第11話



さて、まずはイベント内容についてですが、これは戦闘系と見ていいでしょう。サービス開始から2週間足らずですし、それが一番無難でしょうから。まぁ、採取系の可能性もありますが……それなら特段準備は要りませんしね。


ということでイベント準備は戦闘系、それもPvPに重点を置いて進めることにします。

ショゴスは対物理職ならばまず負けることはありませんが、対魔法職があまりに貧弱です。レベル1ですら時間をかければ倒せるでしょう。つまり、現状必要なのは遠距離攻撃と魔法防御です。

とは言え遠距離攻撃は触手を伸ばせば可能と言えば可能。問題はその触手に魔法攻撃を受けるとマズイことですが。……やはり魔法防御がネックですね。

しかし……



「困りました、策がありません」



「なぁ、ちょっといいか?」



中性的な声に振り返ると、そこにはこれまた中性的な顔の方が。……またナンパだったら嫌ですね。



「はい、なんでしょうか?」



「俺はプレーン、種族は人間だ。唐突で悪いんだがお前はてけ、あー、ショゴスか?」



種族:人間。ほぼ最低のステータスに対し全てのスキル・魔法に適正のある、ショゴスの対極に位置する種族です。いわゆる「すっぴん」というやつですね。

一人称からして男性のようですが、なんで私の種族を知っているんでしょう?



「そうですが、どこで私の種族を?」



「おっと、警戒しないでくれ、……ってのは今さっきナンパされたとこだしそりゃムリか。」



あぁ、あれを見ていたんですね。それならナンパなんてバカなことはしないでしょう。信用してもいいかもしれません。



「あの時広場にいたんですか?」



「ん?あぁ違うぞ、掲示板で見たんだ」



……え?掲示板?



「知らないのか? 「てけりちゃん」って呼ばれて専スレまでたってるぞ」



掲示板どころか二つ名までついてるんですか……。そんなに目立ってましたかね?



「……掲示板は精神衛生上、見ないことにしておきます」



「そうか? 俺も二つ名を貰ってるが、そこまで悪いもんでもないぞ?」



「へぇ、プレーンさんの二つ名はなんて言うんですか?」



「おう、「厚化粧のすっぴん」だ」



その二つ名は本当に悪くないんでしょうか。正直、ネタにしか思えません。



「何故そんな二つ名を? 「すっぴん」は人間だからでしょうが…。」



「人間って種族限定以外の全スキル・魔法が取れるだろ? それならいっそ取得条件の判明してるヤツを全部取ろうと思ってな。だから「厚化粧」だ」



え、条件判明してるのだけで100種類くらいあるって聞いたんですが?



「それは……言っては悪いですが変態では?」



「てけりちゃんにだけは言われたくねぇなぁ…」



「?」



「あー、てけりちゃん、現在のショゴスプレイヤーって何人いるか知ってるか?」



え、呼び名はてけりちゃんで確定ですか?まぁ、いいですけど。

それはそうとショゴスのプレイヤー人口ですか。1陣は10万人、種族はおよそ200種類でショゴスの特異性を考えると…



「200人くらいですか?」



「1人だよ」



「……え?」



「1人だよ。」



「え?」



「ショゴスプレイヤーは現状てけりちゃんだけだ、今後もそうだろうがな。どこが身体のどの部分かすら分からないようなアバターを扱えるやつが100人単位でいてたまるか」



……そんなに使いづらいでしょうか?正直少し動きづらいことにさえ慣れれば、人間の身体より便利だと思うんですが。



「確かに初めは動きにくかったですけど、1時間くらいで慣れましたし慣れたら便利ですよ? 単純に手数が増えますし」



そう言って脇腹から腕を生やしてみせ、手を振ります。



「普通ムリだからな? ……てか、服を着てくれ。装備がないから直視しづらいんだが。」



おっと、そういえば魔法防御うんぬん以前に服をどうにかしなきゃですね。



「ほら、これ着ろ」



「え、良いんですか? 明らかに良い装備なんですが……」



「俺にドレスを着ろと?ダンジョンで見つけたはいいけど俺じゃ着れねぇしな。というか、俺のためにも着てくれ。目に毒だ」



「……ではありがたくいただきます」



UI操作で受け取ったドレスを直接装備します。金属光沢のある謎素材で織られていますが、CDのように光って綺麗です。綺麗ですが……これっていわゆるイブニングドレスってやつでは?



「これ、プレーンさんの趣味ですか?」



「いや待て違う!取り出したことが、そう、取り出したことがなかっただけで他意はないんだ!」



「……まあいいでしょう。いただいた身でとやかく言う権利もありませんしね」



「そう言ってくれると助かる。結局目に毒な気はするが……」



まぁ、中学から毎日マッサージを続けただけあって胸は大きいと自負しています。形も悪くないはずです。


それはそうとこのドレス……かなり悪さができるのでは? イベントで役立ちそうです。



「おっと、もうこんな時間か。そろそろ俺は行くけどいいか?」



んー、そういえばプレーンさんって二つ名持ちのトッププレイヤーの1人ですよね?ならあれを聞いておきましょう。



「あ、じゃあ最後に一つだけ。魔法に対しての防御方法で悩んでるんですが、何かアドバイス的なものはありませんか?」



「魔法防御かーっ!ショゴスはスキルも魔法もないからなぁ。ふーむ。あ、あれは知ってるか?魔法の核ってやつ」



「核…ですか?」



「あぁ、魔法ってよく見ると真ん中らへんに色が濃い部分があってな、そこを正確に弾くと魔法を相殺できるんだ。まぁ、あんな小さい的を見つけて直ぐに弾くなんて毎度できるわけじゃないし、例外もあるけどな」



ほほう? それはいいことを聞きました。



「成る程、貴重な情報をありがとうございます。」



「おうよ。あ、フレンド登録して貰ってもいいか?」



「構いませんよ」



プレーンさんとフレンド登録をしてわかれます。

さて、魔法防御の目処はたちましたがこれは相当練習が要りますね。幸いダンゴムシは魔法を使ってきますし、しばらくは聖域跡地で練習をしましょう。イベントに間に合うといいのですが…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る