第29話 初恋の人の次に好きになった人

 とある日曜日、俺と高山、寿、石田の四人は近くの商店街に『七夕祭り』で発表するお芝居の衣装などの買い物に来ている。


 俺はこの日が来るのがとても嫌だった。


 何故かと言えば、恐らく今日の買い物で俺と寿との距離を少しでも縮めさせようとする石田達の作戦だと分かっているからだ。


 だから俺はあえて寿では無く石田と積極的に話をしている。

 まぁ、石田と積極的に話すのは寿から逃げる為だけの理由でも無いんだが……


 『過去の世界』の俺と石田との関係は小学生の頃はよく、くだらない理由で口喧嘩をしていた記憶がある。


 しかし中学生になるとお互いに成長し、口喧嘩をする事も無くなり、逆に女友達の中では一番話しやすく一番仲が良かったと思う。同じ『塾』にも通っていたくらいだからな。


 そして俺が石田に対して『恋愛感情』なのかどうなのか、よく分からない感情を持ち始めた中三の夏……


 石田は『事故』で亡くなった……


 俺の心にぽっかりと穴が開いた……


 石田が居なくなって初めて俺は石田の事が『好き』だと気付いた。

 まぁ、石田の方は俺の事をどう思っていたかは謎のままではあるが……


 『過去の世界』でそういった経緯があるので俺はあの時……中三の夏以降、石田と話が出来なくなってしまった分を必死に取り戻そうとしているのかもしれない……


 もっと言えば、俺は『この世界』で石田の『死』を阻止しようとも思っている。


 前に見たテレビで『タイムスリップ』や『タイムトラベル』をした場合、『過去』を変えるのはあまり良くないと言っていたと思う。また、いくら『過去』を変えようとしても、何らかの力が働き、『未来』は変えれないという説も聞いた事がある。


 でも俺の場合は『タイムリープ』……


 本人が子供の頃の自分に転移しているんだ。

 『この世界』に大人の俺がどこかに隠れて小学生の俺をコッソリと見ている訳では無い。


 という事は今が『現実』なんだ。


 俺の知っている『過去の世界の未来』なんか気にする必要は無い!!

 俺達は『この世界』で精一杯生きて、『真の未来』を創りあげていけば良いだけなんだ!!


 じゃないと、俺が『過去の世界』の初恋の人と結婚する為に『この世界』で必死に努力している事が無駄になってしまうじゃないか……


 俺が『この世界』に来た事が何の意味も無くなるじゃないか。


 絶対、意味はある!! 


 俺は『つねちゃん』と結婚する為に『この世界』に来たんだ。

 そして親しい友人達の『悲しい未来』も変える為に俺はここにいる!!


 と、俺はこの五年間、色々と考えた末、この様な自分に『都合の良い解釈』をする事にしたのである。


 説明が長くなってしまったが、そういう事で俺は最近、石田とよく話をしているのだ。幸い、俺には『つねちゃん』という『愛する人』がいる。


 だから俺が石田に対して『恋愛感情』を抱く事は決して無いだろう……

 たとえそれが『過去の世界』で『つねちゃん』の次に好きになった人だとしても……



 そんな俺と石田の会話を羨ましそうな顔で寿は見ている。


 その寿の様子を見ている高山も何か考えている様だ。


 高山、残念だな。今日の俺の動きは完璧だぜ。

 お前達が付け入る隙なんか無いんだよ。


 それに意外と石田も俺と楽しそうに話をしてくれている。


 本来なら、寿に気を遣って俺と話しをしていても、途中で話題を寿に振ったりするはずなんだが……


「ひ、浩美、ちょっといいかな?」


 おっ、遂に寿が動き出したぞ!?

 そして俺と高山から少し離れて二人だけで話をしている。


 石田が寿に両手を合わせてなんか謝っているみたいだな。

 きっと自分ばかり俺と話をしてしまっていた事に対して謝っているのだろう……


 でもなんかゴメン、二人共……

 俺が寿から逃げる為の作戦なんだから仕方が無いんだよ。


 それと本当に申し訳ないと思うのは『過去の世界』でパッとしなかった俺が、それも『高根の花』だった寿に対して、こんな『上から目線』的な振る舞いをしている事だ。


 『つねちゃん』と結ばれる為だとはいえ、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

 小学生相手にこんな仕打ちをしている俺はいつか『バチ』が当たるんじゃないのか?


 俺はたまにそう思い、不安になる事がある……



「あれ!? 隆君じゃない!! こんなところで会うなんて奇遇ね!?」


「バッ、バチだ!! って、いや、し……志保姉ちゃん!!??」


「バチって何の事? っていうか男女四人でお買い物なんて、なんか素敵な光景ねぇ……」


 なんか俺達の事をニヤニヤしながら見ている志保さんに俺は他の三人を紹介し、そして志保さんも自己紹介をしてくれた。


「ところで志保ちゃんも商店街に買い物に来たの?」


「そうなのよぉぉ!! 今度、隆君達の小学校で『七夕祭り』があるでしょ? そのお祭りにうちの幼稚園も参加させて頂く事になっててね、それで園児達には踊りを発表してもらう予定なんだけど、その時の衣装の材料を買いに来たの」


「えっ、一人で来たの?」


「まっさかぁぁ!! 園児全員の材料だから二人で来たわよ」


 二人……

 俺の脳裏に不安がよぎる……


 そして


「お待たせぇぇ、志保ちゃん!! あっ!!」


「つっ、つねちゃん!!??」




――――――――――――――――――


お読みいただきありがとうございました。


隆達四人で買い物の途中、まさかの志保さんと遭遇

そしてつねちゃんまで.....


遭遇した彼ら達は一体どんな会話になるのでしょうか?

色々と想像しながら(笑)次回をお楽しみに(^_-)-☆

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