第265話大樹の果実

「しょうがない、俺が行くか」


チャートはローズに馬の手網を動かないように木に括りつけた。


「ここにいるんだぞ」


ローズを馬の上に残すと、魔獣に向かっていく。


「退きなさい」


チャートが兵士達に声をかけると剣を引き抜いた。


「君には悪いけどこの実は娘にやるんでね」


チャートが魔獣を睨むと


「いや…あの実ってもう国の物だから私食べられないんじゃ…」


ローズがバルトに囁くと


「あの父親ならそんなのもみ消すんじゃないか?それに俺に国の法律なんぞ関係ないね」


バルトは木の上を眺めた。


チャートがさっさと魔獣を片付けようとすると…


「あっ!いたぞ!!」


「ローズ!チャート様!」


ロイとカイルが追いついた。


「チッ…」


「え…い、今舌打ちしませんでしたか?」


ロイがチャートに聞くと


「いや、そんな事はないぞ。ほらそれよりこの魔獣をどうにかしないと…しかしこの国の兵士はどうなってるのかな?鍛え方が足りないのでは?こんな弱い男達には私の娘は絶対にやれんなぁ…」


チャートが呟いた。


「おい!お前達こんな魔獣一匹に何をしている!」


カイルが兵士達に喝を入れた!


「は、はい!すみません、突然の事で少々油断しました!」


「チャート様はお疲れでしょう?ここは我ら兵士が対応しますのでどうぞ安心して見ててください」


カイルが笑いかけると


「そうかい?ならお手並み拝見させてもらおうかな…」


チャートは剣をしまうとローズとの間に立って仁王立ちした。


「と、とにかく今は魔獣だ、そっちに集中しろ」


「大樹を狙っています。近づけさせるな」


兵士達は魔獣の足を狙って攻撃を仕掛ける。


カイルが指示を出しながら魔獣の動きを鈍らせていくと…


「皆、引け!」


兵士達を下がらせるとカイルが一人魔獣に向かった。


「おりゃー!」


カイルらしからぬ気合いの雄叫びで魔獣の脳天を剣で突き刺した!


大きな体の魔獣がドッシーン!と倒れるとしばらく痙攣してそのうちに動かなくなった。


「はは!どうですか?この国の兵士達もやるでしょう?」


ロイがチャートを見ると


「おーこれが大樹か?凄いなぁ…」


チャートはカイルの活躍を見ることなく大樹を見ていた…


「チャ、チャート様?」


「む?悪い悪い大樹が気になって!ああ、倒したんだな、しかしたった一匹に時間がかかるねぇ…」


チャートが笑うと


「うちのローズとクリスならもう少し早いかなぁ?」


「お父さんたら…そんなの無理でしょ…」


ローズは恥ずかしくて思わず縮こまっていた。


「なんか…チャート様怒ってますか?」


ロイとカイルが伺うように聞くと


「ん?そんな事ないぞ?なぜ王子と公爵家のご子息に腹を立てることが?何か身に覚えがある事でも?」


チャートがジロリと二人を見つめると


「い、いえ…なぁ?」


「ああ」


二人は目を逸らした。


「まぁそれよりも今はこの実です」


チャートは冗談だと大樹を見るが


「あれは本気の目だったよな?」


「ああ、なんか奥底までみられてる気分だった…」


二人は変な汗が背中を伝った…


「その実はもういつなるか分からないんですよ」


ロイが説明すると


「いや、ローズとバルトくん曰く今実がなっているらしいぞ」


「なに!本当ですか!」


ロイがローズとバルトを見ると…


「あれ?バルトは?」


馬の上にはローズしかいない。


「あれ?」


ローズは周りを確認するがバルトの姿は何処にもなかった。

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