閑話005 鈴沢 雲母の決心その3
次の日、昨日の号泣男子が誰だったか気になったが、すぐにわかった。
あのクソ不良の二見だ。
だが、あの二見は付き物が落ちたように、すっきりした顔であの子を目で追っていた。
あれは、まるで恋に芽生えた童貞だ。
ちらっちら見ていて気持ち悪い。
それにこともあろうか、数日はずっとあの子のストーキングをして色々と探っている。
うわぁ……キモい、キモい、キモい、キモいぃ。
でもこれはあーしが実行してる策とバッティングしそう……。
要注意だ。
噂も落ち着き、あーしらのイジメルーティンも板についてきた。
あーしは別のグループに絡まれそうになっていたあの子との間にはいって、イジメめなおした。その別グループは去っていったので一安心したころ……。
「おい!お前っ!なんてことをするんだ!!!これはもう犯罪だぞ!!!!」
ああ……ついに来てしまった……。二見とバッティングしたのだ。
恋は盲目とはよく言ったものだ。
「ゲッ!二見……。い、いいでしょ?なにしようとあーしらの勝手」
「そ、そうだよ昴くん。それにこれはただの遊びだよ?」
「それなーっ!」
「だって花咲も了承してるんだよ?私たちの遊びを邪魔しないで?」
「なっ!……テ、テメーら……」
くっそ、なんとかこの場を早く納めなければ……注目を浴びる前に。
出来るだけ目撃者が少ないうちに。
「……わ……私……ふひひ……へ、平気。あ、あそ……んでる……だけ……」
ナイスモコ!それな!
「じゃそういうことだから?もう絡んでくんなよクズ不良!」
「じゃあね。昴くん。今日は部活ないからいっしょに帰ろう?」
「おーおーお熱いねぇ~幼馴染うらやましぃ」
「それなーっ!」
二見はまったく周りが見えてない。この男にも好意を持ってるやつが何人もいることをあーしは知ってる。その周囲も当然あの子に牙をむく。
その場はうまくやり過ごしたが……大丈夫だろうか?
一触即発とはいえ、そこまで長い時間じゃないから目撃者もすくないよね?
二見に注意が必要だが、イジメにおいては安定期に入ってるといっていい静けさだ。
女子グループもモコの話題を挙げていない。
だからあーしは自分のことを優先させた。
あーしは親に問題が解決しそうだからって夕食に誘われた。
やっと気まずい養母の家から解放される!ってうれしくなった。
浮かれていた。
話し合いするから夕方に待ち合わせした。
あの子の事も心配だが一日ぐらい平気だろう。
ホテルのロビーで待ち合わせ。
予約をいれてあるので、美味しいものも食べられそうだ。
久々の戦士の休息と言わんばかりに今日はモコや学校のクラスカーストについて忘れられた。
うん。このままいけばもうちょっとで実家に戻れそうだ。
こんなことで喜んでしまうなんて我ながらガキだなって思う。
だけど、本当にガキだって思い知らされることになるなんて……。
次の日……あの子が学校を休んだ。
うそ……なぜ……?まさか何か……?
今まで見てきたあの子は、イジメられても家より学校のほうが好きで、勉強や読書をなにより楽しみにしていたはず。休むなんて、相当な事態に陥ったということだ。昨日の放課後になにかあったと考えるのが自然だ。あーしはあーしの情報網をつかって調べた。今回はあーしのグループの情報網は使わなかった。嫉妬による攻撃の可能性があったから、下手すると足元に犯人がいる可能性があったからだ。
結果はやはり親の虐待ではなく、攻撃的な女子グループへの焚き付けがあったことがはっきりとわかった。
まずは、原因の一端であるあいつの対処からやっていこう。
……今日はあの子がいないので、原因であろう例のクソ不良に釘を刺そうと屋上に呼び出した。訝しげな顔をして、奴はやってきた。
「何か用か?」
「いらっしゃい二見君?彼女が心配?」
「彼女?花咲さんのことか?」
「そう、もう彼女に関わるのは止めてくれない?」
「どういうことだ!?休んでいるのは何かしたのか!!??」
乱暴なこいつが暴れれば、あーしらじゃぁひとたまりもない。周りの友人たちも怯えて話ならなくなるから、あーしは唾を飲み込んで、次の言葉を振り絞った。
「ご、誤解してもらっては困るわ!私たちは何もしてない」
「そうそう、彼女の噂しってるよね?」
「……あぁ……あの胸糞わるいやつな……」
「知ってるなら話が早いわね。その噂は当然嘘なのだけれど、|何かあるたびに(、、、、、、)再燃するの」
「不良の二見君にわかるかなぁ?」
「どういうことだ?」
鈍い野郎だな。いちいち説明しなきゃいけないなんて馬鹿なんじゃないの?
あーしは、この悪ぶればカッコいいとおもってるクソ童貞にイライラしてきた。
「つーまーり……。内容から考えればわかるでしょ?」
「花咲さんを貶めるため?」
「そうそう……ただ貶めるんじゃなくて、男の子からの印象を貶める噂だよね?」
「つまりそういうこと。彼女をかばったり彼女を味方する男の子が表れる度に、このうわさが再燃するの」
「なっ!……まさか……」
「そう、今日彼女が休んでるのは、おそらく……昨日の放課後ね」
「そ、そんな……彼女になにが?」
「まだわからない、明日くればはっきりするでしょうね」
「彼女はぁ、いま女子の全校生徒に嫌われてるの」
「前回のかかわった男の子はあの飛鳥井くんだったからね」
「なっ!?あの野郎が!?」
「ええ……嘘告白でひと悶着あったらしいわ」
「あんの野郎……!」
先日あんたも似たようなことをしただろうがっ!本当に鈍い。
「あんたは人のこと言えないの!わかるでしょ」
「ああ……」
「女子の嫉妬ってぐっちょぐちょのねっとねと!」
「まぁそういうことね。私は私なりに彼女をサポートしてるから、あなたのあれは邪魔でしかない!」
「あれはサポート……なのか?」
「嘘だと思うなら、私たちが行動した後の様子を観察してごらんなさい?」
奴がこのまま手を引いてくれればいいし、緊急時に使えれば尚よい。
あーしは言いたい事は言えたし、そのまま屋上を後にした……。
次の日は……
いつもあーしより早く登校しているはずのあの子は今朝もいない。
SHR直前にきたあの子は……大怪我をしていた。
ざわわわっ!!
ぐ……!!!!!!
たかが妬みだと思って親の暴力よりはひどくならないと思っていたのに……!!
あまりの怪我の様子に全員引いている……。
包帯は巻かれているが、所々青い肌を覗かせているし、血もにじんでるところがある。
足と腕、頭部に包帯を巻いていた。
それが清潔ならまだしも、土や泥で汚れている。
松葉杖が必要なはずの大怪我なのに、足を引きずりながら歩いていた。
そのため彼女の足の腫れは赤黒くて、ものすごく酷い。
あーしが思っていたよりかなり酷かった。
くそっ!くそっ!くそっ!
おそらく、あーしが油断した日だ!!!!
悔しくて大粒の涙がこぼれるのを堪えた。
くやしい!!くやしい!!くやしい!!
あああああ!……あーしだ……あーしの所為だ……。
ごめん……なさい…………モコ。
結局、その怪我は毎日保健室で包帯を変えるだけにとどまった。
親が保険料を納付してない為、国保が使えずに本人が拒否したためだ。
それから右目の失明時や今回の大怪我でも、警察が動かないことには、ある大きな力が働いたそうだ。
これは……正直あーしどころかあーしの親を使っても手に余る。
あーしがただのガキだってことを思い知らされた。
政治家であるあーしの親も井の中の蛙で、自分より下位の人間にデカい顔をするだけのクズだったと知った。
別にそれを咎めはしない。あーしもしょせんクズだったからね。
でもやっぱり治りの遅い怪我を毎日みるだけで、胸が締め付けられるぐらい辛かった。
だからあーしがやれることだけは、今度こそ漏らさず100%やるって誓おう。
これはあーしが、あーしたらしめるための意地だ!
そして――
あーしらクラスは異世界へと転移させられた。
これって、アニメとかでやってるやつ?あーしはその手のものに詳しくなかったから、理解できなかった。
でもこの世界なら、元の世界よりはマシになるんじゃないか?
そういう期待があった。
常に世界に虐げられても、あの子は頑張っていた。
せめてあの子が楽しく過ごせる世界を……。
と思っていたのに……。
……
……
……
……
……あーしの脳裏に、またあのロックの曲のメロディが浮かぶ。
『There is no god, but there is an unjust god……♪』
……くそっ!神野郎!!!!ぶっ殺すし!!!!!!!!!!
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