第80話 初恋の人の最後の笑顔

 九月に入り、長い夏休みも終わり今日から二学期が始まった。


 俺達三年生は文化部の一部を除き部活を引退し、今日から本格的に受験勉強に入る。

 

 そんな二学期初日の今日は始業式から始まるのだが、この日は『夏の大会』で良い成績を残した部活に改めて表彰式がある。


 その表彰される部活の中には勿論、大会で『団体戦優勝』を成し遂げた俺達『卓球部』もいる。そしてそのメンバーの中に『前の世界』では指をくわえて見ていた俺が堂々と壇上の前に立っている。


 本当に俺にとっては夢のようだ。


 三十五年越しの夢が……いや、『この世界』に来てから八年経っているから正式には四十三年越しってことになるのだろうか……


 まさか『卓球部』に関して『未来』を変えれるとは正直思っても見なかった。


 しかし嬉しいのは本当だが、『石田にプレゼント』という目標があったから『未来』を変えれたのだと思うし、その肝心の石田の『未来』はどうしても変えられないでいる為、俺の心は複雑である。


 また、今後俺は本当に『つねちゃん』と結婚できるのだろうかという不安も無くは無い。俺が十八歳になるまであと三年……


 何事も無く『その日』を迎えたいものだが、果たして俺の思い通りに進むのだろうか?


 そんな不安もあるが今は表彰式に集中しようとしている俺がいた。


 すると体育館の端に立っている数名の先生の動きが慌ただしくなっているのが分かった。特に石田の担任が驚いた顔をしながら慌てて体育館を出て行こうとしている。


 まさか……


 俺はその光景が凄く気になってしまい、俺の首にメダルをかけようとしてくれている校長先生の呼びかけに気付かずにいた。



 始業式が終わり、俺達は教室で待機していたが、俺のクラスに慌てて入って来た女子数名が大声で俺や寿に話かけて来た。


「いっ、五十鈴君、久子、たっ、大変よっ!!」


 稲田が泣きながら俺達に言う。


「どうしたんだ、稲田!?」


 すると川田と岸本が稲田同様、泣きながら同時に叫ぶ。


「ひっ、浩美が危篤らしいのっ!!」


 俺は彼女達の言葉を聞き、何も言わずに教室を飛び出した。

 寿も黙って俺の後を追いかけて来た。


 稲田、川田、岸本の三人も俺が今から何をするのか直ぐに理解し、廊下で待機していた高山も俺達についてきた。


 俺達の後ろから同じクラスの村瀬が大声で叫ぶ。


「先生には俺から言っておくから、あとの事は任せておいて!!」


「有難う、村瀬っ!!」



 俺達六人は校門を出てから各自、今から直ぐに電車に乗れる程のお金を持っているか確認し合ったが、今日は午前中で学校が終わりということでお昼代も持って来ておらず、俺なんかはいつも弁当なのでジュース代くらいしか手持ちに無かった。


「はぁぁ……やっぱりみんな一度家に帰らないといけないな……」


「そうね……家に帰る時間も勿体ないけど仕方が無いわ……」


 寿が残念そうに言う。

 すると高山が一つ提案をしてきた。


「この中で一番家が近い人のところに全員行って、家の人に事情を説明して全員分の電車賃を借りるってのはどうかな?」


「 「 「!!!!」 」 」


「高山君、あんた頭良いわね!? そうよ。その手があったわ。この中で家が一番近くて駅にもスムーズに行けるのは……」


 岸本がそう言うと稲田が『私の家かな……』と呟く。


 そして俺達は急遽、稲田の家に行く事になった。


 ゴロゴロゴロ……ゴロゴロゴロ……


「えっ? もっ、もしかして!?」


 ゴロゴロゴロッ ピッシャ――――――ンッ


「 「 「キャーッ!!!!」 」 」


 ザザザ……ザ――――――ッ


 突然、雷と共に雨が激しく振り出した。


 マジかよ……今日、大雨が降るって天気予報で言ってたか?


 俺達はあと少しで稲田の家というところで足止めを喰らってしまった。


 たまたま激しく雨が降り出した時に俺達は『タバコ屋』の前だったので、その前で六人がぎゅうぎゅうな状態で雨宿りをしている。


 数分経っても激しい雨はおさまらない。

 俺達は暗い表情になり無言で雨宿りを続けていた矢先



 プップップ――――――ッッ


 俺達の前にワゴン車が停車しクラクションを鳴らしている。

 そしてよく見ると運転席の人が俺達に手を振っているというか俺に手を振っているようだった。


 俺は少し車に近づき運転手の顔を見て驚いた。


「やっ、山本さん!!」


 山本さんは身体を乗り出し助手席側の窓を下ろし俺に問いかかてきた。


「隆君、一体こんなところでどうしたんだい!?」


「山本さんこそ何でここに!?」


「ああ、僕は営業の途中さぁ。そしてタバコを買おうと思って車を止めたら隆君が居たからさぁ……って……えっ!? 隆君、どうしたの? 涙が出てるよ!!」


 俺の目から涙が流れた理由……

 それは目の前に『救世主』が現れた感覚になったからだった。


 これは『奇跡』だ。

 というか『この世界』での俺の人生は全てが『奇跡の塊』だ。


「山本さん、お願いします!! 俺達を『国立病院』まで乗せて行ってくれませんか!?」


 俺が山本さんに大声でお願いすると他の五人も俺につられ頭を下げながら、そして涙を流しながら……


「 「 「お願いします!! 乗せてください!!」 」 」



 すると山本さんは俺にこう言った。


「隆君、前に僕は君に『隆君は僕にとって恩人』だって言ったことがあるよね? その『恩人』の頼みを今聞かなないと、いつ聞くんだ!?って感じがしたよ!! オッケー、任せてくれ!! 『国立病院』だろうが、どこだろうが連れて行ってやるよぉぉ!! さぁ、みんな車に乗ってくれ!!」



「 「 「有難うございます!!」 」 」


 俺達は山本さんの車に乗り込んだ。


 車中で俺は山本さんに『国立病院』に行く理由を説明したが、全てを理解した山本さんの目の色が変わりこう言ってくれた。


「それは一大事だ!! 一秒でも早く病院に到着しないといけないね!? それじゃぁ今から『営業用の運転』は止めて『素の俺の運転』で行くから!! みんなしっかりとつかまっているんだよ!?」



 ブォンッ ブォォォオオオオオオンッ!!!!


『 『 『ウギャ――――――ッ!!!!』 』 』


 みんな顔は引きつっていたが叫ぶのは心の中だけにして耐えていた。

 勿論、早く病院に行きたい気持ちが強かったからだ。



 そして電車なら徒歩も入れると一時間程かかるところを山本さんの『素の運転』のお陰で三十分程で俺達は病院に着いた。


 俺達は山本さんにお礼を言い、駆け足で病院内へと入って行く。


 申し訳無いが廊下も必死で走り石田のいる病室を目指した。


 泣きながら走る俺達


 そして……


 遂に石田の病室にたどり着いた俺達は呼吸を整えドアをソッと開ける。


「い、石田……」


 石田のベッドの周りには泣き崩れている家族の姿が……


「う、嘘だろ……」


 俺達はゆっくりと石田のベッドに近づいた。


 そこには少し微笑んだ顔をして眠っているような石田がいた……




――――――――――――――――――


お読みいただきありがとうございました。


危篤の石田に会いに行く為、隆達は必死の思いで病院にたどり着く。


しかしそこで見た石田は……


次回、遂に『中学生編』最終話です。

どうぞ宜しくお願い致します。

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