アイス


「そういえばレグルス」

「なぁにン?」


 皿を並べて、予備のフォークやスプーンを並べる。

 その最中に「『緑竜セルジジオス』では『竜の遠吠え』の影響はないの?」と聞いてみた。

 するとやはり『緑竜セルジジオス』でも『竜の遠吠え』の影響はあるらしい。

 特に、この辺りは。


「そうだワ、その話もしようと思っていたのヨ。アナタ達、『竜の遠吠え』の時期は『エンジュの町』に避難していた方がいいんじゃないのかしラ? ドゥルトーニル家の人たちもそう言ってたわヨ」

「ああ、やっぱりね」


 聞けば『青竜アルセジオス』程ではないそうだが、なかなかの影響があるそうだ。

 この牧場が廃牧場として大荒れになっていたのも、ほとんどが『竜の遠吠え』による影響。

 とは言え、『竜の遠吠え』はこれまで生まれて毎年経験してきたしね?

 劣化版なんかさして脅威とも思わないな。


「まあ、今は『青竜アルセジオス』に『聖なる輝き』を持つ者がいるから『竜の遠吠え』の威力も例年ほどじゃないんじゃないかな」

「あらまァ! 『青竜アルセジオス』に『聖なる輝き』を持つ者が現れたって噂は本当だったのネェ?」

「まぁね」


 ラナは温めたパンをカゴに入れ、テーブルの真ん中に置く。

 同じく温めたスープを二人の手前に置き、もう一度戻って自分たちの分も持ってきた。

 俺とラナが席に着いてから、「いただきまーす」と手を合わせて食事を始める。

 レグルスたちは不思議そうな顔をしたけれど、うちはこれが定着したのだ。

 食べ物へ感謝を捧げるんだよ、と教えると、二人は「隣国には素敵な文化があるのネェ」と変な解釈をされてしまう。

 ……まあ、いいけど。


「確か『緑竜セルジジオス』には三十年近く『聖なる輝き』を持つ者が現れてないのよネェ……。いい加減現れてもいい頃だと思うのだけれどォ」

「三十年は確かに長いな」

「でしょウ〜? そうなのよォ。西の『黒竜ブラクジリオス』は王子が『聖なる輝き』を持っているけど、ここ『緑竜セルジジオス』にはなかなかネェ……」

「!」


 大陸北西、この国から見れば西にある『黒竜ブラクジリオス』は王族が『聖なる輝き』を持っている……。

 それは、デカいな。

 元々どの国の王家、大公家、族長も『聖なる輝き』を持つ者を一番偉いやつが伴侶にする事がほとんど。

 とはいえ、『聖なる輝き』とやらは心の清い輝きとやらを指すらしく、その一族の血に取り込んだところで子孫に生まれてくる事はほとんどない。

 つまり『黒竜ブラクジリオス』王家は“たまたま”王子が『聖なる輝き』を持つ者として生まれてきたという事。

 これは普通にすごい事だ。

 運が良いというか、なんというか。


「そんなに長期間いないと、なんか弊害みたいなのが起きたりするのかね?」

「そうねェ……植物の育成が遅くなるかしらァ?」


 ……コレで?


「えー、かなりもりもり育ってるのに? 私、野菜は育てた事がないのにいつもちゃんと収穫出来るから、それはこの国の守護竜様のご加護のおかげだと思ってたのだけれど?」

「それはもちろんそうヨ? 他の国から来た人は特にそう思うかもしれないわネェ。でも、長年農家してる人たちは年々収穫量が減ってるって言ってるのヨォ。そんな事言われちゃうと『聖なる輝き』を持つ者が『緑竜セルジジオス』の守護竜様に謁見したら、どーなっちゃうのかしらネェ〜って、気になってきちゃうワァ〜」


 ふむ、レグルスたちも『最盛期』状態の『緑竜セルジジオス』は知らないって事か。

 まあ、三十年も竜の愛し子様がおられないんじゃあなぁ。


「ネェネェ! そろそろさっきのアイス? 食べさせてちょうだいナ〜」

「そうね! 待ってて、今持ってくるわ!」

「手伝うよ」

「ありがとう!」


 トレイもないのにラナ一人で四人分持ってくるのは大変そうだしな。

 というわけで、あいす、とやらを小皿に盛り、テーブルに戻るとレグルスになにやらにやにやとされていた。

 な、なに?


「相変わらず仲良しネェ。お子さんはいつ頃?」

「「は?」」

「子ども部屋、作ってもらったんでしょウ?」

「「…………」」


 ぶわ、と変な汗が流れる。

 ラナの方を見られない。

 いや、それは……。


「あ、え、えーと、まあ、それは……なんというか」

「あー、今はまだ、色々……この土地にも不慣れだしな」

「アー、そうネェ……二人は元々貴族だったんだものネェ……庶民の暮らしに慣れるまでは、迂闊に作らないってコトォ?」

「まあ、そんなトコかな? なんか、秋になる頃には大がかりな狩りが行われるとか聞いたけど」

「あぁ、収穫祭に作物を食い荒らす野生動物を減らし、収穫祭の時に冬に備えてソーセージなんかに加工するんだ」


 説明を付け加えてきたのはグライスさん。

 なるほど、それは一石二鳥だな。

『青竜アルセジオス』にも、そういう文化はあったはずだけど……貴族は平民が狩ったものを取り上げてパーティーで消費するだけだ。

 アレファルドは狩りが好きだから、自分で鳥を狩ってきたりもしたけど……。


「…………」

「フラン?」

「いや、ちょっと解体してた時の事を思い出して……」

「エ? 貴族って解体までするのォ?」

「んー……普通はしないかな……」


 汚れ仕事なので。


「……アレファルドは貴方にそんな事までさせてたの?」


 ……うん、思い出したくないし、ラナに話すほどの事でもない。

 話を逸らそう。


「さ、アイス食べよう」

「あ! そうね! 溶けちゃう」

「「「溶けちゃう?」」」


 これ、溶けるの?

 と聞けば真顔で「溶けるわ!」と頷かれる。

 俺たちの頭にはハテナマークが乱舞していた事だろう。

 溶ける?

 食べ物が?

 首を傾げながら、スプーンでアイスをすくって口に入れた。

 な、なにこれっ!?


「っめた!」

「ンッ! や、やァ〜ン! なによこれェ〜!」

「っ!? !? !?」

「ふふふ、どう? これが『バニラアイス』よ!」


 出た、ドヤ顔。

 でも驚いた……なんだこれ……!

 冷たいし、口の中で溶けた……!

 それに溶けたら甘い。

 甘いけど、俺でも平気な爽やかというか、さっぱりとした甘味。

 なんだこれ、本当に……味は……ミルク?

 でもバニラ?

 なんだ、バニラって。

 見た目は白っぽい。

 上にミントの葉が添えられ、爽やかな香りを演出。

 そこまではいいのだが……。


「甘くて美味しいわァ〜! それに、冷たいし本当に口の中で溶けちゃったァ〜ン! 一体どうなってるのォ〜!?」

「き、貴族の食べ物か!?」

「い、いや、俺も初めて食べた」


 グライスさん顔怖い。

 目元窪んでるから目を見開かれるとめっちゃ怖い。

 ……もしかしてグライスさん甘党?

 気に入っちゃった感じ?


「一体どうやったらこんなものが作れるのよォ!? ……ンンン! あまぁぁぁぁ〜〜いン!」

「ふふふ、意外と作り方は簡単なのよ。と言っても、うちはフランがすごいもの作ってくれたから、そのおかげで作れたわけなんだけど」

「?」


 俺?

 なんかすごいの作ったっけ?


「……この『なんの事?』みたいな顔……」

「ホントヨォ……」

「な、なんなの」


 ラナとレグルス、グライスさんまで睨んでくる。

 いや、本当になんなの?


「まあいいわ。これはフランが作ってくれた『ハンドミキサー』で卵を徹底的にといて、『乳製品製造機』で作った生クリームと砂糖を加え混ぜる! そして『冷凍庫』で冷やす! それで完成よ!」

「ごめんなさいネ、もう初っ端からわけわからなくなってるんだケド」

「え?」

「?」


 最初なにが、と思ったが……ああ、ハンドミキサーも乳製品製造機も冷凍庫もラナのリクエストで作ったから、ウチにしかないやつか。

 冷蔵庫……冷やす機能だけのやつなら位の高い貴族からオーダーメイドで販売が始まっているけど……。

 今のところ冷蔵庫の竜石核を作れるのは俺とグライスさんだけだから、冷蔵庫の値段はマジでふざけてる。

 なんと一メートル×四十センチサイズが金貨一枚だ。

 家が建つっつーの。

 その一割でも、先月売れた分で金貨が二枚入ったのだから売れてるんだよね~。

 普通に貰いすぎな気もするけど……実際エフェクト刻むのは大変だし、オーダーメイドだし、安過ぎれば受注でこっちがパンクする。

 高すぎるくらいじゃないとダメらしい。

 まあ、値段の中には『修理保証』とやら込み。

 それが安心感を持たせ、高額でも販売促進に繋がる……との事。

 まあ、実際受注は絶え間ない。

 先程レグルスが竜石職人の学校を開くというのも、俺とグライスさんだけではすでに追いつかなくなっているからだ。

 うん、まあ、それは……理解出来るのだが……。


「……なるほどネェ……」


 俺が色々考え込んでる間に、ラナはレグルスに『ハンドミキサー』と『乳製品製造機』……ついでにそれで作る生クリーム、そして『冷凍庫』についても説明してくれた。

 レグルスはうんうん、と頷いて聞いていたけれど、一拍の間、唐突に黙り込む。


「……アンタたちは、あれなノ? 未来から来たとかなノ? 守護竜様の御使かなにかなノ? それともまさか『青竜アルセジオス』の貴族ってみんなアンタたちみたいに化け物じみたモノをポンポン作り出せちゃうノ? なんなノ?」

「ちょ! 真顔でなに言い出すのよ! 私はこんなのあればいーなー、って言っただけで、それを現実に作り出せるフランが天才なのよ! 私は普通!」

「えぇ〜……俺だってちょっと器用なだけで普通だよ」

「げっ! フラン……!」

「…………」


 それ人前で、特に竜石職人さんの前で言っちゃダメって言ったでしょ。

 と、ラナに目で訴えられた。

 実際竜石職人のグライスさんにはここぞとばかりに「呪い殺すぞテメェ」という顔で睨まれたよ。

 いや、でも、ねぇ?


「アイデアはラナが出したんだから、やっぱりラナの方がすごいと思うよ?」

「そんな事ないわよ! 普通の竜石職人でもフランの考えた設計図は刻むのが難しいって言ってたじゃない! フランがすごいのよ!」

「いやいや、あんなの慣れれば竜石職人で食ってる人は余裕だってば。グライスさんだって最近手慣れてきたから、エフェクトの失敗は二回に一回だし」

「もぉ〜! フランがすごいところはそこだけじゃないでしょう!? 私が欲しいって言ったら翌日にはほとんど作っちゃうところもだってば!」

「いや、他にする事がないだけだし」


 あと、ラナに頼まれたら話が別だから。

 気合いとか、やる気の入り具合的なものが。

 ただそれだけの話だから。


「いやいや、フラン、レグルスに頼まれてる竜石核作りがあるでしょう? それをしながら作るじゃない」

「いやいやいや、さすがに乳製品製造機作った時は休んじゃったし」

「……いいかしラ?」

「「なに?」」


 レグルスがなぜか手を挙げて制止してきた。

 振り向くと「とりあえずアイス全部食べちゃいまショ」と言われて納得。

 それもそうだ。

 こんな珍しいもの、ちゃんと味わって食べないとね。

 ああ、すでにちょっと溶けてる!


「すごいな、これ……本当に溶ける」

「そりゃそうよ。溶けるとあんまり美味しくないのよね」

「……確かに、溶けたやつよりは溶けてないところが美味しいかな?」

「…………」

「「? どうかしたの? レグルス」」

「いいえ、アンタたち……、……まあいいワ」

「「?」」


 なんなんだ?

 なぜに呆れたような顔?

 頭まで抱えて……。

 と思ったら、ラナがレグルスに「いきなり冷たいものを一気に食べると頭痛くなるわよねー」とか言ってる。

 そういうものなのか。


「しかしネェ……エラーナちゃんの話を聞く限り、この『アイス』は現段階でココでしか食べられないって事じゃなぁいン……。残念だわァ〜」

「うふふ! そうでしょう? 牧場カフェの目玉メニューにしようと思ってるの」

「アア、なるほどネェ〜。そういう事なら納得だワァ〜。こんなの出されたら通っちゃウ!」


 はーん、なるほど〜。

 ラナも一応真面目に牧場カフェのメニューとか考えてたのか。

 まあ、ラナが作るものは異世界? の、ものがほとんど。

 どれもこれも珍しいものばかりだろう。

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