2 関係者インタビュー
レビンプロジェクト最前線・怨念ハウスを追跡せよ
「うるさ! なにこのきっしょいテロップ、オメーのセンス終わってんなぁ」
「やばいほどうっさい。集中して観て」
「そうだぞ、イチヨ。
「ジョージ、オメー……このクソガキに
カニタマウンマイウンマイ村、上ウンマイの
<声ですよ、声。声がたまーにきこえるんです。いま、誰も住んでないのに、話し声とか……たまに女性の笑い声? みたいなのもきこえたりして。気持ち悪いですよね、この家は>
<夜中に前を通ると? おん。たまにィ、なんか二階の窓? にさ、人影? みてーなん? そういうの、見えたりするよね。真っ黒でェ、どういう奴か? わかんねーけど? おん。見える見える。じーっと立ってんの。あれ、幽霊じゃね>
<誰も近づかないわよ~、あの家は。不気味だし、変な噂が多いしでね~。まだほぼ新築みたいなものなのに、幽霊がどうとかっていわれはじめちゃってねぇ……>
と、いうのだが……
我々は、前にこの家に住んでいたという一家を捜索してみた。
「このナレーション、誰? オバケビデオ系のそういう人かなにか?」
「街中で出会ったチャプシナート君です」
「誰!?」
上ウンマイ村役場で話をきいてみたところ、前に住んでいた一家、仮にAさん一家とするが、その家は彼らが建築家に依頼して建ててもらったものだというのだが、一年もたたずにAさん一家は離散した……
そして、そのあとに噂をききつけた某民放番組制作ギルドが夏の心霊特番を編成、この家に取材をおこなった。番組名は「怨念検証24時」……
だが。(ガァーン!)
「なんやねん」
「
「あるある。なんかいきなり画面がネガ調になって、どんどん縮小していくやつ」
その番組は放送されなかった……お蔵入りとなってしまったのだ。
なぜ。(ガァーン!)
「いやそこはよくない? はよ先に進んで」
当時、この番組の制作にたずさわった方たちとコンタクトを取ることに成功。話をうかがえることになった。
まずは、ディレクターDさんの証言からご紹介しよう。美人やねェ!
「いきなりどした? Dさん、オッサンじゃん。チャプシナート君も男だろ」
「怖いのばっかつづいたらイチヨねーちゃん観るのやめるから、お茶目してもらいました」
「お茶目の方向性、ほかにもっとあるだろ」
<カニタマウンマイウンマイ村にやばい家があるってきいたんですよね。いい家ですよ。なんでも、そこに住んでた一家が離散したとか。旦那さんとかはもう、発狂しちゃったとか。これは数字取れるんじゃないかと思いましてね、特番を組んだんですよ。いい家ですよ。まぁあの、観客とゲストがいるスタジオをセットして、で、生で家を調査するクルーをモニターで流すって感じ……だったんですけどね。いい家ですよ>
そこでいったい、なにが起こったのであろうか?
<寒いんですよね、家のなかが。夏ですよ。夏なのに異常に寒くて。いい家ですよ。もうリポーターとかも震えちゃって。まだ全部見てまわらないうちにスタッフの女の子も泣きだしちゃってですね。男でも外にでちゃう奴とか。いい家ですよ。たしかに気持ち悪い……長くいられない家ですよね。ずーっと誰かに、っていうか。たくさんの人に視られてる感じ。声とか、ラップ音っていうんですか。いい家ですよ。そういう起きるはずのない物音とかは
リポーターの友人Eさんは語る。美人やねェ!
「なんなのチャプシナート君?」
<彼女ね、霊感あるって昔からいってたんですよ。家の? 心霊番組のリポートが次の仕事とかって、いうふうには。きいてたんですけどね。収録後に彼女と会ったんですけど……様子がおかしくて。すごくおびえてて。常に震えて、で。たまになんだろう、誰かとブツブツ喋ってるんですよね。だとか、わたしと会話してる最中でも、いきなりどこか一点を見詰めて、動かなくなっちゃったり。四日後くらいですかね、彼女がいきなり暴れて? マキナ・ビトルに飛びこんで……
「ついでに死亡事故は本当にあった。村兵の調書に不可解なことが書かれててな。リポーターを轢いた側は、女なんて見えなかったっていうんだ。大通りなのにだぞ。いきなりドンってぶつかったって証言してる。だが、事故を見ていた周囲の村人どもは叫びながら走る彼女を見ていた」
「こっわ。無理」
「いやいや怖くないよ。科学で説明できちゃうから、そういうのは。リポーターはやばい幽霊がいるっていうプラシーボ偽薬効果でノイローゼになったんだろうし、轢いたほうはショックで記憶が改ざんされてるだけだね」
スタジオにいたFさんの証言。かわいいね!
「かわいないわ、デブのオッサンじゃねーか! ってコイツ、トゥーサンじゃね!?」
「トゥーサン、心霊特番のスタジオ側に出演してたんだよ。喫茶店ほっぽりだして、なにやってんだか」
<家の下見してるディレクターさんに偶然、会ったんだよね。そのご縁で、スタジオの収録に招かれたけど、あれはねぇ……すごかったな。ちょっと。だって、クルーのほうがあんなことになっちゃって、見てるコッチもパニックだよ。モニターには霊が映っちゃったんだもん。……しかも、スタジオでも起っちゃったでしょ。観客がセットの暗幕に顔が浮かんでたとか騒ぎはじめて、しかもバタバタバタバタ変な音が鳴ってもう……ああ、思いだすだけで怖い>
Fさんは我々に一枚の写真を見せてくれた。騒ぎの最中、スタジオで観客のひとりが撮影した写真だという。それではご覧いただこう。
……おわかりいただけたであろうか。
セットの壇上を捉えた構図、観客たちの頭が手前に見える。モニターに映されているのは家を調査するクルーのライブ映像だろうが、ひどく乱れているのがわかる。あちらも混乱のきわみに達していたころである。
焦った表情を浮かべる出演者たちの背後……真っ暗の暗幕に浮かびあがる白いモヤのようななにか。
「ぎゃー、おわかりいただけた!!」
「ちょっとイチヨねーちゃん、なに布団に潜りこんでんの! 目をそらすな、
「やだー! もうやだー!」
「ううむ、こりゃあ……顔だなぁ」
これは人の顔のように見えないだろうか。写真を縮小するとよりわかりやすい。モニターの右側、背景の一面が目を見開いた人間の顔、上半分なのである。その表情は怨念やなにかというより、なにを考えているかわからない、しかし漠然とした邪悪には感じないだろうか……
「こりゃあ怖いなぁ……不気味ってもんじゃない」
「心霊写真ってのはさ、たいていが多重露光なんだよねー。これもそうだよ、見て。背景が黒色でしょ? 黒は光が反射しないから、画像を重ね映ししやすいの」
「な、なるほど。だが家だけじゃなくて、スタジオにも影響を及ぼすとはなぁ……よくこんな写真まで仕入れたもんだ、やるなシニー」
「レビンね。もっとほめていいよ。こらあ、イチヨねーちゃん!」
「でないよ、もう布団から。早くとめて、それ」
「布団カタツムリを続行するなら、布団に火をつけちゃおっかなー」
「
ディレクターのDさんに問題の映像について、もう少しきいてみた。
<お蔵入りの映像っていうのは、どこの局でもどこの映像系ギルドでもあるものなんですよ。理由はさまざまですが、それがいわゆる霊の場合……いい家ですよ。こういうのは妙な不幸が相次いだとか、
Dさんはウンマイ村役場からマスターテープの返還を求められて、ほっとしたと語ってくれた。そうして我々は心霊特番の映像を手に入れたのだが――お気づきであろうか。Dさんの奇妙な点に。
「いい家ですよって何回もいってるよな、コイツ……」
「そうなんだよね。ジョージがマスターテープ返還交渉にいったときも、こうだった?」
「ああ、いわれてみれば。会話の途中、ブツブツたまになにかいってた。いい家ですよっていってたのかもしれない」
Dさんがいい家ですよと繰りかえしていることに、我々は気がついた。その言葉を発するときだけ小声で、そしてまるで機械に喋らせたように棒読みなのだが、これは
このインタビューの翌日、Dさんは自宅で遺体で発見された……(ガァーン!)
「ガーン! こえー! ダメダメ、これマジだよマジのやべーやつ!」
「あのディレクター、死んだのか?」
「うん。ギルドも閉鎖してた」
「いい家ですよって、オバケがいわせてんだよー! こえー! どうしてくれんだよ、もう寝れねーよ今日!」
「落ち着いてよ、イチヨねーちゃん。いい家ですよじゃなくて、ご飯ですよっていってるのかもしれないじゃん。はい、怖くない!」
「ご飯ですよ!? いやそれはそれで意味不明すぎてメチャクチャこえーわ!」
ギルドや放送局が教会に依頼して、派遣してもらった
それでは、心霊特番・怨念検証24時の実際の映像をただいまよりご覧いただこう。
「え、流れんの!? 流れんの!?」
「ダビングしたのか。マスターはどうした」
「ここにあるよー」
「ちょちょっと待って、それ手元にあるとやばいみたいなの、死んだディレクターがいってなかった? やめて、ウチにそんなの持ちこむのやめて?」
「もう! さっきからなにビビってんの! 幽霊なんてこの世に存在しないの、もっと大人になってよ」
「なあ、レビン……」
「なにさ、ジョージ。いま説教してんだから黙って――」
「え、なに? ふたりして黙っちゃって、どうしたの? どうしたの?」
「……風呂場のドア、さっきまで開いてなかったよな」
「……うん」
「……なんか、いたよな」
「……うん」
「……白い顔が半分だけ、
「……ぷ、プラズマでしょ」
「ぶくぶくぶく!!」
「ああ! 泡吹いてる、ちょっとイチヨねーちゃん! 大丈夫、磁場とかそういうので説明できるから、コレ! 幽霊とかじゃないから!」
この映像を見て、皆さまになにかしらの不調が起こっても、当方は責任を負いかねます。ご了承ください……
ダビングされた「怨念検証24時」がはじまった――
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