第28話 朝練
夜明け前は静寂だ。世界は
そんな暗青の世界を、俺はアルジェントに乗って学院へと向かっている。何故か? マイヤーたちと朝練をする事になったからだ。
俺が正義には力が必要だと言ったばかりに、ショーン、マイヤーに泣きつかれ、だったら、とカルロス、アインを加え、五人で朝練をする事になったのだ。
「リオナさんはついて来なくても良かったんですよ?」
俺は横をシエロに乗って飛ぶ、リオナさんに話し掛ける。
「いえ! 朝練には興味がありますから!」
人も魔物も寝静まる夜明け前だと言うのに、リオナさんはハキハキしている。元気だなあ。
太陽の先端が地平線に掛かり、空の端が明るくなり始めた頃に俺たちはネビュラ学院に着いた。
「おはよう!」
「おはようござい……ます!?」
ネビュラ学院の竜舎に到着し、アルジェント専用の竜房にアルジェントを連れていこうとしたら、竜舎から厩務員が出てきて、しかもそれが学生会会長で驚いた。
「お早いですね会長」
「そう? でも厩務員は皆このくらいから仕事してるよ」
竜舎内を見てみれば、他の厩務員たちが寮暮らしの学生たちの竜房で竜に餌をあげていたり、通いの学生の空の竜房を掃除したりしていた。こんな朝早くからご苦労な事だ。
「君も今日は早いじゃないか?」
「ええ、まあ。友達の朝練に付き合う事になりまして」
「ふふ。一年生はやる気満々だね」
そういう訳じゃ無いんだけどなあ。
リオナさんと連れ立って学院外の原っぱに行くと、マイヤー、アイン、ショーンの三人は来ていたが、カルロスはまだのようだ。
「カルロスはまだか?」
「あいつ、時計持ってる癖に遅刻とか良い度胸ね!」
マイヤーは朝からお怒りのご様子だ。それはそれとして、俺は改めてリオナさんを三人に紹介し、来ないのなら先に始めよう、と柔軟を始めていると、
「おう……、おはよう……」
カルロスがやって来た。滅茶苦茶眠そうである。
「遅いわよカルロス!」
「こんな朝早くに起きられる訳ないだろ」
責めるマイヤーに言い訳をするカルロス。一触即発の二人を、リオナさんが宥める。
「まあまあ、こんな朝早くからケンカもないでしょう。それより、こんな事していては朝練の時間がなくなりますよ」
リオナさんの言葉に冷静になるマイヤーと、
「え? リオナさん? 何でここに?」
事情を知らないカルロスは、説明を求めてキョロキョロするが、何か面倒臭くて誰も取り合わなかった。
俺は木剣を中段に構える。それに対してカルロスはダガーを二本、両手に逆手で構えている。
「カルロスとは初めてだな」
「ああ」
互いに距離を縮めつつ、攻撃のタイミングを計る。先に動いたのは俺だ。一気に距離を詰め、木剣を喉へ突く。それをカルロスは体勢を崩しながらダガーを交差させて上へと受け流す。
俺は上に持ち上げられた木剣を手元に引き戻すと、ダガーを上に持ち上げた事でがら空きになった胴に、ドンと木剣を薙いで食らわせた。
「ぐうッ」
腹を抑えて膝を突くカルロス。
「ブレイド、ちょっとは手加減しろよ」
「してるよ。一回防御させただろ?」
「あれは胴を空けさせる為のわざとじゃないか」
ちゃんと理解していたようだ。
「次は僕とやって貰おう!」
次に声を上げたのは、ショーンである。互いに剣を中段に構える。見ればショーンの剣が替わっていた。それはそうか、俺が真っ二つに折ったんだから。剣は装飾はなく、武骨な印象だ。悪いが、あの時の剣より安そうだ。
「いくぞ!」
ショーンは声を張り上げ、上段に振り上げると、
「うぐッ!?」
俺はその大きな隙に、木剣を薙いで腹を打つ。
「ショーンさあ、何でいつも剣を振り上げるの? 隙だらけなんだけど?」
「え? そうかい? 僕としては身体を大きく見せて、気合いで持って威嚇しているんだけど」
「いやそれ、俺に全く通じてないから」
ショックを受けるショーン。
「ブレイド殿は毎日お父上であられるランデル殿から、凄い威嚇を受けて稽古していますから。同世代の威嚇は通じないと思いますよ」
リオナさんの言葉に、ショーンは更にショックを受けていた。
「ブレイド殿、次は私と対戦しましょう!」
言って木剣を横に構えるリオナさん。俺は木剣を顔の横へ。
「ぜいあッ!」
「ハッ!」
互いに剣気をぶつけ合い、剛剣を振るう。ガシィンと音が弾け、ぶつかり合う木剣と木剣。引けば切られると剣を剣で押し合い、その押し合いへし合いはしばらく続いたが、このままでは勝負が付かないと両者一旦その場を離れ、距離を取って剣を構え直す。
息が整った所で、また両者剣の距離に飛び込むが、今度は押し合いではなく技の出し合い。下、斜め、横、斜め、突き、突き、上、と連続で切り結ぶ。更にかわし、受け流し、避け、いなし、受け止め、突き返す。剣速はどんどん上がっていき、
「ハッ!」
斜め下から切り上げた俺の木剣が、リオナさんの木剣を切り裂く。しかしリオナさんもさるもの、直ぐ様木剣を生成し直すと、俺に食い付いてくる。が俺はそれを木剣で巻き取ると、リオナさんの手元から木剣を弾き飛ばした。
「参りました」
「おお~~!!」
何でか分からんが、この対戦を見ていた四人から歓声が上がった。いや、お前らも朝練しろよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます