第55話 初恋の人を忘れるくらいに熱くなる
『空気椅子』……時間が経つにつれて太もも当たりがプルプル震えてくるので俺達は『電気椅子』とも言っていた。
これは『筋トレ』でも何でも無いただの『しごき』、言い方を変えれば『後輩イジメ』だ。
『前の世界』の俺は嫌な気持ちはあったが先輩命令だから仕方が無いと半ば諦めて『しごき』をやっていたが、ある時、森重だったか大石だったかは忘れたが、今田さんの『しごき』に我慢の限界が来てしまい噛みついたのだ。
それに呼応して他の一年達も今田さんに歯向かい出し、一時『卓球部』は騒然となった。
内情をしった羽和さんや他の二年生達は意外にも今田さんに付かず一年生の言い分を聞き入れてくれた。
その後、今田さんは部にいずらくなり退部してしまう。
結果的に一年生が二年生を追い出した形にしてしまった。
俺としてはとても後味が悪かったのを覚えている。
しかし今の俺は『中身が大人』で、おそらく今田さんの親よりも年上だろう。
『前の世界』の時は今田さんの事は普通に年上にしか見えなかったが、今の俺は今田さんの事をどう頑張っても『子供』にしか見えないし、やっている事が無意味でバカバカしいとしか思えない。
だから自然と俺の口からこんな言葉が出てしまう……
「今田さん、いい加減にしてもらえませんか? そんな『空気椅子』なんかやって何か意味があるんですか? 何か『卓球』に役立つんですか?」
突然俺がそんな事を言いだしたので高山達も驚いている。
「はぁああ!? 五十鈴、お前何言ってんだ!?」
今田さんは凄い形相で俺を睨んでいる。
「だから今、言いましたよね? こんな事をやって意味があるのかって……他のはまぁ『筋トレ』や『体力作り』にはなりますが『空気椅子』はただの『しごき』、要は『後輩イジメ』ですよね?」
「だっ、誰もイジメてねぇよ!!」
今田さんは『イジメ』に対して否定してきたが、俺は話を止めなかった。
『前の世界』の様な事になる前に俺は違う形で治めたいという思いがあったからだ。
「今田さんが『イジメ』を否定しても俺達全員が『イジメ』だと主張したら『イジメ』が成立するんですよ。それに今までの事を顧問の先生に報告しても良いんですけどそれでも構いませんか?」
俺の話を高山達は口をポカーンと開けながら聞いている。
それに対して今田さんは変な汗を掻きながら少し考えている表情をしていた。
「わ、分ったよ。『イジメ』だと言われるのも嫌だからな!! これからは『空気椅子』はやらせねえよ!! それで良いだろ!?」
「はい、有難うございます。ついでにもう一つお願いがあるんですが……」
「はぁぁああ? 何なんだよ!?」
俺達は今、体育館の中にいる。
今田さんにお願いして羽和キャプテンと話をする場を設けてもらったのだ。
「おい、隆? 本当に大丈夫なのか?」
高山が心配そうに俺に聞いてくる。
「大丈夫だよケンチ、心配するなって。俺は一学期の間、ずっと我慢していたけど、今日はチャンスなんだ。『青葉三中卓球部』が予定よりも早く強くなれるチャンスなんだ」
「えっ? 予定よりもって?」
「あっ、いや……それはこっちの話さ……」
「それで五十鈴、俺に話って何だ?」
キャプテンの羽和さんがタオルで汗を拭き取りながら俺に話しかけてくる。
「は、はい……実は前から思っていたんですが、今の『卓球部』の練習のやり方ではいつまで経っても強くならないと思うんです……」
俺の言葉を羽和さんは顔色一つ変えずに聞いている。
「ほぉぉ、それでお前は何が言いたいんだ?」
「羽和さんは悔しく無いですか? いつも『卓球部』は他の部からバカにされて……体育館での練習も一日おきでしか使用できないし……」
羽和さんの表情が少し変わった。
「悔しくないって言えば嘘になるけど、それは仕方の無い事じゃないのか? 『卓球部』はここ十数年、一度も大会で良い成績残せていないし……それに『卓球』は地味なスポーツだしな……」
「地味じゃ無いですよ!!」
俺の大きな声が体育館の中に響き渡る。
隣のコートで練習をしている『女子バレー部』も俺の声に驚いて練習を中断してしまう程だった。その中には石田もいる。
「今の大きな声、五十鈴君じゃない?」
「そ、そうね……五十鈴君どうしたのかしら……?」
「五十鈴がそう言ってもさ、周りがそんな目で見ているんだからどうしようも無いじゃないか……」
羽和さんは少し困った顔をしている。
俺も心の中は申し訳ない気持ちでいっぱいだが更に俺は話し続ける。
「だから、僕達強くなりましょうよ!? 僕達一年にもっとちゃんと『卓球』をさせてください!! そして次の大会の『団体戦』で二年生のAチームと一年生のBチーム両方で『ベスト8』に残りましょうよ!? そうすれば他の部の人達も『卓球部』を認めざるおえないし、学校側も毎日体育館を使用させてくれるかもしれないじゃないですか!?」
「 「 「ベスト8だって―――っ!?」 」 」
俺の言葉に全員が驚きの声をあげだした。
「ふざけた事を言うな!! 俺達二年生でも『ベスト8』なんて難しいのに、『まとも』に練習も出来ていないお前達一年生が『ベスト8』に残れる訳が無いだろ!!」
羽和さんの横で大人しく俺達の会話を聞いていた副キャプテンの松井さんが横から入って来た。この人は常は温厚な人なので、俺もまさか松井さんに怒鳴られるとは思っておらず、結構驚いたが、でも……
「じゃあ俺達に『まとも』な練習をさせてくださいよ」
松井さんが俺に何か言おうとしたが、羽和さんがそれを制止して口を開く。
「……分かった。俺も前からこの『卓球部』の練習のやり方はどうかと思っていたところはあったんだ。でもこれも『伝統』だから仕方が無いと思って……」
「そっ、それじゃあ!?」
「但し、五十鈴の意見を取り入れるには一つだけ『条件』がある。俺達二年生の代表五名とお前達一年生代表五名を選出して試合をする。そしてお前達一年生が一人でも俺達に勝てたら五十鈴の言う通りにしようじゃないか。今の時点で一人くらいは俺達に勝ってくれないと『ベスト8』を目指す以前の問題だからな。それに大会まであまり日が無いんだし、今から練習方法を変更しても意味が無いだろう……?」
「分かりました、その条件でお願いします!!」
「 「 「え―――っ!!??」 」 」
「よし、今日はもう時間も無いし、試合は明後日の水曜日にしよう。その日は体育館で練習する日だしな……」
実際俺達が二年生になった頃には学校から認めてもらえるくらいに強くなるのだが、俺としてはお世話になった二年生の先輩達とも一緒に強くなりたいと思っている。
せっかく『タイムリープ』をして『この世界』に来たんだ。俺が頑張って出来る事は何でもやりたい……『前の世界』ではあり得ない気持ちになっている俺がいた。
俺はこの日、大好きな『つねちゃん』の事を忘れてしまうくらいに熱くなってしまった。
『この世界』に来て初めてかもな……
今日は帰ったら『つねちゃん』に電話をしよう。
今日の熱い出来事を話してみよう……
ちゃんと話せるだろうか……
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お読みいただきありがとうございました。
この『スポコン』みたいなお話はあと少しだけ続きます(笑)
どうぞ最後までお付き合いくださいませm(__)m
意見を通す為、二年生と試合をする事になった隆達一年生!!
果たして勝負の行方は!?
どうぞ次回もお楽しみに(^_-)-☆
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