第36話 初恋の人と俺の本音➀

 俺は今、自分の部屋の布団の中にいる。

 頭痛はマシにはなってきたが、少し熱があるみたいだ。


 俺は風邪を引いていたのか? と思ったが、恐らく『中身が大人』の俺が本来なら小六ではあり得ないくらいにあれこれ考え過ぎてしまい、『心と体』に負担をかけてしまっていたのではないか? と思っている。


 しかし今日の俺は情けなかった。

 あれくらいの事で『つねちゃん』に嫉妬してしまうんだからな……


 でも俺は今日だけの事で感情が爆発した訳では無い事も理解している。


 何故なら俺は『この世界』に来てからの約五年間、かなり『我慢』をしてきたからだ。特に我慢していたのは『性欲』……


 見た目がこんな俺だから『性欲』なんて無い様に思うが、悲しいかな中身は『大人』だ。本当は俺から『つねちゃん』を抱きしめたいし、キスもしたい。

 

 正直、『抱きたい』とも思う時もある。


 でもさすがに小学生の俺がそんな行動をとれるはずが無いし、まして『つねちゃん』が受け入れてくれるはずがない。


 もしそんな事をすれば俺は絶対に『つねちゃん』に嫌われるだろう……

 『観覧車』での『キス』……アレは事故だから許してくれたんだと思う。


 それに今まで何度か『つねちゃん』から抱きしめられた事はあるが、それは俺が小学生だからだろう。


 もし俺の姿が『本当の年齢』だったらどうなる?

 絶対に今の様な関係になっているはずがない。


 考えたくもないが俺の『本当の年齢』は今年で五十五歳なんだ。

 『つねちゃん』よりも二十六歳も年上……


 そしてもっと考えたくない事だが俺は『人生の折り返し地点』をとっくの昔に走っているのだ。


 いずれにしても俺はこの五年間、色々な衝動を抑え、我慢をしながら『小学生』を演じてきた。だから今回の『山本』からの電話が俺の『我慢』という殻に少しのヒビを付け、そして『つねちゃん』が楽しそうに『山本』の事を話す姿が俺の殻を完全に割ってしまったのだ……


 でも俺が最初に笑顔で質問したから『つねちゃん』も安心して話をしたのだろうから、結局悪いのは俺なんだ……それなのに俺は……


 本当に俺はバカな男だ。

 いつもそうだ。


 『過去の世界』でもいつも肝心な所でミスを犯し、大事なものをたくさん失ってきた。


 失ってきた……


 失う……?


 いやだ、失いたくない……


 『この世界』でせっかく再会する事ができた『つねちゃん』を……


 『つねちゃん』だけは絶対に失いたくない!!


 寝てる場合じゃない!!

 今ならまだ間に合うはずだ!!


 『つねちゃん』にお詫びの電話をしなければ!!



 そう思い俺は立ち上がろうとしたが、クラっと立ち眩みがして、そしてそのまま再び布団の上に倒れ込んでしまった。



 【翌朝】


 母さんが俺のオデコに濡れタオルをのせている時に目が覚めた。


「か、母さん……」


「あっ、目が覚めたわね。おはよう隆……昨夜はほんとビックリしたわ。アンタ凄い熱だったしさぁ……あれから常谷先生から電話があって、先生凄く心配されてたわよ。ずっと母さんに『すみません、すみません』って謝るから逆に申し訳無かったわ……」


「えっ!? つっ、つねちゃんが!?」


 俺は立ち上がろうとしたが体が思う様に動かない。


「バカッ!! アンタまだ熱が三十八度以上あるのよ。急に立ち上がれる訳ないし、こんな状態で立ち上がっらダメでしょ!! ちゃんと寝なさい。じゃないと治らないわよ」


 俺は『つねちゃん』から『お詫びの電話』があったと聞いて居ても立っても居られなかったが、どうする事も出来ないでいた。


 こんな時こそ『携帯電話』があれば寝込んでいても簡単に連絡が出来るのに……と思ってしまう。



 ピンポーン ピンポーン


「誰かしら、こんな朝早くに?」


 母さんが玄関まで行きドアを開けた瞬間に聞き覚えのある声が響いて来た。


「五十鈴さん、隆君は大丈夫ですか!?」


 大きな声の主は志保さんだった。




「志保姉ちゃん、病気がうつったらいけないから、もう少し離れたほうが……」


「私は大丈夫よ!! 元気だけが取り柄なんだから!! そんな事よりも隆君、大丈夫なの? 昨夜、香織先生が泣きながらうちに電話してきてさ、凄く自分を責めてたのよ。隆君の体調が悪くなったのは自分のせいだって……昨夜何かあったの? 香織先生もそこらへんは教えてくれなくてさぁ……」


「い、いや……別に何も無いよ。急に頭が痛くなっただけだから……」


「そうなのぉぉ? ホントにぃぃ? なら別に良いんだけどさぁぁ……香織先生、昨日は隆君がうちに遊びに来るからって、前からとても楽しみにしてたからさ。それに隆君、毎年夏休みは同じ日に香織先生のところに行ってるでしょ?」


「えっ、何で志保姉ちゃんがソレを知っているの……?」


「ソレは香織先生が教えてくれたに決まってるじゃない!! 隆君は一年生の頃に私と一緒に行った同じ日に毎年来てくれるんだってね。それで香織先生は毎年その日は仕事があっても断って家に居る様にしてるんだよ。ただ今年は昨日休みを取った影響で隆君の『最後の試合』を観に行く事が出来なくなったって少し嘆いていたけどさ……」


 ガバッ!!


「わっ!? どうしたの、隆君!?」


 俺は急に立ち上がった。というか、立ち上がれた。


 そして俺の頬に涙が流れ、その涙は布団の上にポタポタと落ちて行き


 涙と共に俺は再び布団の上に倒れてしまった……







 ―――――――――――――――


お読みいただきありがとうございました。


『つねちゃん』の思いがなんとなく分かった隆

でも動けずまた倒れてしまい......


次回は『つねちゃん』視点で話を進める予定です。

どうぞお楽しみに(^_-)-☆

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