第14章 新たな出会い編

第82話 初恋の人のことを言ってしまった

 【昭和六十一年四月】


 俺は遂に高校生になった。


 俺の通う高校の名前は『青葉東高等学校』といい公立の普通校だ。

 青葉市の北側の丘の上にある学校で自宅から自転車通学で約三十分のところにある。


 クラスは一学年で十二クラスあり、俺は六組になった。

 ちなみに高山は十組でこの三年間、一度も同じクラスになることはない。


 なので『前の世界』では高山との付き合いは減少し、卒業後してからは疎遠になってしまったのだ。だから『この世界』の俺はそうならない為に、こまめに高山とは会おうと思っている。


 『この世界』では少しだが『前の世界』とは違う『未来』がいくつか発生していることもあり、俺はもしかしたら予定よりも早く『携帯電話』くらいは開発されると期待していたが、残念ながら期待外れに終わっている。


 スマホとは言わないがせめて携帯電話だけでも……『メール』だけでも出来れば中学時代の仲間達との交流もとりやすく『前の世界』の様に疎遠にならなくて済むのになぁと思ってしまう。


 『つねちゃん』とだって毎日メールのやり取りが出来るのに……


 まぁ、お陰様で『つねちゃん』の実家には毎月のように電話をしているので慣れているから良いのだが、他の友人達の自宅に電話をするっていうのは特に女子の自宅に電話をするのは勇気が必要だ。


 おそらく寿や稲田、川田、岸本達とは何十年後かの『同窓会』まで会えないかもしれない。


 『前の世界』の若者達は俺が学生の頃と違って異性と話をしたり、『SNS』を利用して連絡のやり取りをする事をあまり意識していない様にも思えるが、さすがに『昭和生まれ』の俺としてはそうはいかない。


 『大人』として『前の世界』よりはマシにはなっているが、それは俺の目から見た同級生達が『子供』に見える為に俺の心に余裕が出来て何事も無い様に接してこれただけなんだ。


 しかし今は『高校生』……

 男女ともに見た目だけは『大人』に見える者も多い。

 さすがに今までの様な余裕の心で皆と接する自信は俺には無い。


 だから俺は久しぶりに思い出したというか、自覚したよ。


 俺は元々『ヘタレ野郎』だったってことを……



「どうしたの、五十鈴君? さっきからブツブツ言ってるけど……」


「えっ? ああ、新見かぁ……べ、別に何でもないよ……」


 彼女の名前は『新見洋子にいみようこ』といい、唯一このクラスで同じ中学卒の女子である。また新見は途中で退部をしているが『元卓球部』でもあった。


「そうなの? ならいいんだけどさ。それよりも同じ中学の子達がみんなクラスバラバラになってしまってなんか寂しいし、不安よねぇ……」


「そ、そうだよな。俺もその気持ちは分かるよ……」


「でしょう? 何で学校はもう少しそこらへんを配慮してくれないのかしらね?」


「だよな。せめてあと二人くらい同じ中学の奴がいれば気が楽なんだけどな。一から友達をつくるって結構大変だもんなぁ?」


「ほんと、五十鈴君の言う通りよ!! 特に女子は大変なんだからっ!!」


 俺達はそんな会話をしてはいたが実のところ俺はそんなに不安では無かった。

 

 まぁ、小中学校の時と同様に俺は『前の世界』でクラスメイトの事はある程度、理解していたので当時と同じ様な接し方をすれば自然と友達は増えていくことが分かっていたからだ。


 当時、友達が増えすぎて付き合っていくのが大変だったという記憶があるくらいだ。


「とりあえず同じ中学同士だし、色々と協力し合いましょうね?」


「あ……ああ、そうだな……」



 キーンコーンカーンコーン


 今日は『入学式』の次の日

 授業初日で一時限目は『ホームルーム』である。

 

「さぁ、みんな席について~っ!! 今から学校の規則など色々な説明をするからしっかり聞いてくださいね? そして、その後に皆に自己紹介をしてもらおうと思っています」


 自己紹介かぁ……


 クラスの座席は出席番号順になっており、俺はこの数年間、ほとんどが出席番号一番だったが今回も残念ながら一番だ。よって『自己紹介』は俺から始まることになる。


 担任が説明をしている中、『前の世界』と同じく俺の席の後ろの後ろに座っている『人見知りをしない男』で『クラスのリーダー的存在』になる『上野優一うえのゆういち』が後ろの『入谷剛志いりたにつよし』を飛び越えて俺に小声で話しかけて来た。


「おーい、出席番号一番の人ぉぉ。五十鈴って名前だっけ? 一番に自己紹介って気の毒だなぁ……ほんと俺達って名前で損をしてるよなぁ!? こういう嫌な事はだいたい出席番号順だもんな?」


 俺は『何十年かぶり』に上野と会話が出来る喜びもあり自然な感じで返事をする。


「そうなんだよ。まぁ毎回こんな感じだから慣れているとはいえ、やっぱ自己紹介は緊張するよな? 入谷もそうだろ?」


 俺は思わず上野だけではなく真後ろの入谷にも話しかけてしまった。


 すると急に俺に振られた入谷は驚いた表情をしていたが、直ぐに笑顔でこう言った。


「だよね。でも今回は君がいてくれたお陰で僕は一番じゃなくて済んだから助かったよ」


「だよな~!! 俺もいつもなら一番か二番なんだけど、お前達がいるお陰で初めて三番になれたから少しマシな気分だわ。ハッハッハッハ!!」


「 「ハッハッハッハ」 」


 俺達三人の会話を聞いていた俺の隣の席の『神谷敬之かみやのりゆき』が俺に恐る恐る話しかけて来た。まぁこれも『前の世界』の時と同じ状況なんだが……


「三人ってさ、前から知り合いなのかい?」


「えっ? いや、今日初めて話をしたんだ。まぁ気さくな奴等で良かったよ」


「君って凄いね。初対面であんなに普通に会話ができるなんて……」


「いやいや、俺が凄いんじゃなくて、あの上野って奴が凄いんだよ」


「おーい、五十鈴~聞こえてるぞ~っ」


「 「 「ハッハッハッハ」 」 」



 

「さて、一部では何だかもう仲良くなっている感じだけど、そろそろ皆さんに自己紹介をしてもらおうと思います」


 担任の相田先生が俺達の方を見ながら笑顔で話し出した。


「それでは出席番号一番から一人ずつ前に来てもらって、自己紹介をしてください」


 ついに来てしまった。

 実は『前の世界』の俺はこの『自己紹介』で痛恨のミスをしている。


 トップバッターの俺は皆の緊張をほぐそうと余計な気をまわし、自分が『お笑いタレントの〇〇に似ていると言われます』と言ってしまったのだ。


 期待通り、クラスは大爆笑になりそのあとも和やかな雰囲気で自己紹介は進んで行ったが、その日以来俺はクラスの奴等から五十鈴と呼ばれるよりもお笑いタレントの名前で呼ばれる方が多くなり、一年間少し嫌な気持ちになり言わなかったらよかったとずっと後悔したという記憶があったのだ。


 だから今回は


「青葉第三中学校出身の五十鈴隆といいます。どうぞ宜しくお願いします!!」


「可愛い~」


「えっ?」


 誰が言ったのか分からなかったが俺は顔を真っ赤にしながら自分の席に戻ろうとした矢先、上野のバカでかい声がした。


「五十鈴~っそれで終わりかよ~っ!? せめて好きな女性のタイプくらい教えてくれよぉぉ!?」


 この時、上野の悪ノリを無視をすれば良かったのに心のどこかにクラスの雰囲気を和ませたいという気持ちがあったのか、俺は思わずこう言ってしまった。


「えーっ? ああ、そうだなぁ……すっ、好きな女性のタイプは『幼稚園の時の先生』みたいな人です……」



 俺は本当にバカな男だ……





――――――――――――――――――


お読みいただきありがとうございました。


遂に新章開始!!

高校生編の幕開けです。


そしてこの物語も最終に近づいてきています。

どうぞ完結までもうしばらくお付き合いください。

宜しくお願い致しますm(__)m

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