第362話二人の時間

「ハルジオン、入ってもいいかな?」


クリスは衝立の前に立ちベッドに横たわているであろうハルジオンに声をかけた。


「え!?も、もちろんです!ここ、クリス様のベッドですよね…私今すぐに退きますから」


起き上がろうとするハルジオンの声にクリスは慌てて声をかけて中に入った。


「駄目だよ!ハルジオンは寝てて、このベッドはハルジオンのものでもあるんだから問題無いよ」


「私の?え!いや…それは…」


「え…いや…なの?」


クリスはハルジオンのそばに腰掛けて小さな手の上に自分の手を重ねた。


ハルジオンはピクッとなりながらもその手をどかそうとはしなかった。


「ハルジオン、僕の事好きだって言ってくれたよね?それで僕も好きだしなんの問題もないと思うんだけど…」


「で、でも私とクリス様とでは釣り合いが…」


「ははっ!それ姉さんとカイル様の前で言える?」


クリスは今更と笑い飛ばした。


ハルジオンは何も言えなくなる。


「うっ…で、でもローズ様は貴族ですから…」


「あれ?言ってなかったけ?ハルジオンも貴族だよ」


「は?貴族?」


「うん、王都で手続きは済んでるよ。スチュアートさんの養女になってるから」


「スチュアートさんの!?」


「ちゃんとハルジオンのお母様にも許可は取ってるよ。お母様もそれがいいと言ってくれたからね」


「お母さん…」


「そのうちお母様も病状がよくなって体力が戻ったらこっちに呼ぶ予定だったけど…少し急いだ方がいいかもね。やっぱり娘の晴れ姿は見たいよね」


「私が貴族…」


ハルジオンはクリスの言葉が頭に入ってこない…


「まぁ別に今までと何も変わらないよ。前の事件もあったからハルジオンに変な危害が及ばないようにとの手配だったけど…スチュアートさん…まさかこうなるとわかってて?」


クリスはこの話を提案された時にスチュアートさんがこうなる事を予期していたとしか思えなかった。


「まぁいいか、それで他に問題は?なんでも答えるよ」


クリスはゆっくりとハルジオンの手を持ち上げた。


ハルジオンはクリスの顔を見た後にふっと顔を曇らせた。


「どうしたの?」


ハルジオンの浮かない顔にクリスが心配すると…


「これを…見てください…」


ハルジオンは覚悟を決めると羽織っていた上着を脱いで後ろを向いた。


「な、なにハルジオン!嬉しいけどまだ返事が…」


クリスは肩を晒して下着も外し後ろを向いたハルジオンを直視しないように視線をずらした…しかし目の端っこにはうっすらとハルジオンの白い肌が見える。


「クリス様…見てください」


ハルジオンの沈んだ声にクリスは何かおかしと思いハルジオンの背中を見つめた。


そこには鞭で叩かれた様な傷痕がハルジオンの小さな背中に無数に付いていた。


「ジュリア様に…傷つけられた時の痕です…すみません隠していたわけではないのですが…まさかクリス様が私なんかを…と思っていたので…やっぱり私はクリス様に相応しくないんです」


ハルジオンはそっと上着を羽織ろうとすると…クリスがその手を止める。


「ハルジオンって……酷いよね」


怒った様な声を出しながらクリスが後ろから包み込むように抱きしめた。

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