第18話  【動物姫との骨の魔術師】

 世界最強の兵器はここに!?18



 著者:pirafu doria

 作画:pirafu doria



 第18話

 【動物姫との骨の魔術師】





 パト達と別れたオルガは、馬車を引き連れ宿へと向かっていた。




 パトに連れて行ってもらえなかったことは心残りだが、それでも頼まれたことはやり遂げるしかない。

 村へと持ち帰る荷物を大切に見守る。それがオルガの課せられた任務だ。




 だが、先ほどから少し気掛かりなことがある。それはつい数分前からずっと付けてきている子犬の存在だ。




 オルガは犬が苦手だった。

 それは小さな頃からずっとで、冒険者になり、そして洞窟で暮らしていた時も同様である。

 しかし、骨の姿になってから、オルガはよく犬に好かれるようになってしまった。

 いったいこの肉のない骨の体のどこにすすられているのか分からない。




「いったいどこまで付いてくる気だ……」




 オルガは警戒しながら、馬車を進ませる。

 しかし、その足取りは徐々に速くなる。




 び、ビビってなんかないぞ。ただ、ちょっと速く進みたくなっただけだ!!




 そう心に言い聞かせ、馬車を進めるオルガであった。そしていつしか後ろに子犬の姿はなく、前を向くと……




 子犬が目の前に立っていた。




「な、なぁ、お前……どうやって前に?」




 子犬は目線を動かし、路地の方を向く。




「もしかして……近道してきた?」




 子犬は縦に首を振る。




 てか、この子犬言葉を理解しているし、めっちゃくそ頭が良い。そして……とても執念深い。




 子犬はオルガに向かって飛びつく。




「ひっい!!」




 オルガの事を舐めまわし始めた。




「やめ! やめろー!! 俺を舐めるな!!」




 オルガは子犬を引き剥がそうとするが、子犬はうまくすり抜けて避けていく。




「こ、この!!」




 何度やってもするりと抜ける。まるでこちらの動きを先に読んでいるようだ。





「無駄ですわ。チャロはとても頭が良いの。そう簡単には捕まえられませんのよ」




 子犬に舐め回されるオルガを見ながら、頬を膨らませる女の子。




「チャロ。やめなさい。そんな汚い人間舐めたって何も出ませんわよ」




 赤髪に真っ赤なドレスを着た少女は不機嫌そうにオルガを睨んだ。この子が子犬(チャロ)の飼い主だろう。




「だったら、早くやめさせてくれ!」




 オルガは少女に助けを求める。




 すると少女は首を伸ばし、オルガを見つめる。




「青……本当に辛いみたいね」




 青? 何を言っているのだろうか。だとしてもそれより先に!!





「分かってるなら、助けてくれー!!」






 チャロから解放されたオルガは、タオルでベトベトになった体を拭く。




「おい。お前が飼い主ならしっかり教育しろよな」




「教育なんて必要ないですわ。チャロは頭が良いの。普段なら! あんなことはしないわ。なんでアンタなんかを突然舐め出したんだか……」




 それはこっちが聞きたい。しかし、教育の出来ない子供にこれ以上文句を言っても疲れるだけだ。

 もう出会わないことに期待するしかない。




「そういえばあの馬車の荷物はなんですの?」




 少女はオルガの連れている馬車に興味を持つ。




「ん、あれか。あれは大事なもんだ」




「大事なもの? あの貧乏臭い魔道具や食料が? どこかの村の荷物じゃないの?」




 いちいち言葉の多い子供だ。




「ああ、そうだ。あれは俺の仲間から受け取った荷物だ。こいつはあいつの大切な村に必要なもの。だから、あいつはこれを大事にしていた。なら、俺もこいつを大事にしなくっちゃならない」




「ねぇ、小腹空いたから一つ食べていい?」




「言ったそばから!! やめろ!!」




 馬車に積まれた食料を食べようとした少女を、オルガは止める。




 話を聞いてもそんな行動をする少女にオルガは苛立ちを覚えるが、怒ると素直にやめてくれた。根は悪い子ではないのだろうか。

 とはいえ、この少女にかまっている必要はない。




「じゃあな。俺はあいつらを待たなくっちゃいけないんだ。ガキは公園で遊んでろ」




 そう言い、オルガは少女を追い払おうとする。しかし、少女は言う事を聞かず、子犬のチャロと共に後ろをついてくる。




「おい。いつまで付いてくる気だ?」




「あなたについて行ってる気はないわ。私が行くところにあなたも言ってるだけよ」




 少女はそっぽを向くと、オルガの前に出て先を歩き出す。

 確かに行く方向が同じだっただけのようだ。しかし、それはいつまでも続く。




「あなたこそ、いつまで付いてくるのよ」




「知らねーよ!」




 オルガは今夜泊まる予定の宿に向かっているだけだ。パトともそこで合流するように約束した。




 昨日は王国の中心近くで泊まったが、夜になっても賑やかな王国。なかなか寝付くことができなかった。そのため中心街から外れた王国の中でも静かな土地にある宿を予約した。

 周りにあるのは高い建物の並んだ王国の中では珍しく、三階建ての小さな民家風の建物が中心で、森林や畑も存在している。




 王国の中であるため整備はされているが、それでも何もないこの土地。




「お前は一体何の用なんだ?」




 そんな土地に犬を連れた派手な格好をした少女。少し似合わない光景だ。

 オルガが不思議に思っていると、オルガ達が泊まる予定の宿の扉が開き、そこから白髪のお爺さんが出てくる。そのお爺さんを見ると少女は嬉しそうにお爺さんの元へと駆けていく。




「パルムスさん!!」




「ん、ああ!」




 少女はお爺さんに抱きつく。




「なんじゃ、また来たのですか……」




 お爺さんは優しい笑顔で少女を向かい入れる。




「ここはあなたの来るような場所ではないと何度言ったら分かるのですか……」




 お爺さんは軽く叱りつけるが、どちらかって言うと嬉しそうだ。

 そんなお爺さんに抱きつきながら、少女はお爺さんの顔を見上げる。




「ねぇ、あの子達きてる?」






 ⭐︎⭐︎⭐︎ ⭐︎⭐︎⭐︎






「どうぞ」




 オルガは宿にある小さな食堂でお爺さんに出された渋いお茶を流し込む。




「あの子は?」




 そしてさっきから見当たらない子犬を連れた少女のことをお爺さんに聞く。




「ああ、ベアトリス様なら外でお話しされておる」




 そうして食堂にある巨大な窓から外を見る。そこにはベアトリスと呼ばれた先程の少女の姿があった。

 少女の周りには犬・猫・小鳥など様々な動物が群がり、中には熊などの凶暴そうな動物の姿も見える。だが、少女は怯えることなく。それどころか動物達と中良さげに話していた。




 変わった子だとは思っていたが、動物と話すとは……。




 オルガがそう思い、不思議な顔で少女を見ていると、お爺さんは食器を洗いながら語る。




「ベアトリス様は固有魔法『色付き心(アンクル・クルー)』という魔法を持っている。それによりあらゆる動物の感情を読み取ることができるだけじゃよ。そしてそれが人間と距離を置く理由ともなった……」




 お爺さんはそう寂しそうにベアトリスを見る。





「ベアトリス様はあの能力に苦しめられてきた。相手の感情を見れる能力とは時に武器になり、時には自身を傷つける爆弾にもなる。私はあの子が不憫でならない」




 お爺さんの言葉だけでは少女の能力について詳しくはわからない。だが、オルガは知っている。力は時には自分にも襲いかかってくる事を……。






 ⭐︎⭐︎⭐︎ ⭐︎⭐︎⭐︎






 少女に少し興味を持ったオルガはお茶を飲み終えると、宿を出て動物と戯れるベアトリスの元へと行ってみる。

 オルガに気づいた動物達は少女の後ろに隠れる。警戒されているようだ。




「何よ?」




 動物達との時間を邪魔されたベアトリスは不機嫌に頬をふくらわせる。




「動物と話してて楽しいのか?」




「ええ、楽しいわよ」




「寂しくないのか?」




「私にはこの子達がいるんだもの。寂しくなんかないわよ」




 そう言いベアトリスは後ろに隠れている動物達を抱きしめる。

 少女はオルガに背を向けたまま、




「それを言いに来たの?」




 そう言った。その少女は小さな手を震わせながらも、強がって見せる。




「私は人間は嫌いよ。嘘をつくもの」




 人は嘘だらけ。それはベアトリスがこの能力で知ったこと。表の裏。人には表面上の感情と、裏に隠された真の感情の二つがある。

 ベアトリスの固有魔法『色付き(アンクル・クルー)』はそのうち、内側に隠された感情を色として見ることができる。




 赤は楽しい。青は悲しい。桃は照れている。緑は心配。などなど色で相手の感情が表される。しかし、それはベアトリスにとって辛い現実を突きつけるものとなる。




 相手の気持ちや考えを考慮せず、感情を暴いてしまうこの能力は悪意だけではなく、良心にも影響を及ぼす。

 裏に隠された悪意を感じるだけでも辛かったベアトリスだが、嘘の裏に隠された良心に気付いてしまうことの方が辛く思えた。そしていつしか心を閉ざした。




 本当の心に嘘をつく人間ではなく。素直な動物とのみ付き合うようになっていった。




「俺だったら、寂しいけどな……」




 オルガがそう呟いた時。宿の奥から爆発音が響いた。




「な、なんだ!?」




 爆発が聞こえたのは馬車を置かせてもらっていた倉庫の方。もしやと思いオルガが走ると、そこには燃える馬車と村に運ぶはずだった荷物があった。




「そ、そんな……」




 パトに任された荷物。それが……。




 すぐ側にはベアトリスもいる。だが、ベアトリスも状況が分からず混乱しているようだ。

 そんな時、さっきまで動物と戯れていた場所から、動物達の悲鳴が聞こえてきた。




 何が起きたのかと急いで駆け寄ると、そこには網に捕らえられた動物達がいた。




 そして囚われた動物達を見て、腕を組み偉そうにしている二人組の男。




「よく来たな。お嬢様!!」




「ブハッー! 情報は本当だったみたいだな」




 ベアトリスを見て、嬉しそうにしている二人。




「姫さんよ〜、お前を捕まえて、ガッツリ身代金を頂くぜ!」




 だが、その男達は俺たちの後ろから現れた鎧の男に後退り、




「この情報も本当みたいだぜ」



「ブハッー! 元十聖の老ぼれだろ。パルムス・ソーヤ!」




 それは宿屋のお爺さん。似合わない鎧を着て、腰には剣をぶら下げている。




「姫様には手出しはさせません。私が相手をしましょう」




 二人の男は武器を手にして、お爺さんを警戒する。二人が手にする短剣には少し魔力を感じる。




「ブハッー! アプー、俺が援護する。パルムスを仕留めるぞ」




「了解。ミニバン!!」




 二人はパルムスに襲いかかる。パルムスは勢いこそはないものの、老いた剣術で二人の攻撃をいなす。




「あの爺さん、強いな」




「当たり前よ。パルムスは元十聖なのよ。そして私を支えてくれた唯一の人」




 十聖ならオルガも知っている。70年前に会ったことがある。オーボエ王国最強の十人の騎士。選ばれた者しかなれない称号だ。




 王国のために尽くし、剣で王国の敵を討ち滅ぼす。

 そしてその実力は本物だ。並の兵士ならどんなに背伸びしようと勝つことはできない。




 そんな元十聖であるお爺さんならその強さにも納得できる。そしてあの盗賊にも簡単に勝つことができるだろう。普通ならば……。




 二人の盗賊が持つ武器。そこから感じる魔力。それはなんというか泥のように粘っこい嫌な魔力が付いている。




 そしてオルガの感じていた嫌な予感は的中する。




 パルムスは二人の攻撃を剣で弾き、受け流しているが、徐々にパルムスが息切れをし始める。ただ単に疲れている負けではない。パルムスの魔力が少しずつ減っていき、それと同時に二人の持つ武器の魔力が増していく。




 やがてパルムスは剣を地面に刺し、ふらつき始めた。




「どういうことじゃ、私の魔力が吸われている」




「ふふふ、ようやく気づいたようだな。パルムス!! そう、コイツはあの『混沌の色(カオ・クルール)』から買った魔法の武器さ!!」




 二人の持つ剣には凄まじい魔力が満ちている。それだけパルムスの魔力が高かったということだ。




「ブハッー! コイツがあれば、十聖だって怖くねー! このまま死んでもらうぜ!!」




 二人はパルムスに斬りかかる。しかし、それを止めるようにベアトリスが飛び出した。

 そしてパルムスを庇うように立ち塞がる。




「やめて! 狙いは私なんでしょ! なら、私を連れて行けばいいのよ! だから、パルムスをこれ以上傷つけないで!」




 その姿を見て、二人は動きを止める。




「ブハッー! いいね〜良い子だ」




 そしてパルムスに小さな声で謝ったベアトリスは、二人の元へと近づいていく。

 二人もベアトリスを拘束する道具を取り出す。そして目の前に来たベアトリスに拘束器具を取り付けようとするが、




「待てよ……」




 二人の男に立ち塞がる仮面を被ったフードの男。




「俺の大事な馬車を焼いた落とし前、つけてもらおうか」






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