第13章 永遠の別れ編

第76話 初恋の人の為に俺は努力する

 日本中に大きな衝撃と悲しみを与えた航空機事故……

 その一週間後の八月十九日


 くしくもその日はかなでの十三歳の誕生日でもあるこの日……


 ワーッ ワーーーッ


 俺は中学生最後の大会に臨んでいる。


 そして俺の横には大石哲也おおいしてつやがいる。

 そう、俺達二人はお互いに『ダブルス』のパートナーである。



 

 話は一ヶ月くらい前にさかのぼるが、俺達『卓球部』は部員全員、総勢五十名での『総当たり戦』を行っていた。


 この『総当たり戦』は夏の大会メンバーを決める為の『恒例行事』みたいなもので、先輩後輩関係なく実力があるものが大会に出場できるという事になっている。


 

 上位六名が団体戦Aチーム、そして七位から十二位までが団体戦Bチームとして出場する事が出来る。


 そして上位十位までが個人戦にも出場できるという、まさに『全員が敵』といった状態の数日間になるのだ。


 しかし今までは部員数の兼ね合いで団体戦Aチームは三年生、Bチームは二年生が出場する事が多かったのだが今年は違う。


 

 俺達三年生だけで三十名もいるのだ。

 早い話、最後の大会に出場できない三年生が場合によれば十六名も出てくるという事だ。


 だから皆、必死だった。

 特に俺や石田と小学生の頃から親しかった奴はなおさらだ。


 『石田の為に良い成績を!! 石田に優勝のプレゼントを!!』


 それが俺達の『スローガン』になっていた。


 俺は『総当たり戦』をする前から一つ、悩んでいた事がある……


 『前の世界』の俺は『総当たり戦』で五位だった。

 

 村瀬や森重には勝てる気がしなかったが実力的には下田キャプテンや藤木副キャプテンよりは上だと思っていたのにいざという時に身体が固くなり、両名ともに俺は逆転負けをしてしまった。


 それで五位は仕方がないんだが、五位ってことはAチームの『ダブルス』という事になる。俺は『ダブルス』は苦手だったし、正直『シングルス』で試合をやりたかった。


 それに当時の俺は結構『わがまま』な性格だったので、そんな性格の俺がパートナーと息の合ったプレイなど絶対に出来ないと思っていたからだ。


 でも最後の大会に念願のAチームとして出場できるのだから、これはこれで仕方が無いなと諦めていた矢先に六位、そう……俺のパートナーが決まったんだ。


 それも俺のパートナーは当時、実力が拮抗していて、お互いにライバル関係にあり、性格も合わず、常に喧嘩ばかりしていた大石哲也おおいしてつやに決まってしまったのだ。


 一瞬にして俺の頭から『ダブルス』という言葉は消えてしまった。


 大石の方も自分がまさか『ダブルス』になるとは思っていなかったらしく憮然としていた。


 あいつも俺と同じく下田や藤木に逆転負けをしてしまい、更に俺には『デュース』の末に負けてしまっての六位だったから当然だろう。


 今思えば俺と大石は『似た者同士』だった。


 『総当たり戦』が全て終わったあと、俺と大石は悔しそうな表情をしながら互いを見あっていたが大石からある提案をしてきたのである。


「おい、隆……」


「何だよテツ?」


「一つ、良い案が浮かんだんだけどさ……」


「ふーん……どんな案だよ?」


「俺とお前で『ダブルス』なんてどうしてもあり得ねぇから、この際俺達二人はBチームの『シングルス』で出場しないか? その方が両チームのバランスも取れて、もしかしたら両チームで『決勝戦』なんて事もあり得るぜ!!」


「お前、勉強はできないけどそういう事を考えられるのは凄いよな……」


「うるせぇよ、喧嘩売ってるのか!? 俺の案に乗るのか乗らないのかどっちなんだよ!?」


「ふん、乗るに決まってるだろ!!」


 俺はその時の大石の提案に喜んで乗ってしまった。


 この『選択』が俺の人生の中の『後悔』の一つになるとも知らずに……


 俺と大石の『わがままコンビ』は顧問の先生や下田キャプテン、藤木副キャプテンを説得し、Bチームで『シングルス』として出場することになった。


 ただ、両エースの村瀬と森重は最後まで反対をしていた。団体戦に優勝する為には三番手に出場する『ダブルス』が鍵になるからAチームでプレイして欲しいと言っていた。


 しかし俺達は聞く耳を持たなかった。


 俺は当時のことを思い出すだけで恥ずかしい気持ちになってしまう。

 『前の世界』の俺は五十歳前になってもその時の『選択』を後悔していたのだ。


 そう、俺と大石のBチームは最後の大会で団体戦『準々決勝敗退』で終わってしまったのだ。逆にAチームは団体戦準優勝となり青葉第三中学校卓球部としては歴代でも最高の順位だった。


 大会終了後、森重が俺に言った言葉を今でも覚えている。


「お前達が『ダブルス』で俺達のチームにいてくれたら優勝できたかもしれないのになぁ……」


 その森重の言葉だけでも俺はかなり凹んでいたが、後日、学校の全体集会にて改めて各部の表彰式があり、その中で卓球部Aチームも壇上に呼ばれる。


 勿論、その中に俺はいない。


 でも校長からメダルを首からかけてもらっているメンバーの中には俺と大石の代わりにAチームの『ダブルス』に繰り上がりで抜擢された『総当たり戦』七位と八位の二人がいる。


 その光景だけでもショックだったが、この当時の大会には『補欠制度』というものがあり、各チームに二名ずつ、選手に怪我等の何かあった場合、代わりにその補欠メンバーが出場するという形があったため、『総当たり戦』十四位と十五位の二人までもがAチームの一員としてメダルを貰えたのだ。


 

 今思い出しても何という制度だという気持ちもあるが、それ以前に俺の考えが甘かったんだから仕方が無いと思う。でもやはり悔しい……悔しかった……


 『前の世界』でも『この世界』の俺と変わらないくらいの練習をしていたんだ。

 それなのに、俺のつまらないプライドのせいで……


 そういった過去がある俺は今回、何があってもAチームに入らなくてはいけない。


 一番手っ取り早いのは下田と藤木に勝ち『総当たり戦』三位になることだったが、やはり『この世界』でも俺は二人に逆転負けをしてしまった。


 それも下田には十五点差からの大逆転負け……


 俺はたまに思う。俺が現在経験している『タイムリープ』ってのは一体どんなルールがあるんだろうか?


 『未来』を変えれることもあれば、今回みたいに『過去』と同じということもある。この『基準』は何なんだろうかとふと思ってしまう。


 『前の世界』で会う事ができなかった『つねちゃん』とは普通に会えている。 


 ん?


 いや、待てよ……


 何か違うな……


 『つねちゃん』と『普通』に会えているのは『この世界』の俺が一からやり直そうと決意し、嫌いな勉強も頑張ったり、必死に『努力』をしてきたからじゃないのか?


 そしてその努力を『つねちゃん』をはじめ友人達も認めてくれているから今の幸に繋がっているんじゃないのか……


 今の結果は努力の証……


 じゃあ、努力というのは一体なんだ?


 努力とは……


 俺が心の中でそんな事を色々と考えていると案の定、俺が五位になり大石が六位で『総当たり戦』が終了してしまった。


 俺の目の前で大石が凄く悔しそうな表情をしている。


 そして大石が俺に何かを言おうとする前に俺が先に話し出した。


「テツ!! 俺と一緒に『ダブルス』頑張ろうぜっ!!」





――――――――――――――――――


お読みいただきありがとうございました。


この回から新章、そして中学生編最後の章となります。


最後の大会に臨む隆

そして『ダブルス』のパートナーには一番性格が合わない大石が?

果たして二人は息の合ったプレイが出来るのか!?


どうぞ次回もお楽しみに(^_-)-☆

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