第24話 【アングレラ帝国へ】
世界最強の兵器はここに!?24
著者:pirafu doria
作画:pirafu doria
第24話
【アングレラ帝国へ】
カミナとの騒動後は問題なく馬車を進めることができ、無事にアングレラ帝国の領土へと入ることができた。
検問ではバイズは商人のフリをして、パト達は馬車の中に身を隠した。馬車の隙間から外を見渡すと、もうそこは別世界。
草木の一切ない砂漠のような土地。
岩などが地形を作って入るが、植物がないことで視界を遮るものはない。ずうっと先に見える建物が小さく見えるほどに、見晴らしが良い。
その光景にフルート王国時代の自然溢れる大地の面影はない。
ただただ砂や岩で出来た道をパト達は進んでいた。
数年前にこの地に存在していたフルート王国は第魔法の失敗により、大爆発と共に大量の魔素が放出された。
それを原因にモンスターや魔素による被害が増加し、王国内は混乱状態になってしまった。そして反乱勢力と王国の激突の末、王国が滅び、新たな国が出来上がった。それがアングレラ帝国だ。
今のアングレラ帝国は魔法の使用を一部の選ばれた人間を除き禁止している。それによりモンスターによる被害はなくなった。しかし、魔素を養分とする植物は絶えてしまったのだ。
パト達は馬車の中に身を隠す。植物がないからか、アングレラ帝国に入ってからは温度が上がったように感じる。
それに景色の変化を感じないのも退屈に感じている。
「領土には入ったが目的地まではどのくらいなんだ?」
先の見えない土地を見て、不安に思ったのかオルガがそんなことを聞いてきた。
「私たちの目指すのはアングレラ帝国の北西にある第六フロアだ。そこに奴隷達が捕まってる」
ミリアは馬車の中からそっと外の景色を指さす。
奥に見えるのは石の煉瓦で作られた建物の並ぶ王国。オーボエ王国とは違い、高い建物はないが石煉瓦で居住区が8つに分けられている。
まだ遠くに見えるそれらの中で、左の方にある最も大きな区画を指した。
「あそこが第六フロアだ。そこに飼われていない奴隷達が捕まってる」
ミリアの刺した区域を見て、エリスが口を開く。
「かなりデカいのね」
「ああ、基本的に最初に囚われた奴隷はあそこに運ばれる。おそらくは村人達もそこにいるだろう」
パトはやっと村人や父親を助けることができると、オルガから貰った剣を握りしめる。
そんなパトにヤマブキが言った。
「安心シテクダサイ。アナタハ私ガ守リマス」
続いてオルガもパトの肩を叩く。
「ああ、俺もお前を守ってやる。だから安心しろ」
そう二人に言われ、パトは初めて気付く。自身の腕が震えていたことに……。
恐怖からか、恐れからか、パトは何に震えているのか。自身では理解できていなかった。
実戦経験はない。パトは村人だ。
村に攻めて来るモンスターと戦うのも門番に任せていた。
戦闘の訓練は受けたが、戦いに自信があるわけではない。
しかし、彼は村のためなら命をかける。
それが彼の目標であり、彼の目指すものである。
だから、この作戦もパトにとっては、村のために村のために命を捨てて挑む。そのような作戦であった。
身体は震えていても、心は怯えない。
この恐怖にパトが気づいていないのが、吉と出るか凶と出るか。
数時間馬車に揺られ、砂漠を進み、検問を向けてがもう見えなくなってきた頃。馬車が止まった。
不思議に思い、そっと隙間から外を覗くと、そこには二メートル近い身長に、ガッチリした肉体の男がいた。
白い鉢巻を頭に巻いて、青いスーツのボタンを全開にした男は、真っ赤な鞘に包まれた刀を片手に馬車の進行方向に立ち塞がった。
「待ちな」
男はそう言い、パト達のいる馬車を睨みつける。
「俺はテツ・ロウ。その荷台を改めさせてもらうぜ」
男の周りには誰もいない。しかし、明らかにこの荷台を警戒している。
テツ・ロウという名前を聞き、ミリアが小さな声で呟いた。
「ヤバいな……」
それにパトが反応する。
「どういうことです?」
「奴は賢者の一人だ」
アングレラ帝国では基本は魔法の使用が禁止されている。しかし、王に認められた一部の人間は魔法を使うことが許されるのだ。その人物達は賢者・大賢者と呼ばれる。
まずこの国の王であるハオウ・リュウガを筆頭に、八人の大賢者と呼ばれる大幹部がいる。
彼らには役職が与えられ、医療、裁判、奴隷などを管理している。
そして一部の大賢者を除き、その部下として賢者と呼ばれる役職がある。
「奴は警備隊の一人だ。ここでバレては奴隷施設までたどり着くことができない」
どうして怪しまれたのかは分からない。しかし、このままでは目的地に着く前に捕まってしまう。
バイズは怪しまれないように話し合いで解決しようとする。しかし、テツは問答無用でこちらに近づいてくる。
このままではマズイ。何か脱する方法はないかと悩んでいる中、ミリアが決断する。
「ここから先は歩いて向かうぞ」
そして立ち上がると、パト達に手を差し出す。
「捕まれ、私の固有魔法で一旦身を隠す」
その言葉を聞いてパトは目を見開いた。
「待ってください。バイズさんはどうするんですか?」
「バイズなら大丈夫だ。それよりもここに私たちがいる方が問題になる」
ミリアの言葉には自信が満ちており、バイズを信用しているようだった。
パトは戸惑いながらも、ミリアの手を掴む。それに続いてエリスとヤマブキとミリアに掴まったが、オルガのみ腕を組んだまま動かなかった。
「オルガさん?」
パトはオルガの手も掴もうとするが、オルガは拒む。
「俺はここに残る。俺なら死体のフリをしてやり過ごせるからな」
仮面を取ると、骸骨である素顔をあらわにする。
そして馬車に積まれた木箱の横に背持たれるように寝っ転がる。
「この前人狼に会ったとき……ヤザ村の銅像を見た時と同じ感覚がしたんだ。理由は分からないが懐かしいと感じた」
オルガは続ける。
「だから俺は残る。あの騎士を放っておくことはできない」
テツはもうすぐそこまで来ている。説得している時間はない。
パトは頷き、オルガを置いていくことを決める。その様子を見ていたミリアもオルガを睨みながら言う。
「お前との決着はまだ付いてない。死ぬなよ」
「ああ、どっちが先に着くかは知らねぇが、待ってるぜ」
ミリアは馬車の外にある岩陰に魔法陣を展開すると、転送魔法を使い馬車からテレポートした。
姿を消したと同時にテツが馬車に入ってくる。しかし、中にはあるのは果物と酒の入れられた木箱と無造作に置かれた白骨死体。
パト達は無事にアングレラ帝国に侵入することができた。
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転送先は馬車から数十メートル離れた岩陰。岩陰から馬車の方を覗くと、バイズとテツが何かを話し合っているのが見える。しかし、距離があるせいか、話している内容は聞き取ることができなかった。
しかし、疑問が残る。なぜ、無事に検問を突破した俺たちにテツは近づいてきたのか。
明らかに行動は怪しんでいた。
悩んでいるパトを他所に、ミリアは早く先に進むことを提案する。
「今ここで考えていても時間の無駄だ。バイズが引きつけているうちに距離を取るぞ」
バイズには何の説明もなしに転送魔法で別れた。しかし、馬車に姿がないことでいち早く理解したようだ。
話の内容は聞こえないが、テツの意識を周りが行かないように、うまく誘導している。やがて話がついたのか、テツは馬車の中へと入っていき、馬車が動き出した。
様子を見ながらパト達は隠れながら進んでいく。緑が少なく隠れるところの少ない土地。前に進むのにも苦労しながら、二時間かけてやっと目的へと着くことができた。
王国に着けばもうそこは砂漠の王国。多くの人が買い物や仕事に没頭している。
しかし、歩く人々の中に鉄の首輪の付けられた人物がいる事に気がつく。
「あれが奴隷だ。奴隷には首輪が付けられる。それが奴隷の証だ。奴隷の労働があるからこそ、この国は存在できているんだ」
アングレラ帝国は魔法を禁止した国だ。魔法を使用すれば、オーボエ王国のように縦長の建物や巨大な結界を作ることができる。
農作物も魔素がなければ、育つことはない。
この国での奴隷の仕事は魔法で出来ないことを補うこと。
建築やモンスター退治などなどそれがこの国で奴隷に与えられる仕事だ。
王国を見渡したパトは人の多さに驚愕する。オーボエ王国もかなりの数の人口がいた。しかし、この国はその倍に近い人口が密集している。
「この中からサージュ村の人たちを探す気なの?」
エリスはめんどくさそうにそんなことを言う。普段は人前では弱気な発言をしないエリスであるが、流石にこの数からは無理を感じたようだ。
「大丈夫だ。サージュ村が襲われたのは数日前。奴隷はまずこの地区で首輪を付けられる。まだこの地区内にいるはずだ」
ミリアは自信満々に言う。しかし、その地区の人口で驚いているのだ。そんなことを言われてもと思っているとミリアが続けた。
「私は一つの村だけを助けに来たわけじゃない。パト、あなたの村を助けに来たのは確かだが、チャンスがあれば、全ての奴隷を解放しに来たんだ。作戦がある。良く聞け」
ミリアは腰に付けた布のバックから地図を取り出す。
「情報によれば、この第六フロアを管理するのは、奴隷管理を務める四人の幹部」
暴食暴飲、欲望に忠実な男。賢者フェス・クローバー。
氷の姫の噂される、美貌と魔性を兼ね備えた。賢者クリスタ・L・リードレアーム。
純粋な力と凶暴性から陸に上がった海の猛獣と言われる。賢者ガレッド・シャーク。
そして奴隷産業を中心に、アングレラ帝国の最高幹部を務める。大賢者ジェイ・アウン。
人物の名前を聞き、パトは腰を抜かす。村でも噂を聞いたことのある人物の名前がちらほらいた。
聞いた話ではオーボエ王国の十聖にも匹敵する力を持っているという。
そんな実力のある人たちを相手にすることになる。恐怖はある、しかしそれ以上に、やらなければならないという使命感の方が強い。
「彼らはそれぞれで奴隷の管理をしているはずだ。気をつけるべきはそいつらだ。それとさっきのテツのように別の賢者が来ている可能性もある。それも十分に注意する必要がある」
「分かった。だが、チャンスがあれば他の奴隷も解放するってどうするんですか?」
「ふふふ、私を誰だと思っている。作戦がある」
ミリアはニヤリと不敵に笑った。
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