07 (店員はドラム)

 ナオの寮は12階建てのマンションで、600人位が住めるようになっている。

 1階には、タベルナと呼ばれる大衆食堂とスーパーマーケットにカラオケボックスやビリヤードの娯楽ルームがあり、大浴場もついてかなり豪華だ。

 ただ 2階はほとんどが倉庫で、クオリアの部屋はそこにある。

 それより上の階が学生の部屋で各階に個室で60室あり、防音性の高い壁を外せる構造になっているので、ぶち抜いて2部屋を使う人もいる。

 家賃は1部屋2万トニーと良心的で光熱費(電気、水道の他に、通信費+コインランドリー費)の使いたい放題プランを入れても3万だ。

 ただアーコロジー構想と言うのか『このマンションで、月の収入のすべてを使わせる』と言う気概きがいを感じられ、必要な物は自分の寮か近くにある他の30とうの寮の1階に行けば解決すると言われていて、無いのは風俗店位なものだ。

 実際問題、学生の収入の8割がここに消えると言われていて、しかも雇用するのが店の付近の学生が中心なので、その働いた金もいずれここに落ち、経営者に戻ってくることになる。

 こうして増えた金を使って、サービスの質の向上や新しい施設を作る為の資金になる。

 何ともまぁこの『学生団地』を運営している人間は頭が良い。

 そうして学校から帰って来たナオは、寮の1階にあるスーパーマーケットに向かう。


 さて、娯楽施設や飲食店などの店員など、機械でも出来るけど『ワンランク上のサービスとして』人を雇う事は多い。

 だが、効率と安さを優先したタベルナやスーパーマーケットのほとんどどは無人だ。

 スーパーの頑丈なスライドドアが、圧縮空気の音と共に開く…。

 スペースコロニーが崩壊した時でも、中の建物が救命ポットとして機能するように設計してある宇宙規格で作ったこの都市の建物には、軽くて丈夫で気密性と生命維持装置がある設計になっている。


 スーパーの中の光景は、旧時代のスーパーマーケットとはかなり違う。

 近いものを上げるとするなら物流倉庫だ。

 ナオは入り口にあるカゴを取り商品を探す…。

 欲しいものは冷凍食品とパック飯だ。

 店の陳列棚ちんれつだなには斜めにローラーがついていて、商品の入った折り畳みコンテナ折りコンが各3箱ずつ投入されている。

 折りコンには カードホルダーがついていて、その中にQRコードに似たタグカードが差し込まれている。

 ナオの目がタグに向くとコードを読み取り、商品の立体映像が現れる…。

 この都市に住んでいるヒトに 義務付けられているARマイクロマシンの機能だ。

 商品の映像をタッチするか商品を持ち上げると設定に応じて、動画のCMや内容物の情報が表示される仕組みになっていて、カゴに入れると商品コードが店内サーバーに記録される仕組みだ。

 ナオは 折りコンにある最後のミートソーススパゲッティをカゴに入れ、空の折りコンを棚から取り出し、折り畳む…。

 重力に引かれ、残りの2箱が降りてきて、ストッパーで止まり補充される。

 畳んだ折りコンは、足元に横向きに配置されているローラーコンベアに置き、これが一定数溜まると動き出し回収される。

 そして…2階にある倉庫から1階の天井に空いた折りコンサイズの穴を通って、折りコンがコンベアで1階まで降りて来て、それと同時に投入する商品棚の後ろあるストッパーが上にあがり、上から重力とローラーを使って降りてきた 折りコンをストッパーで止め、折りコンの下のローラーが商品棚に向けて動き出し、補充する。

 この都市のスーパーはこう言った折りコンとローラーコンベアを複合したシステムで ほとんど無人で運用が出来ている。

 人がやるのは2階の倉庫に商品を投入する位だろうか…それもほとんど自動化している らしいんだが…。


 必要な物をカゴに入れたナオは、スライドドアの前のレジに行く。

 レジには接客用のドラムが1台いて、顔になるディスプレイには記号と文字で顔を表現した顔文字アスキーアートになっている。

 アスキーアート何てオレが生まれたばかりの2000年代初期の『パソコン普及時』に使われていた物だ。

 そんな古いものがまだ残っている事に不思議に思いつつ カゴをテーブルに置き、支払い用の読み取り機に手をかざして タッチパネルに表示される最終確認用のYボタンを押して清算をする。

 ARでレシートがナオの目の前に表示され、端末に入る。

 さて昔ならここで袋につめるのだろうが、ナオは多少の罪悪感を覚えつつもカゴごと持って外に出る。

 普通なら万引き犯とか疑われるのだろうが、ここでは割と一般的だったりする。

 一応支払いを済ませずに出ると端末からARで警告がでるようになっているのだが、そもそも犯罪を起こすようなギリギリの生活の人もいないので、万引きを起こす人など まずいない。

 少なくとも泥棒と言う概念がいねんは ここでは忘れされているようだ。

 この都市は快適ではあるものの それゆえにつまらない。


 寮の入り口を通り、階段を昇って3階まで上がる

 ナオの部屋は3階でレナとトヨカズは5階だ。

 同じような部屋が規則正しく並んでいて、右に行っても左に行っても同じ光景で 区画番号の表示と ドアに書いてある部屋番号が無ければ 迷う事になるだろう。

 ドアはスライド式では無く 開き式で、ノブはついているが 鍵穴はついていない。

 ノブをつかみ回すと、登録情報が確認され 合っていたらロックが外れる仕組みになっている。

 部屋は、8畳でシャワー、トイレ、簡易キッチン付きになっていて部屋の内装は殺風景で、備え付けのベッドと冷蔵庫、それと旅行バックに入るサイズのホームサーバー位だ。

 ナオは冷蔵庫に食べ物を入れて隣にある溜まってきたスーパーのカゴに重ねる。

 カゴの返却場所はゴミ集積所の隣で、カゴだけではなく買い物用のカートもそこだ。

 明日の朝、ゴミ出しのついでに返しておくか…。

 そう思い、ナオは殺風景の部屋のベッド座りARウィンドウを出した。

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