閑話007 藤堂 拓海が見た真実

僕は【藤堂 拓海(とうどう たくみ)】中学二年生だ。

僕は何もやっても中途半端で、全てが平均。体力や勉強、クラスカーストも。

そんな自分に嫌気がさしていた。

だから僕は異世界に期待していた!でも臆病な僕は、素直には喜べないでいた。



とある日に、僕を含め、クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった。僕は不謹慎かなとおもっていたけど、興奮していた。

だって、ラノベみたいなんだし。

誰だって強いスキルをもらって、俺TUEEEEEしたいじゃん。



転移した時に転送陣を見つめていた王族や貴族、神官らは歓喜していた。

期待感がすごい。


だ、だいじょうぶかな……?ハズレスキルだったらどうしよう?

ステータスだっけ?唱えれば強さが見れるって。


「【ステータス】」


===========

名前 : 藤堂 拓海

レベル : 1

クラス : 人間

年齢 : 14

性別 : 男

状態 : 【良好】

職業 : 勇者

称号 : 隠者

HP :350 / 350

SP :300 / 300

力 : 51

体力 : 53

器用 : 99

速さ : 150

知性 : 35

運 : 44

スキル :

【隠密行動】【索敵】

【心鏡】【影縫】【鑑定】

【奥義:神迅】

===========


う、うーん?やっぱり平均的でそれなり?……他の奴と比べないとわからないな。

一応勇者としては認められそうだけど、主人公俺TUEEEは出来なそう。

すごくがっかりだ!!




今は一人ずつ水晶で確認して登録とカードを作ってもらう作業中だ。僕も行ってきた。

しかしやっぱり注目度は低いようで、僕は肩を落としていた。

そんな時に、となりにいた僕の親友【飯塚 修介(いいずかしゅうすけ)】がステータスについて聞いてきた。


「おい拓海?そんなに暗い顔して、悪い内容だったのか?」

「あ、修介。いや……良くも悪くも普通だよ。たぶん平均ステだった」

そういって自分の登録カードを見せる。

「そ、そうか……俺は魔法剣士だってさ!俺も大したステじゃないけど、かっこういいだろ?」


「おお!いいねいいね!何かあったら助けてよ!」

「はっ!当然だろ!おれたちゃ親友だからな!」

「ああ!お前に何かあったら俺が助けるさ!」


ガシッ!


そうやって僕らは拳を握って腕をクロスしあった。僕ら流の挨拶だ。

そうして修介と話していると、笑い声が上がった。



「なんだあのステータス!」


一人の男子が指さして笑う。


「あーははははっ!!!」

「くすくすくす……」


水晶から浮かび上がっているステータスは、クラスメイトの花咲さんのものだった。


え?


===========

名前 : 花咲 藻子

レベル : 1

クラス : 人間

年齢 : 13

性別 : 女

状態 : 【呪い】【毒】【発育障害】【栄養失調】【隻眼】【飢餓】【打撲】

職業 : 無し

称号:無し

HP : 3 / 10

SP : 1 / 3

力 : 1

体力 : 1

器用 : 1

速さ : 1

知性 : 1

運 : -65535

スキル : 【鑑定】

===========


なんだあれ?それに勇者でもない……。まさか……彼女がハズレを引いたってことか?

うそだろ……それにバッドステータスが酷い……ほっておいたら死ぬんじゃないか?

周囲をみると全員笑ってる。神官や王族、貴族までバカにするように笑ってる。隣をみると、修介すら笑ってるじゃないか……。



ぐわん……とその光景におぞましさに眩暈を感じた……。



なんだ……みんな洗脳されているかのように笑ってる……。

けど、あれは笑えるレベルのステータスというか……そういう次元じゃない。


彼女は普段からいじめられたり、怪我をして包帯を巻いて登校してきているのは知っていた。

僕は気になっていたし、力になれるならなってあげたいと思っていたけど、そんな勇気がなかった。だって彼女はクラスどころか学年中の生徒、さらには先生からもイジメの対象になってたんだよ?

かばったり、心配したら確実に巻き添えになる。


僕はそれを見て見ぬふりする、共犯者になりさがった。



でもこれは異常だ。彼女の日常的に負っている怪我をそのまま数値で表したようなステータスだ。はっきりいって、異世界転移とか関係なくあのまま学校にいたら死んでいたはず……。

改めてよく見ると、【飢餓】【栄養失調】があるのが頷けるような、体の小ささ、細さだ。

それに【隻眼】?彼女は前髪で右目を隠しているけど、あれはああいう髪型じゃなくて……失明している目を隠していたってことか?


観察すればするほど、彼女の壮絶さと、それを笑い転げてるクラスメイト全員の気持ち悪さが、僕の恐怖をさそった。


だ、だめだ……おそらくここで笑ってるやつは信用できない。花咲さんには悪いけど、彼女は一種のバロメーターだ。

僕は直感した。

王族、貴族、神官や従者達は全員苦笑しているし、おそらくこの状態を良しとしている側だ。僕らを悪用する、もしくはすべてを語らずに何かを隠すはずだ。


じゃあ他に信用できそうなやつは?

僕は今のうちにギャンギャン!と効果音が鳴りそうな素早い目の動きで、クラスメイトを観察した。


例えば仮に、何らかの方法で洗脳されていたとしたら?

その洗脳はいまリアルタイムで突発的に人為的に起きてる。

備え無しに抗える人間は特に生命力、生きる力、意思の強いやつだ。


僕は全てが平均的な人間だけれど、観察力だけは自信があった。

全てを簡略化させる傾向にあった現代社会だと、まるで役に立たない特技だったけど。


んー。やはりというべきか、二見くんだ。

彼は乱暴者だけれど、強い意志が感じられる人間だった。

つぎに……え?っと僕は自分を疑った。

それは鈴沢さんだ。彼女は親指の爪を噛みながら王族を睨んでる。

こ、これは……僕は彼女を絶対に味方につけるべきだと感じた。

えーと他には……。

だめだ……あのカーストトップの聖女やイケメンや委員長ですら爆笑中だ。あいつらはカス扱いでいい。


よし……決めた。

まず鈴沢さんと二見くんの協力を早急にすべきだ。

親友だと思ってた修二には悪いけど、彼も使えない……。


この激流に飲まれないで、うまく生き残ってやる!






次の日から訓練が始まった。

……花咲さんが来てないのが気になる。


でも平均点の僕は、ある程度従って鍛えておかないと、町の外にでただけで死んでしまう可能性が高い。せめて自衛できるぐらいにはなっておこう。


まずは魔術と剣術の使い方からだった。

といっても僕は魔法のスキルをもってないので、それはスルーして、剣術武術の講義へ行った。聖騎士団の方が訓練をつけてくれるそうなので、身に着けて損はないだろう。


訓練が終わって各自部屋に戻ると、一人に一名のメイドさんがつけられていた。

彼女は【ソフィ】さん。20歳ぐらいのとても可愛らしくて綺麗な人だ。

一瞬絆されそうになる。

でも信用してはだめだ。彼女は城側の人間だ。


ソフィさんの説明によると、一週間後に勇者認定式があり、その時に数値があまりに低かったり、人格に問題があったりした場合は、除名処分になるそうだ。だけれど、今までの歴史上はほぼ有り得ないので、安心してほしいとのこと。


でも……花咲さんは……たぶん除名される。

あれから何かに覚醒して俺TUEEになるとは到底思えなかった。


夕食は、一堂に広い部屋に集められて会食のように豪華な料理でもてなされた。

でも……なんじゃこりゃ。

くっそ。まずい!!!!これは食えたもんじゃない。



他のクラスメイトも同じように苦笑いしてる。

僕は仕方ないから、果物や木の実、堅いパンだけは食べれるレベルなので、それだけにしておいた。彼らはいつもこんな食事をしてるのか?


部屋に戻ってソフィさんに話をきくと、あれがこの世界の最高級料理らしい。食べられるなら私が食べたいとまで言ってた。

まじかよ……。


これはやばい……。食糧は死活問題だ。

こんな飯では絶対に不満があがり、ストレスで暴れる奴が出る。

そうなれば、城側と転移側の衝突は避けられない。

おそらくだが、奴らは僕らを制御できる何かを握っている。

そうなると悲劇が生まれる気がした。



だってクラスメイトは楽観視してたけど、これってゲームじゃないんだからな。




次の日からも同じようなルーチンワークが始まった。

相変わらず飯はまずいが、それなりに充実した毎日だった。

聖騎士団の訓練はそこまできつくないが、実践ではやはり恐怖との闘いもあり、みんな苦戦している。

……花咲さんはそのままずっと来ないままだ。



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