暴走

 なんで、なんで……なんで!


「なんで……なんで当たらないの!」


 私が撃った銃弾は、あの怪人に当たるギリギリのところで小さい黒い水晶の盾によって阻まれる。


「当たってよ……当たれよお!」


 いくら撃っても当たる気配がない。


 鎧の怪人は黒い水晶で作った椅子を座り、頬杖をついてこちらを見ていた。


『もう、いいよ。』


 怪人がそう言うと、私の足が冷たくなっていく。

 スーツを着ているけど、下半身の感覚が全くない。

 黒い水晶が私の動きを封じていた。


「なに、この水晶……冷たい……!」

『むやみに触らないでよ?他の部分まで凍ったせいで俺が痛めつける部分が減るなんて……味気ないからさ。』


 これ黒い水晶じゃなくて、氷!?

 だめ、全く動けない!

 でも……


「まだ、手は動く……!」


 ……!


 トリガーが引けない、凍ってる!


『無駄だよ、銃身は凍らせた。それはもう使えない。』

「はあ、はあ……」


 ……仮面の奥では嘲った表情をしているのだろうか。


「ふざけるな……怪物がああ!この氷!くそっ!くそおおお!!」

『アハハ……無理だってば。叫んで氷がどうにかなるわけないでしょ?』


 怪人の右手の人差し指が楽しそうに一定のリズムを刻んでいる。


『ほんっと変わんないね、イオちゃん。昔からそうだ。自分にとっての理不尽にぶつかるとすぐわめくぅ。』

「黙れ!そう、呼ぶな!」


 私は怪人に向かって銃を投げた。


 ガキっ


 それは黒い氷の盾に阻まれることなく、怪人の頭に当たった。


『ハハハ……そうか、それが君の……「答え」か……イオちゃん……』


「おい、東雲!」

「勝手にどこ行ってたの!」

「東雲さん……足が……」


「みんな……!」


『……』


「みんな、村主は……」

「あいつは今、身動きが取れない状態だ。」

「ごめん、みんな。あの怪人に……私は一撃も与えることができなかった……」

「きた……」

「え、」

「バズーカのチャージが溜まったッ!」


 ガチャっと音を立てて王城さんがレーザーバズーカを構えてトリガーを引いた。


「今度こそ……消えろ化け物ぉぉっ!!」


 大きなエネルギー弾はあいつに向かって飛んで行く。



 ……気のせいだろうか。

 その時に見た鎧の兜から一筋の涙がこぼれたように見えた。


 そして鎧の怪人は次の瞬間、大声で笑った。


 笑った。


 大きな声で、


 笑った。



 あの涙はきっと気のせいだろう。



 ♢♢♢



(ハハハ……!)

(わかった。わかったよ、わかった。)

(が君の出した「答え」なら、俺はそれに応えよう。)


『ふん!』


 フェルゴールの掛け声と共に黒い氷の盾が現れた。

 黒い氷の盾は、直進してきたレーザーバズーカのエネルギー弾を軽々と防いだ。


「防いだ!?」

「そ……んな……」


(まだだ……このエネルギーも……)


『凍りつけ!』


 黒き氷がレーザーバズーカによって放たれたエネルギー弾を包み込む。

 やがて、黒氷はより大きな塊となり、それをフェルゴールが蹴り返した。


 黒き氷塊はがガーディアンズに襲いかかる……!


「嘘だろ……!」


 飛鳥井が思わず呟いた。

 芹澤が声をかける。


「とにかく東雲を守ろう!」

「あ、ああ……!」

「王城、お前も……」


 芹澤が王城に声をかけた。だが、意気消沈した王城には聞こえていないようだ。


「バズーカが、そんな……」

「王城!」

「!え、ええ……」


 王城が我に返り、飛鳥井と芹澤と共に東雲を守るよう前に立った。

 そして、飛鳥井と芹澤がそれぞれ武器を構え、黒い氷塊を壊そうと試みた。

 だが、それをものともせず黒い氷塊は迫り来る……!


「ちっ、ダメか!」


 無情にも彼らに黒い氷塊は彼らに直撃した。


「ぐあああああ!」

「くっ……!」

「きゃあああ!」


 スーツが無ければ死んでいただろう。

 だが、三人とも立っていることがやっとという状態で気を緩めればすぐにもその場に倒れてしまいそうな状態だ。

 さらにフェルゴールの能力による寒さが彼らを襲い、東雲に至っては寒さのあまり手足の感覚がなく、もう意識を保っているのがやっとだった。



 ♢♢♢



 他3人がイオちゃんを庇おうと必死に抵抗しても……無理でしょ。


 さて、部外者はさっさとくたばってもらおっかな。


「くそ……」


 飛鳥井なんかが振り絞るようにほざいてるみたいだけど。


 俺は椅子から降りて、手をスっと前に出す。

 そして……

 黒い氷は地を走り、やがて3人の前で大きく鋭い氷柱つららとなり、それぞれを切り裂いた。


「ぐううああああああ!」

「がはっ……!」

「きゃああああああああ!」


 ああ、最っ高!!

 その叫び声もっと聞かせてくれぇ!

 この力、この快感!

 もう、ハハハ……!

 まるで……麻薬だ……!



『アハハハハ!んニィ……ハハハハハ……!ハハ、ハ。』



 ドクン



『ハ、ぐ、ギががが、、あああ……』



 苦しイ……



 ドクン……!




 アレ……?




『グ、が、ぎガ……ああばああああ!、?』



 ドクン!



『バ、、、バ……ばぎゃああああああああああああ、あああああああああああ!!!!!!!!』



『……!!!』



 ジュワゥウウ……コポコポ……



『ンにゃ……にゃは、にゃはははは!!!!』


 力が……溢れる……

 流動する溶岩のように熱く俺の体の中で暴れまわっている……!

 これはなんだ……この抑えられない力はぁッ!

 どれだけ抑えようとしても、さらに強い力に染められる!


 ああ、そうか!


 力は抑えるものではない!

 力は解放してこその力なのか!

 真価を発揮することこそに……


『意味があるッ!!!』



 ♢♢♢



「なんだこれ……」


 芹澤が思わず呟いた。


 目の前の怪人の様子がおかしい。

 怪人の周りではオーラの様ななにかと、黒い氷とそれによって引き起こされる竜巻のように暴れる冷気をまとっている。

 強力な力が溢れでているのが、視覚的にも、スーツ越しでもビリビリと強烈に伝わってきた。

 だがその反面、当の怪人は狂ったような叫び声と笑い声、そして泣き声が入り交じったような叫声をあげていた。


 芹澤が身をもって感じたのは"絶望"の二文字。


 こんな時に……足が……動かない……!


 怪人の鎧の身体から黒氷が四方八方へと走る。

 それはすぐさま三人を襲い、言葉を発する間もなく、一瞬で黒き氷の中へ閉じ込められてしまった。



 ♢♢♢



 やがてあたりは銀世界とは程遠い、世界の終わりを思わせる黒くてついた世界が広がっていた。



『んニィひひひ……』



 彼を止めようとした五人の戦士は全員凍りついてしまった。



『もっと、もっと……この世界が俺の力でいっぱい染まりますように……!』



 誰も、彼を止めるものはいない。



 パキィン



『なに……』


 音のした方を振り向いた。


 すると、彼の作った黒い氷壁はいとも容易く砕かれていた。


「やはりか……」



 そこに立っていたのは、白スーツを着たエルフのような女だった。

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