第38話 初恋の人達との思い出を消したくない

 俺は一週間以上も熱にうなされていた。


 『嫉妬』からくる精神的な体調不良でこんな事になるのか?

 それともやはり『体』と『中身』の違いによる負担が原因なのだろうか?


 医者が言うには『風邪』ではないらしいが、どこか内臓が悪い訳でもないみたいで、『病名不明』のまま『とりあえずゆっくり休ませるように』と母さんに告げて首を傾げながら帰ったそうだ。





 結局、『つねちゃん』にも会えずに布団の中で一週間以上も過ごした影響が出てしまう。


 『ミニバス部』の顧問の先生から家に電話があり、『最後の大会』の為の練習に一度も参加出来ていない俺は『レギュラー』から外れる事になったのだ。


 意外と俺は『レギュラー』から外れた事に対してのショックは無い。

 全然、練習に参加出来てないのだから仕方が無いと思っているからだ。


 それに大会の日は『つねちゃん』も仕事で観に来れないと言っていたからな……


 ただ俺は少し嫌な事に気付いてしまった。


 それは『この世界』に来て『過去の世界』で出来なかった事を色々とやろうと思って頑張っても、良いところまでは行くが結局達成出来なかった事が多いと気付いたのだ。


 例えば小一の頃の『運動会でのリレー』だが、『過去の世界』では俺は転んでしまい、クラスがビリになってしまったリベンジをしようと意気込んではいたが開始直前に足を挫いてしまい出場出来なかった事……


 『過去の世界』の小四の頃、クラス代表で『絵画コンクール』に出展したが惜しくも『優秀賞』だった。俺は『この世界』で『最優秀賞』を狙いに大人顔負けの絵を描いたが、それが担任からは『小学生らしい絵じゃない』という納得のいかない評価をされてしまい、結局、クラス代表にすら選ばれずに違う子が出展し、その子が『最優秀賞』を受賞してしまった。


 そして今回、『過去の世界』で補欠だった俺が何故か『この世界』では五年生から『レギュラー』になり、俺はこのまま中学生になっても『バスケ』を続けようかなと思っていたけど、結局はコレだ……


 やはり中学に行ったら『過去の世界』と同様に『卓球部』に入るべきなのか? と思ってしまうし、仮に『バスケ部』に入ろうとしても、何らかの理由で最終的には『卓球部』に在籍する事になるんじゃないのか? とまで思ってしまっている。


 俺が唯一『過去の世界』のやり直し継続中なのは『つねちゃん』との絡みだけなのだ。


 もしそれまでが無くなってしまったら……


 俺は居ても立っても居られない気持ちになり早く『つねちゃん』に会って話がしたいと焦りの心になっている。


 熱はだいぶ下がってきたが、『アノの頭痛』が再び俺を襲ってきている。

 この頭痛がまたひどくなり目が覚めた時、もし『過去の世界』に戻っていたら……なんて事を考えると俺は寝るのも恐ろしくなっていた。


 何の為に俺は『この世界』にタイムリープしたんだ!?

 絶対にこの五年間の『つねちゃん』との思い出を消してたまるかっ!!

 これから俺達はもっともっと思い出を積み重ねていくんだ!!


 俺はそう心の中で叫んでいた。



 ピンポーン ピンポーン



「よぉ、五十鈴!! 元気にしてるかぁぁ?」


「高山君、あんたバカね? 元気な訳無いじゃないの!!」


 高山と石田が俺のお見舞いに来てくれた。

 ちなみに寿は『家族旅行』に行っているらしい……


「二人共、わざわざお見舞いに来てくれて有難う……」


「まぁ俺はお見舞いというよりも、お前に文句があって来たんだけどな!!」


 高山の奴、何を言ってるんだ? と俺は不思議に思ったがあいつの話を聞いて少しだけ理解した。


 実は高山も俺と同じ『ミニバス部』なのだが、俺が今度の大会のレギュラーから外れたと同時に補欠だった高山が繰り上げでレギュラーになったらしい。


 本来は補欠からレギュラーになれたのだから喜ぶべきところなのだが、高山は全然喜べないでいるそうだ。


「俺は元々、お前が無理やり『ミニバス部』に引っ張っられて嫌々入っただけなのに、バスケをやりたくてやっている訳でも無いのにさ……俺はレギュラーなんてなりたくも無かったんだ。それなのに最後の大会でレギュラーだなんて……考えただけでもお腹が痛くなってくるよ!! それもこれもお前が病気なんかになるからだ!!」


 クスッ……


 俺は高山が真剣に怒れば起こる程、つい笑ってしまう。

 あいつに『怒り』なんて似合わないし、おそらく『本気』で怒ってもいない。


 高山なりの落ち込んでいるかもしれない俺に対しての『励ましの言葉』なんだ。


「高山君、あんた贅沢過ぎる文句を言わないでよ!! 五十鈴君は五年生の時からとても頑張ってきてレギュラーの座を掴んだのに……それが病気のせいで『やる気の無い』アンタなんかにレギュラーを譲ってしまう事になってしまったんだからさ。逆にアンタ、五十鈴君の分まで死に物狂いで頑張りなさいよ!!」


「高山、悪いな……石田の言う通り、俺の分まで頑張ってくれよ……」


 高山は少し頬を赤くしながら


「だっ、誰も頑張らないなんて言ってないし……」


「それじゃ、最初から『俺、五十鈴の分も頑張るから』とか言いなさいよ!!」


「そっ、そんな恥ずかしいセリフ、言えるかよっ!!」


 きっと高山は小一の時のリレーと同じく『俺の代わり』として死に物狂いで頑張ってくれるだろう。こいつはそういう奴なんだ……


「あと、石田も『女子ミニバスキャプテン』として頑張ってくれよ……」


「あっ、当たり前じゃないの!! 五十鈴君に言われなくても頑張るわよ!! そ、それよりも早く元気になって私達の『最後の大会』を観に来てよ? 五十鈴君にも顔だけは……出して欲しいし……」


 石田も高山と同様に頬を少し赤くしながらそう言った。


 「ハハ……ハハハ……分かったよ。頑張って治すよ。そして何とか『大会』には顔を出して二人の応援をするから……」


 俺は頭痛を我慢しながらではあったが本気で笑い、そう答えた。

 なんだか久しぶりに笑った様な気がするな……


 そういえばこんな関係の俺達ってのも『過去の世界』には無かったんじゃないか?


 守りたいなぁ……消したく無いよなぁ……


 俺は『この世界』で手に入れた全ての思い出を消したくない気持ちでいっぱいになるのであった。




――――――――――――――――――


お読みいただきありがとうございました。


夏休み編は次回で最終となります。

そして新章……衝撃の展開に!?


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またこの作品が面白いと感じられた方は☆を付けて下さると大変嬉しいです。


それでは次回もお楽しみに(^_-)-☆

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