第78話 初恋の人達と『未来』を変える

 決勝戦は卓球台五台を使い一気に五試合を行う形式になっている。


 どちらかが三勝した方が優勝となる。


 俺達は相手のメンバー表を見て『ラッキー』という思いになった。

 というのも相手のエース二人(個人戦優勝、準優勝選手)とうちのエース二人が当たらない事が分かったからだ。


 うちの両エースの村瀬、森重は悩んだ結果、一番手、二番手にしていたが、向こうの両エースは四番手、五番手という事だった。おそらく向こうはエース同士を当てて最悪でも一勝一敗にしたかったはずだ。


 そして向こうの選手(二人共個人戦ベスト8の選手)はエースじゃなくても恐らく下田や藤木には勝てる実力があるから、そこで勝ち星を取り、三勝二敗……あわよくば『ダブルス』も勝って四勝一敗にする考えだったんだろう……


 なので俺は向こうの作戦が失敗したんだと思った。

 向こうの選手がうちのメンバー表を見て悔しがっていたので間違いないだろう……


 『ツキはうちにある』


 しかしこうなるとやはり『鍵』を握っているのは俺達『ダブルス』ってことになるので俺も大石も気合いが入る。


 試合開始から一時間近くが経ち、いくつかの試合が終わっていた。


 四番手の下田キャプテンと五番手の藤木副キャプテンは残念ながらストレート負けをしてしまった。まぁ相手が向こうの両エースだから仕方が無いと言えばそうなんだが……


 でも二人共よく頑張ったと思う。

 相手からどのゲームも二桁の点を取っていたんだからな。

 (ちなみにこの時代の試合ルールは1ゲーム21点の3セット制で2セットを取った方の勝ちとなる)


 そして村瀬や森重はというと……

 ついさっき試合が終わった。


 やはりあの二人は凄かった。というかこの半年で更に凄くなっていた。

 二人共、1セットは取られたものの2セットを取り、勝利したのだ。


 これで二勝二敗……


 やはり『ダブルス』が『鍵』となった。


 俺達はというと、これまでの勢いで相手を翻弄し、1セット目を取る事ができた。

 相手にとっては今日の試合で初めて1セットを取られたようだ。


 しかし2セット目は俺達が逆転負けをてしまう。

 『勝利』がちらついてしまい、俺も大石も少し気負ってしまったんだと思う。

 この大会、俺達も初めてセットを取られてしまった。


 そして現在、最終セット

 それも21対21のデュースである。

 先に二点差をつけた方が勝ちになる。


 ワーッ ワーッ ワーッ


 俺達の心とは関係なく会場は大盛り上がりだ。


「ハァ……ハァ……ハァ……」


 大石の息遣いが荒くなっているので俺は声をかける。


「大丈夫か、テツ?」


「はぁ? 何を心配してるんだ? 俺なんかのことよりも自分のことを気にしろよ!! お前の方が肩で呼吸をしているみたいなんだぞ!!」


 テツの言う通り、俺の体力も限界にきている。

 しかし、ここまで来て負けられない。

 俺がそう思い、なんとか呼吸を整えようとしていると……



「隆君、頑張って~っ!!」


「えっ?」


 聞き覚えのある声がした。

 とても優しい声……


 俺が世界で一番好きな声……


「つねちゃん……」


 俺の疲れが一瞬にして取れて行くのが分かる。


「遂に……遂に勝利の『女神』が来た……」


「えっ、今なんか言ったか?」


 大石が俺の独り言に反応して聞いてきたが試合が再開される。



 向こう側のサーブで始まり、まずは俺が球を返す。

 それに対して向こうもテツが打ち返しにくいところに返してきたが、テツはそれに直ぐ反応して球を『ドライブ』をかけながら打ち返すした。


 しかし向こうもその『ドライブ』がかかった球を簡単に、それも俺のいる逆方向へと打ち返して来た。


 その球を俺は得意の『カット』で返した。


「あっ!!」


 俺の打った球はネットすれすれの所に行ったので思わず声を出してしまう。


 だがその球は何とかギリギリの所で向こう側の台の上に落ちたので俺はホッとしたが、向こう側の選手はそうなる事を予測していたらしく直ぐに球に追いつき、チョコンとこちら側の台に打ち返して来た。


「しまった、やられた!!」


 一瞬、俺はそう思ったがなんと大石がそうなる事を予測していたかのように卓球台の横へと回り込んでおり、すぐさま相手コートギリギリのところへ打ち返したのだ。


 茫然と立ちすく相手側……


 「よっしゃー!!」


 大石が雄たけびをあげた。


「 「 「うぉーっ!! 遂に一点リードしたぞーっ!!」 」 」


 遂にここまで来たぞ……

 あと一点で……


 向こうの選手は今まで見せた事の無い悲壮な表情をしている。

 

 まぁ、そうだよな。あの優勝するのが当たり前の『常勝青葉二中』が数年前まで弱小だった俺達『青葉三中』に追い詰められているんだからな……



 大石が最後と思いたいサーブを放つ。


 向こう側は慎重に打ち返してくる。


 それに対し俺は軽めのカットで向こう側の台の端に打ち返した。


 その球を向こうは『ドライブ』で打ち返し、それを今度は大石が同じく『ドライブ』で打ち返した。


 そして向こうが一か八かの賭けに出た。


 俺の反対側に思いっきりスマッシュを打ってきたのだ。

 そのスマッシュは外れずに見事、俺が立っている逆側ギリギリのところに入ったのだ。


 俺は持てる力を振る絞り、横に移動し『バックハンド』で『カット』をしようとした。


 その時、俺の脳裏には『つねちゃん』や石田の顔が思い浮かぶと同時に一年生の頃、『練習方法』を賭けて勝負をした右川さんとの最後の一球を思い出した。


 あの時は球がネットに引っかかって自分のコートに球が落ちてしまい負けてしまったんだよなぁ……


 そんな事を一秒くらいの間に思い出した俺だったが、意外と冷静な自分がおり、そしてこれまでの想いを込めて『全身全霊』でカットで打ち返した。


 そのまま俺は体勢が崩れ倒れ込んでしまうが目は球を追っている。


 球は『あの時』と同じ角度でネットギリギリの所へ飛んでいった。


 ペチンッ


「 「 「あ―――――――っ!!??」 」 」


 やはり球がネットに当たり、そして少しだけ上に弾み再度ネットの上に乗り右方向に綱渡りのように転がって行った。



「お願いだーっ!! 向こう側へ落ちてくれーっ!!」


 大石が祈る様に大声で叫ぶ。


 

 ポトンッ……コロコロコロ…………


 球は『あの時』とは違い向こう側のコートに落ちてくれた。


 一瞬、会場は静まり返ったが……


「隆君、やったー!! 優勝よーっ!!」


 泣きながら『つねちゃん』の喜ぶ声につられるかの如く、会場内は歓喜の嵐となった。



「 「 「うぉぉぉぉおおおおお!!!! 勝ったぞぉぉおおお!!!!」 」 」


 

 村瀬も森重も下田も藤木も……そして大石も泣きじゃくりながら俺に抱き着いて来た。Bチームの高山達も俺達Aチームの周りで大騒ぎをしていた。


 みんなからクシャクシャにされている俺の目からも大粒の涙が流れ落ちる。


 

 勝った……本当に優勝してしまった……


 これで石田に優勝の報告が……プレゼントができる……


 

 これまでの俺の努力が……


 いや違うな……


 

 みんなの努力のお陰で俺達は……


 『未来』を変えることができたんだ……





―――――――――――――――――――――


お読みいただきありがとうございました。


遂に隆達は『前の世界』で実現できなかった優勝を『この世界』で叶える事ができた。

これで石田に『優勝』のプレゼントができると皆、大喜びである。


おそらく他の部も頑張っているだろう……


しかし石田にはもうあまり時間が無いことはほとんどの人は知らない。


あと数話で『中学生編』も終わりです。

どうぞ宜しくお願い致します。


それでは次回もお楽しみに!

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