第131話 初恋の人の夢が叶う

 十一月十二日、土曜日......この日は朝から曇り空であった。


 俺は昨夜、『つねちゃん』に電話をし、今日、デートができるのかを確認した。


 受話器越しに聞こえる『つねちゃん』の声は無理に元気な声を出している感じがしたので、俺は本当に大丈夫なのかを再度聞いたが、『つねちゃん』の口から出る言葉は『大丈夫よ。明日は楽しみにしているから』であった。




 『この時代』の学校は午前中だけ授業があり、昼には帰宅する様になっている。

 だから土曜日に俺達高校生はアルバイトができない。


 なので俺の誕生日が土曜日と重なった今日を俺は『運命の日』にしたのであった。


 俺は一度、家に帰ると時間が勿体ないので『エキサイトランド』の最寄り駅のトイレで私服に着替え、そして『エキサイトランド』の入場受付の前で『つねちゃん』と待ち合わせをしている。


 俺が急いで待ち合わせ場所に行くと、もうそこには『つねちゃん』がいた。


「ゴ、ゴメン、つねちゃん!! 遅くなってゴメンね!?」


「うううん、先生もついさっき来たばかりだから大丈夫よ」


「そ、そうなんだ……それで、つねちゃん、体調はどうなの? 本当に大丈夫なのかい?」


「心配かけてゴメンね。先生は大丈夫だから……それに今日は隆君の十八歳の誕生日で、ここの遊園地でデートするのは隆君が小六の時以来だし、先生とっても楽しみにしていたの。だから今日は体調を崩している場合じゃないしね……」


 『つねちゃん』は微笑みながらそう言うので、俺もその言葉を信用する事にした。


「わ…分かった……そ、それじゃ行こうか?」



 俺達は『エキサイトランド』の受付を済まし、中へと入るのだった。


 いつも見ている見慣れた風景……しかし今日は従業員ではなくお客さんである俺はいつもと全然違い、心が落ち着かない。

 

 勿論、隣に大好きな……そしてもうすぐプロポーズをする人がいるからだ。


 とりあえず今日は俺がバイトをしている『ハリケーン・エキスプレス』と『急流すべり』だけは近づかない様にしようと思っている。


 さすがにこの大事な日に根津さんや三田さん達に会うのはキツイ感じがするからだ。


 そして今日は最後に大観覧車、『ステップスター』に乗り、その中で……ゴンドラが一番上まで行った時に俺は『つねちゃん』にプロポーズをしようと考えている。


 俺が『つねちゃん』と初めてキスをしたのは昔からある観覧車の『ホップスター』

 そして俺が『前の世界』に逆戻りをした際、『この世界』に戻った時に乗っていたのは『エキサイトランド跡地』に新たに造られた大観覧車の『ジャンプスター』……


 俺はなぜだかここの観覧車に縁がある。

 縁があるからこそ俺はプロポーズをする場所も観覧車に決めたんだ。



「今日は天気予報で夕方から雨が降るって言っていたから早めに色んな乗り物に乗った方が良いかもしれないわね?」


「そ、そうだね……」


 雨かぁ……雨風が強すぎると大観覧車は運行中止になってしまう恐れがある。


 だから『神様』お願いだ!! 

 どうか俺が『つねちゃん』にプロポーズをするまでは天気をもたせてください!!


 俺はそう思いながら『つねちゃん』と色んな乗り物を乗るのであった。



 乗り物に乗っている『つねちゃん』はまるで少女の様な笑顔でとても楽しそうであった。そんな『つねちゃん』を見ている俺の心は凄く癒されていた。


 三時頃に園内にあるレストランで遅めの昼食をとった俺達は外にあるベンチで休憩している。


 空を見上げると少しずつ雨雲が広がり暗くなってきている。


「つ、つねちゃん? そろそろ『ステップスター』に乗らない?」


「うん、そうね。雲行きが怪しくなってきたしね……やっぱり観覧車に乗らないと遊園地に来たって感じが薄れてしまうものね?」


「えっ? ハ、ハハハ、そうだね……」



 俺達が『ステップスター』に着いた時には空からゴロゴロと音が聞こえてきた。


「うわっ、ギリギリセーフみたいな感じよね?」


 『つねちゃん』は笑顔でそう言ってきたが俺は内心、気が気じゃない。


「あれ、五十鈴君じゃないか?」


「えっ、な、何で!?」


 何と『ステップスター』の受付に三田さんがいたのである。


「いやぁ……今、俺休憩中でさぁ……ちょっと受付の子とお話をしてたんだよぉぉ……」


 お話って……絶対ナンパだろう?

 っていうか、よりによって今日だけは会いたくない人に会ってしまうだなんて……


「今日はこの人とデートなのかい? いいねぇ……でも、もうすぐ雨が降るみたいだから早く乗った方がいいよ」


「あ、有難うございます。それじゃぁ……」


 俺と『つねちゃん』は少し俯きながら三田さんの前を足早に通り過ぎようとしたが、その時に三田さんが俺に近づき耳元でこう言った。


「五十鈴君、頑張れよ。もし一周じゃ足らなかったら右手を上げてくれ。そうすれば俺がここのスタッフにお願いしてもう一周乗車してもいい許可をもらうからさ……」


「えっ!?」




 俺達はようやくゴンドラの席に対面で座った。

 小六の時と同じ位置だ。


 しばらくは二人共無口であったが、五分くらいしてから『つねちゃん』が改めて誕生日のお祝いの言葉を言ってくれたかと思うとソッと俺に綺麗に包装された箱を差し出した。


「えっ? つねちゃん、これは?」


「先生から隆君へ十八歳の誕生日プレゼントよ。中身は帰ってから見てくれないかな? 来年、社会人になる隆君には必要になる物だと思うんだけど……」


「あ、有難う、つねちゃん……俺、大事にするよ……」


「気に入ってもらえるといいんだけどなぁ……」


「つねちゃんがくれたプレゼントだから絶対、気に入るに決まってるじゃないか」


「フフフ……有難う……」


 そろそろゴンドラがてっぺんに来るころだ……

 遂にこの時が来た。


 ゴロゴロゴロ ゴロゴロゴロ


 さっきより雷の音が大きくなっているぞ。

 それに風も少し強く吹いている様な気がする。


「あっ、あのさ、つねちゃん……」


「えっ? うん……」


「俺と……」


 ゴロゴロゴロ ピシャーンッ


「キャーッ!!」


「つねちゃん!!」


 俺がプロポーズをしようとした瞬間、雷が大きく鳴り響いた。そして、どうやら近くに雷が落ちたみたいだった。


 『つねちゃん』は余程、雷が怖かったのか、耳を塞ぎ、身体を震えさせながら下を向いている。


 俺は『つねちゃん』に近づき、肩にソッと手をかけてこう言った。


「つねちゃん、大丈夫かい?」


 すると『つねちゃん』の身体が一瞬、ビクッと動き、そしてゆっくりと俺の方に顔を見上げた。


 『つねちゃん』は俺の顔をジッと見つめている。


 瞳からは大粒の涙がこぼれ落ちてきた。


「えっ? つねちゃん、そんなに雷が怖かったのかい?」


 『つねちゃん』は俺の質問に答えようとせず、少し震えている両手を俺の頬に近づけようとしている。


 そして……


「隆君……」


「何だい、つねちゃん?」


「あなたは隆君なの?」


「えっ? な、何を言ってるんだい、つねちゃん?」


「本当にあなたは『五十鈴隆君』なのね……? ウウッ……」


「だ、大丈夫かい、つねちゃん?」


 心配そうにしている俺の顔を『つねちゃん』は両手で触り、涙を流しながらこう言った。


「会いたかった……隆君にずっと会いたかった……これは夢かもしれないけど……夢でもいい……死ぬ前に神様が私の夢を叶えてくれたのだから……本当に大きくなったねぇ……立派になったねぇ……これで心おきなく……天国に行けるわ……」




――――――――――――――――――


お読みいただきありがとうございました。


遂に『運命の日』が来る。

『つねちゃん』の体調も大丈夫なようだ。


そしてプロポーズをする為に観覧車に乗り込む隆

しかし雷が鳴り響いた時に『つねちゃん』に異変が起こる!!


「ずっと隆君に会いたかった……夢が叶った……」


まさか、この『つねちゃん』は!?



あと2話で完結予定です(長くなれば分けるかもですが)

どうぞ次回もお楽しみに。

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