成人したら大体が町に出て働きに行く。そしてそのまま二度と村には戻らない。何故なら稼ぎが全く違うからだ。


「そうねぇ……。この村じゃもう子供は数人しかいないものね……。なら……相手が見つかるまで私で色々練習しとこっか」

「え?」

「いざ相手を見つけた時に困らないように……ね? 一回だけの儀式じゃわからなかったでしょ? だから……毎日私と練習……しましょうね?」

「……う、うん……」


 成人の儀式から俺は毎日母親の相手を続けた。俺のは十二歳にしてはかなりのモノだったらしい。父を亡くした母は寂しさを紛らわすかのように俺を毎晩求めた。儀式以外で母親とする事は禁忌とされている。だがこれは過疎った村ではよくある事らしい。母親から聞いた話なので今一信憑性に欠けるが。

 母親は綺麗だった。父親も中々に整っており、お陰様で俺の容姿もまぁまぁイケてる。それが母親の俺に対する依存度を高めてしまったのかもしれない。


「ふ……ふふふっ。十二歳なのにこんなに立派になって……お母さん嬉しいわよ、リクト……」

「うん、俺母さんのために頑張るよ!」

「ありがとう、リクト……」


 母親との房事を繰り返しつつ、金を稼ぐ事も忘れない。そのための下準備は物心がついた時から始めていた。怠惰に暮らすためには下準備が欠かせないのである。


「じゃあ母さん、町に作物を売りに行ってくるね?」

「気をつけてねリクト……! あなたまで失ったら私……」

「大丈夫だよ、母さん。心配ないって。じゃあ行ってくるよ」

「リクト……」


 俺は怠けるためなら一切の努力を惜しまなかった。物心ついた頃、父親が火の魔導書(初級)をどこからか持ってきて俺にくれた。そこで俺はこの世界に魔法があるのだと始めて知った。魔法の使い方知らなかった両親に代わり村長から使い方を習い、自己流で鍛え上げていった。幼い頃から欠かさずやってきた魔力操作の訓練の賜物で、俺は初級なら無詠唱、高威力で放てるまでになっていた。


『……グルルルルル!』

「また君たちか、懲りないね……ほい」


 俺の指先から魔物の群れに高圧縮された火の玉が飛んでいく。火の玉は数ミリ、それが魔物の群れに触れた瞬間、魔物の群れは業火に包まれ焼死した。


「さ、いこいこ」


 これが心配ないと言った理由である。俺は難なく町に到着し、作物と不要なログインボーナスの品を数点だけ売る。もちろん表の店ではない。裏の店でだ。表の店では野菜の取引のみ。もし数多あるログインボーナスを表で売ろうものならすぐに捕まってしまうかもしれないからだ。

 その点、裏の店では相手が誰であろうと品を買うし売る。ありがたい存在だ。


「あら、いらっしゃい。今回は何を売ってくれるのかしら?」

「ど~も。今日はこれだけお願いします」

「ふんふん……、武器類かぁ……。ちょっと鑑定してくるから待っててくれる?」

「わかりました」


 毎日タダで手に入るログインボーナス。塵も積もれば何とやらだ。俺は毎月一回ここでログインボーナスを捌いていた。


「お待たせ。鑑定の結果、これら十点で五十万ゴルドになるけどいいかしら?」

「はい、大丈夫ですよ」

「じゃあ取引成立ね。また何か見つけたら持ってきてね?」

「はい、ではまた!」


 俺には価値がわからない。鑑定を持っていない俺にはあの店主を信じるしかない。ちなみに、一ゴルドは日本円で一円だ。

 今月の収入は作物の売上プラス五十万ゴルド。慎ましく暮らす分には十分な額だ。


 俺は金を【無限収納】に放り込み、村へと戻るのであった。

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