第339話気持ち

「ク、クリス様…」


ハルジオンがクリスの腕の中で固まっていると


「ハルジオンは僕とでいいよね?」


クリスはそんな戸惑うハルジオンには気づかずにロイ王子とカイル様から奪うようにハルジオンを遠ざけだ。


「おっとこりゃ…ひょっとして…」


ロイがニヤッと笑って離れていくクリスとハルジオンの背中を見つめた。



クリスは自分の馬にハルジオンを乗せようと腰を掴むと…


「いいかい、あの人達の馬に乗るくらいなら僕が連れていくからね」


「は、はい…」


「とくにロイ王子には気をつけて!あの人本当に危ないからね!」


下を向くハルジオンの顔を覗き込むと…


「聞いてる?」


クリスの顔が間近にくる。


「わ、わかりましたから!クリス様…近いです…」


腰を持たれているので逃げることもできないハルジオンは顔を逸らすのが精一杯だった。


「なんか…顔が赤いけど本当に大丈夫?熱かな…」


クリスはハルジオンのおでこにヒタッと手を当てた。


「はぁあ!」


ハルジオンが裏返った声をあげると


「ほら!そこイチャついてないで早く馬に乗って行くぞ!」


さっさと馬に乗ったカイルとロイがモタモタしているハルジオン達に声をかけた。


「イチャついてなんかありませんよ!全く…自分が一人だからってせっかちだな…ハルジオン乗せるけど平気?辛かったら言ってよ」


無言で頷いたハルジオンをみてクリスは首を傾げながらも馬へと乗せた。


そして自分も跨るとハルジオンの腰を抱く。


「ク、ク、クリス様…なんか近くありませんか?」


ハルジオンの上擦った声にクリスは自分の腕を見ると…


「いや…馬は動くからね、これくらいしっかりと固定してないと危ないよ?」


「そ、そうですか…」


「ハルジオンだって他の人の馬に乗ったことあるだろ?」


「はい…カイル様と…でもその時はこんなにも近かったかな…」


ハルジオンの言葉にクリスはピクリと反応した。


「そう…カイル様の馬に乗ったんだ…」


「クリス様?」


クリスの少し低くなった囁き声にハルジオンは後ろを振り向こうとすると…


「はい、ハルジオンはしっかりと荷物持ってね。僕は君が落ちないようにしっかりと抱いてるからね」


そう言うとさらにハルジオンをグイッと自分の方に寄せた。


「ひゃ!ひゃい!」


ハルジオンはギュッと荷物を抱きしめた…



そんなクリス達を後ろから見ていたロイは…クスクスと笑っていた。


「クリスもやる時はやるな…」


「でもクリスのあの顔、無自覚かな?それにしてもハルジオンの困った顔…クックッ…」


カイルも堪らずに笑いを噛み殺す。


「じゃあ行きますよ!先頭にカイル様お願いします。次にローズ姉さんとキャシー様、ロイ様、最後尾に僕とハルジオンで」


クリスがそんな二人の思いには気づかずに順番の指示を出すと


「クリスが最後か…見てないからってイチャイチャするなよ!」


ロイがからかうと


「そんな事するわけないじゃないですか!」


クリスがバッサリと否定する。


「そんな事…」


ハルジオンはシュンと肩を落とすと


「あーあ…ロイ余計な事言うなよ」


カイルがからかったロイを注意した。


「いや…まさかあんな反応が返ってくるとは、ハルジオンに悪い事したなぁ」


ロイがもう余計な事は言うまいと前を向くと…


「ハルジオンごめんよ、王子の言った事は気にしなくていいからね」


クリスが優しくハルジオンに声をかけた。


「はい…」


しょんぼりとしたハルジオンを見ているとクリスの胸がザワザワしだす…


なんだろ?


クリスは一人首を傾げ胸をさすった…

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