第257話クレアさん

「あ、いや…私は…」


チャートは父親だと説明しようとすると


「何か?」


クレアさんが圧をかける。


「いえ…なんでも…」


「えっ?チャート様?」


カイルが驚き声をかけるが


「い、いいんだ…ほら行こうかみんな…ローズが起きたら大変だ…」


チャートは引き攣りながら笑うと、くるっと向きを変える。


「し、しかし…」


ロイが渋っていると


「ロイ様…ここを通りたいのであれば私を倒してお進み下さい…まぁ王子として命令してもよろしいですが…その代わり、そんな事すれば私にも考えがございます。私数十年とお仕えしてきましたが、ここのメイドの子達を大体と言っていいほどの人数を育ててきました…」


クレアさんが突然変な事を言い出した…しかし恐ろしくて口を出せずロイ達は大人しく話を聞いていると…


「ですので私にも少なからず慕ってくださる方々がいらっしゃいます…その方達に協力してもらい王宮内の仕事を全て放棄させていただきます…まぁその程度の抵抗しか出来ませんが、それでもよろしいのならこのままお進み下さい…」


スっと扉から少し離れると…


「い、いや…大丈夫だ…一週間反省してからまた伺うよ…ローズによろしく…」


ロイは扉から一歩下がった…そしてガブリエルを睨むと


「お前も諦めろ!ほら!帰るぞ!」


ガブリエルを引きずって急いでカイルとそこから離れた。


「あ、あのクレアさん?」


スチュアートさんがそっと声をかけると…


「あ、スチュアートさんは少しお話がありますので残って下さいね」


クレアさんがピクピクとこめかみをひきつらせながら微笑んだ。


「あっ…は、はい…」


スチュアートは大人しく頷くと


「あっ…じゃあ俺はレイン陛下のところに行って来るので…」


チャートは逃げるようにローズの部屋を離れた。


スチュアートさんはクレアさんからローズ様を守れなかった事のお説教と愚痴とクレアさん自身の後悔と反省を小一時間くらった。


その後にスチュアートさんからチャート様をローズの父親だときいて慌てて謝りにチャート様の元を訪れた。

レイン陛下と談笑していたチャート様を見つけると


「申し訳ございません!」


慌てて深く頭を下げた。


クレアさんの態度にチャートは笑うと


「いえいえ、クレアさんのような方がローズのそばにいてくれたのだと思い安心致しました。娘をあんなに思って下さり大変感謝致します」


チャートに頭を下げられて恐縮すると


「でも、隣国の王子を追い返す殺気などクレアさんはメイドにいておくのはもったいないですね」


チャートがクレアさんをマジマジと見つめると


「もし興味があれば指南致しますので仰って下さい」


チャートの提案にクレアさんは驚くと…


「私のようなおばさんでも…大丈夫でしょうか?」


伺うように聞く。


「ええ、鍛えるのに遅い事などないと思いますが?」


「なら是非ともお願い致します…この度の事…何もできない自分をこれ程悔しいと思った事はございません…私はなんの力もない女なのだと改めて思い知らされました…」


クレアさんの言葉にチャートは驚くと…


「一国の王子二人を簡単に追い返す力がありながらな何も無いとは…」


チャートは先程の勢いよく啖呵を切っていた事を思い出し苦笑してしまった。

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