第57話 初恋の人までもが!?
水曜日……遂にこの日がやって来た。
「隆!! 昨日も一昨日の夜も俺達の練習の誘いを断ったけど大丈夫なのか!? 昨日なんてお前、塾に行ってただろ!?」
森重が少し怒った口調で俺に言ってきたが、俺からすれば『卓球』も大事だが『勉強』の方がもっと大事なのだ。なんってたって俺は母さんに無理を言って『前の世界』よりも一年早く『塾』に通わせてもらっているんだからな。サボる訳にはいかないんだよ……
「大丈夫だって。シゲ(森重)かヒデ(村瀬)どちらかが勝ってくれたらそれで終わりなんだからさ……だから今日の試合の順番、俺を一番最後にしているんだし……」
俺がそう言うと森重は顔は一瞬ニヤついたが、口調は少し怒った感じで言い返してくる。
「バッ、バカな事言ってんじゃねぇよ!! 俺達を当てにするなよな!? もし俺達全員が負けたらどうすんだよ!? 最後はお前しか残っていないんだぞ!!」
「まぁまぁ、シゲ別にいいじゃないか? とりあえず俺達どちらかが勝てるように頑張ろうよ……」
性格が温厚な村瀬が間に入って森重をなだめる。
「それよりも悪いな? 本当ならテツ(大石)かケンチ(高山)のどちらかが代表名の中に入っても良かったのに、俺が出るというのが条件の一つになってしまってさ……」
「え? 俺は別に選ばれなくて良かったよ!! こんなプレッシャーのかかる試合になんて俺は出たくないし。それにようやく俺は『隆の代役』から解放された気分で嬉しいんだ!!」
高山は満面の笑顔でそう言ってきた。そういえば今まで高山には俺の『代役』をたくさんやってもらっていたからな……そろろ俺が頑張らないと『バチ』が当たりそうだ……
しかしその横で大石は高山とは対照的にムスッとした顔をしている。
それもそのはず、あとの二人は大石にとっては自分よりも卓球のレベルは下だと思っている『
実はこの二人が『前の世界』で来年新チームが出来た時の『キャプテン』と『副キャプテン』なのである。だから俺はそのイメージが強くて思わずこの二人を指名してしまった。
でも森重や村瀬が文句を言わないって事は俺の指名がそう間違っている訳でも無いんだと思う。
「よーし、全員集まれーっ!!」
キャプテンの羽和さんが部員全員に集合をかける。
そして今日の『二年生対一年生』の試合について説明を始めた。
「先日も言ったけど、一年が一人でも俺達二年に勝てたら五十鈴の提案通り、これからの練習は先輩後輩関係なく同じ時間、卓球台を使用できるようにする。その代わり一人も勝てなかった場合は『今まで通り』だ。それで良いな、お前達?」
「 「 「は……はい……」 」 」
一年生は蚊の鳴くような小さな声で返事をする。
「あとは今日の試合の『ルール』だが、『1ゲーム制』にして先に『21点』取った者を勝ちとするから……それと普通は卓球台を五台使用して同時に試合を開始するんだが、俺としては一年生の動きをじっくりと見てみたいから今日の試合は一組ずつ試合をしてもらう……それではお互いの出場選手のメンバー表を交換しようか?」
俺は先輩達のメンバー表を見て驚いた。
五番手に二年生で一番、卓球が上手い『右川さん』が書かれていたからだ。
そしてそのメンバー表を見た森重が呟く。
「やはり俺と村瀬のどちらかで勝たないといけないよな……でも……」
そうである。
一年生一番手『村瀬』、二番手『森重』に対して二年生側の一番手は『キャプテン羽和さん』、そして二番手が『副キャプテン松井さん』となっていた。
ちなみにうちの三番手が『将来のキャプテン下田』そして四番手が『将来の副キャプテン藤木』で二年生側の三番手が『二年生で二番目に上手い
あの補欠のはずの井口さんがメンバーに選ばれたんだ……
この俺の説明である事に気付くと思うが、うちの『卓球部』は昔から『エース』を『キャプテン』や『副キャプテン』に任命しない方針だ。
理由は簡単……『とことん卓球に専念して貰う為』である。
というか、だいたい卓球が上手い奴は自分の事で精一杯で皆の事を考え、チームをまとめたりする事は苦手な奴が多かったのだ。
だから『俺達の時代』も皆で話し合った結果、『ツートップ』の村瀬や森重を『キャプテン』にせず、その次のレベルであった『下田』や『藤木』を任命した訳である。
ギー……ガラガラガラ……ギーーーー……
ガヤガヤガヤ……
「えっ? 何で『テニス部』の寿が体育館に入って来るんだ? それに他の『女子テニス部』の人達まで……?」
俺がそう呟くと隣にいる森重がニヤッとしながらこう言った。
「ヘヘヘ……俺が呼んだんだよ。今日は二年生と『俺達の将来が決まる』大事な試合をするからもし良かったら応援に来てくれってな」
「なっ、何でそんな事を言うんだよ!?」
俺は少し怒り口調で言ったが森重は気にせずにこう言ってきた。
「これも俺達が勝つ為の作戦さ。あれだけ『女子テニス部』の人達がいたら先輩達、絶対に負けられないっていうプレッシャーで動きが鈍るんじゃないかと思ってさ……」
イヤイヤイヤ……これだけ多くの女子に見られていたら俺達の方だって緊張して思い通りのプレイが出来なくなるんじゃないのか!?
だめだこいつは……やっぱりまだまだ『子供の考え』だ……
「いっ……五十鈴君、頑張ってね!? 私は『一年生チーム』を応援するから!!」
寿が少し頬を赤くしながら言ってきた。それに対し俺も少し照れくさい顔をしながら……
「おっ、おう……有難う……」とだけ答えた。
すると隣のコートで練習をしていた『女子バレー部』までもが練習を一時中断し、卓球部側のコートに入って来たのだ。
そして直ぐに聞き覚えのある声が俺の耳に入ってくる。
「五十鈴君!! 今日は二年生と試合をするんでしょ!? 私、応援したいんですって先輩達にお願いしたら、皆で応援しましょうって事になったのよ!! だから今日は頑張ってよ!?」
はぁ……石田、お前もかよ? どうせ高山あたりが話したんだろ……
俺はそう思い高山の方を見ると高山は急に視線を逸らした。
「ケッ……ケンチの奴……」
俺は石田の方に向き直し何か返事をしようとしたが、石田は俺を見ていなかった。
そして俺は石田の視線の先を見たが、そこには寿の姿が……
寿も石田の方を見ているようだった。
しかし二人は何も言わず、お互いに背を向け体育館の両端へと歩いて行くのだった。
やはり前に高山が行っていた通り、二人は喧嘩をしているんだな?
一体、どんな理由で喧嘩をしているんだろうと俺が考えていると体育館の入り口で『大人の女性』と思われる姿が見えた。
太陽の光のせいで誰なのかよく分からなかった俺は目を凝らしてよく見てみたが、その人が誰だか分かった瞬間、俺は呼吸が止まりそうになった。
「つっ、つねちゃん!!??」
――――――――――――――――――――――――
お読みいただきありがとうございました。
先輩後輩対決……
なんだかギャラリーまでもが波乱な感じになってきました。
果たして隆達一年生は二年生に一勝できるのでしょうか?
次回で『波乱の卓球部編』は終了予定です。
どうぞ次回もお楽しみに(^_-)-☆
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