第116話 買い物ハプニング・終

 百貨店を出た俺は心労でゲッソリしていた。何故なら、ランジェリーショップで夏凛と恵さんの下着選びまで付き合わされたからだ。


 これが全部俺にとって不利益だけならここまでメンタルが削れることはなかったんだけど、飴と鞭のように微妙に役得的側面があるから気持ちの緩急凄くてかなり疲れた。


「もう~、そんなに疲れるものかね? 高校生男子なら、そういうの毎日見てるんでしょ?」


 そう言って恵さんが俺の左腕に抱き付いてきた。ぐぬぅ、明日は服の下にあの水色の花柄下着を着るというのか……。

 腕に当たる柔らかさで、着てるところを思わず想像してしまった。胸も大きいし、お腹もきちんとくびれてるし、何よりプリンと少し大きめのお尻がとても印象的だった。


 あれを水色の花柄が包むのか、本人には言えないけど脳内フォルダにしっかり残ってしまうほど良かった。


「兄さん、左側に向かって歩き始めてますよ。ワックは真っすぐです!」


 夏凛はそう言って俺の右腕に抱き付いてきた。この真冬の時期に、暖かくてフカフカなそれを押し付けられると……ある部分の血流が、ヤバくなる。


 夏凛が選んだのは全体的に白い下着だったが、ふちの部分に黒いラインが入ったデザインで、ワンポイントに小さくリボンがあった。


 清楚さと大人の雰囲気を両立したような、まさに今の夏凛を体現してる下着。ばるんっと大きな胸と、少し筋肉の付いたお腹周り、そしてそこそこに大きなお尻を夏凛が選んだあの下着が優しく包み込む、見る機会は無いと理解してはいるが……兄として悩ましい思いに駆られてしまう。勿論こちらも脳内フォルダに保存済みだが。



「それに、恵先輩。さすがに毎日、その……そういうののお世話になるはず無いと思いますけど。ねえ、兄さん?」


 急に話題を振られて俺は少し焦った。


「ああ、夏凛の言う通りだ。女性の前であまりこういう話しはしたくない、だから回数とかそういうのは言わないけど、毎日は流石に無いな」


 俺がそう言うと、恵さんが疑惑の視線を向けてくる。ちなみに嘘ではない、毎日お世話になる必要が俺には無いんだ。夏凛が俺の部屋に気軽に出入りするようになってからは、そう言ったものは電子の海に隔離してある。


 じゃあ、どうしてるのかというと……転倒イベントがあるからさ、そこはお察しってやつだ。


 ああでも、こうして自己を分析してみると……俺って、兄としてとっくの昔に終わってたんだなって、しみじみ思った。


「顔に出やすい黒斗なのに、嘘が微塵も感じられない……なんか悔しい」


 悔しいときたか、これ以上考察されると足元を掬われそうなので恵さんの機嫌を取ることにした。


「まぁまぁまぁ、良いじゃないか。健全でさ。それよりもほら、ワックが見えてきた。俺が奢るからさ、その辺にしといてくれよ~」


「……まぁいいわ。じゃあ、ビッグワックLセットにナゲット15ピース、それにアップルパイもつけてお願いね」


 ちょっと多くないか? 財布に関しては問題ないよ? 白里先生からかなりの心付けを頂いたから、旅行で使う分を差し引いても当分困りそうにないし。


「マジでそんなに食べるの? 夕飯入らないだろ」


「大丈夫大丈夫! あたしと、あなたで、シェアすればいいだけの話しでしょ?」


「……あ、そっか。そうだよな」


 俺が納得すると、夏凛が待ったをかけた。


「先輩それはズルい! 私もシェアしたいですぅ~!」


 夏凛の参入で話しがかなりややこしくなった。普通に食事するだけなのに、何でシェアに拘るんだろうか。

 恵さんは夏凛をじーっと見詰めたあと、少し溜息を吐いて妥協した。


「はぁ、わかった。じゃあみんなそれぞれМセットを頼んで、ナゲット15ピースとシェアポテトを3人でシェアしようか」


「はい、ありがとうございます!」


 ということで、俺達はワックで昼食を取ることになった。


 テーブルには注文した品物が並んでいる。メインのバーガーを食べて3人でナゲットやらポテトやら突っついていると、夏凛がトイレといって席を立った。


 それを見た恵さんはナゲットを1つ手に取ってじーっと見詰めている。


「ねえ、ちょっとやってみたかったことがあるんだけど、いいかな?」


「やってみたかったこと?」


「うん、友達同士ですることなんだけど、あたしはしたことないからさ。やってみたいな~なんて」


「別に普通のことなら良いんじゃないか?」


「そっか、じゃあいくね」


 恵さんの意図がわからない俺は茫然とその様子を窺っていた。手に持ったナゲットの先端にバーベキューソースを少しだけ付けて、そしてそれをそのまま俺の口元に持って来た。


「はい、あ~ん」


 ──パク。


「どう? おいしい?」


 ……ほぼ反射的に口を開けて食べてしまったけど、周囲の視線と、あとから湧いてくる羞恥心で味なんかわからなかった。


 とはいえ無言というのもあれなので、「普通」とだけ答えておいた。そして一息おいて言うべきことを言った。


「てかさ、あ~んって女子友達でやることだろ! 教室で見たことあるよ、やってるの。男の俺にしたら流石にお互い恥ずかしいだろ、恵さんも顔赤いし……」


「そ、そうだね。やってみてあとからなんかメッチャ恥ずかしくなった……」


 多分だけど、恵さんは俺が奢るといった段階でこれをするつもりだったのだろう。恵さんのいうように、メッチャはずい、はずいけど……悪くはなかったかな、うん。


 その後は勿論普通に食べた。夏凛がナゲットを手に持って何か考え込んでいたみたいだけど、その後の展開を察した俺は質問攻め作戦でそれを封殺してなんとか無事に帰還することに成功したのだった。

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