第15話 【手っ取り早く倒したい】
世界最強の兵器はここに!?15
著者:pirafu doria
作画:pirafu doria
第15話
【手っ取り早く倒したい】
「心臓掬い(デロペ・ルキゥール)!!」
ミリアは転送魔法を使い、オルガの心臓を奪おうとするが、何も起こらない。
「…………ん? ……心臓掬い(デロペ・ルキゥール)!!」
「…………」
「…………な、なぜだ!?」
ミリアは衝撃を受ける。
そんな中、オルガはホッと息をつく。
そう、スケルトンとなったオルガには心臓は存在しない。そのため、オルガの心臓を抜き取ろうと発動した転送魔法であったが、それは失敗に終わったのだ。
この時オルガは初めて自信が白骨死体になったことに感謝する。
そしてこのチャンスを逃すまいと勝負に出ることにした。
「甘かったな。だが、その魔法は俺には効かない」
「な、なんだと!?」
「俺は魔法の効果を消失される魔法を使ったからな。その魔法が俺に届くことはない」
これは単なるハッタリ。そんな魔法はオルガには使うことはできない。
だが、ミリアの言う天才魔法使いなら、それも可能なのかもしれない。そう、ミリアの態度から思い付いたからだ。
そしてそのハッタリの効果は予想以上に早く現れる。
ハッタリを聞いたミリアは汗を流し、焦りの表情を浮かべ出す。
「そ、そんな魔法を……だが、貴様ならば、…………可能なのか」
しかし、それでもあと一押し足りていないようで、ミリアが疑いを向けていることがわかる。
ここでミリアを驚かせることのできる衝撃のことがあれば、もしかしたら……。
そう考えたオルガはあることを思いつく。
それは……。
「ふふふ、ならば俺の正体を見せてやろう」
「…………正体……だと……」
ふふふ、俺だって驚いたんだ。驚かない奴がいないはずがない!!
オルガは自信満々に仮面を取る。
そしてオルガの白く硬い骨を顔がミリアの目に入る。
それを見たミリアは大きく口を開けて叫んだ。
「モンスター!?」
「モンスターじゃねぇ!!」
モンスターと言われ、思わず言い返してしまったオルガだが、しっかりとミリアを驚かせることには成功した。
そしてオルガの正体を知ったミリアは一歩退く。
「くっ、あの天才魔法使いと言われる人間がモンスター……いや、その姿は魔素の影響か……。しかし、これは分が悪いか」
ミリアはナイフを腰にかけたバックにしまうと、オルガを指差す。
「今回は退いてやる。だが、次に会った時は覚悟するんだな!!」
そう言い、ミリアは森の中へと姿を消した。
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎ ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
転送魔法で森の奥深くへと転送されたエリスとシーヴは、盗賊達に囲まれていた。
「ど、どうしましょう……エリス先輩」
数はざっと50程度。
しかし、魔力から敵の様子を探っていたエリスは違和感を感じる。
それは盗賊達の動きが、盗賊というよりも兵士のように、統率を取り、規則正しく囲んでいるのだ。
その様子に同じく気づいたシーヴが怯えた様子で呟く。
「し、知ってますか。熊の爪(オングル・ウルス)はフルート王国の精鋭部隊だったそうです。ですが、アングレラ帝国に国を奪われて、それからはここで盗賊に成り下がったんだとか……」
それを聞いたエリスは盗賊達の統率の取れた配置に納得する。そしてそれと同時に厄介な相手だと考える。
相手の元王国の兵士なら下手な攻撃じゃ、そう簡単には突破できない。
もしも一箇所突破口となる道を作っても、他の兵士がすぐに経路を塞ぐだろう。統率の取れた集団ほど、厄介な敵はいない。
「そうね。なら、ここはあなたに任せるよ。シーヴ」
「……え、え!? な、なんでですか!? エリス先輩!!」
「それはこれはあなたが成長する良い機会だからよ」
盗賊達を相手にするのが面倒になったエリスは、シーヴに適当な理由をつけて、戦闘を押し付けることにした。
「わ、分かりました! 任せてください!!」
エリスを信用し切っているシーヴは怯えながらも、エリスに言われた通り盗賊を一人で相手にすることに決めたようだ。
シーヴは魔法陣を展開すると、自身に身体強化の魔法を付与する。
そして魔力を頼りに森の中へ飛び込むと、一人一人順番に盗賊を殴り倒していく。
シーヴは魔法学園でエリスと同じく特待生での入学者であり、その魔力量と知識から多くの騎士団や魔法団体からの推薦を貰っている。
この盗賊達も元騎士ということもあり、そこらにいる盗賊よりは実力は上だろうが、シーヴとの実力差は明らかである。
「な、なんだ!? あのガキは!?」
「つ、強い! グハ!」
実力差を感じ、恐れ始めた盗賊達を見て、シーヴは自身を持ってきたのか。
「僕は王立魔法学園の生徒です。あなた達には負けません!」
胸を張ってそんなことを言い放つ。
さっきまで盗賊にびびっていた姿はどこへやろ……。
相手と自分の実力を理解できないのが、シーヴの欠点であり、そしてこのように調子に乗るところもシーヴの弱点だ。
恐る盗賊達を見て、調子に乗り始めたシーヴはさらに身体強化Revel2へと付与魔法を強化する。
Revelを上げることにより、魔法の性能は上がるが、魔力消費量は増加し、コントロールも難しくなる。
盗賊達を丁寧に一人一人追いかけ倒す。
そんなシーヴを見ていたエリスはやれやれと首を振った。
「時間のかけ過ぎよ」
そして立ち上がってシーヴに文句を言う。
それを聞いたシーヴは足を止めた。
「なんですか? エリス先輩」
戦闘中で興奮していたこともあり、聞き取れなかったようだ。聞き返されたエリスは再び言う。
「時間のかけ過ぎなのよ。Revelを上げるんなら短期決着にしなさい」
本当だったら、めんどくさいし何も言う気はなかったが、このままではシーヴの魔力を無駄に消費する。
それにこんな事態になったのも、元はエリスの責任。その責任からエリスはやっと自分で動くことにした。
「良い、魔力には限りがあるの。だから、大量の魔力を使うときは、時間をかけてはいけないの」
エリスはそう言いながら、杖を取り出す。そしてシーヴに近くに寄るように手招きする。
シーヴは叱られていると思い、怖がりながらもエリスの元へと駆け寄る。
「敵は森の至る所に隠れてる。そういう時はこうするのよ」
エリスはまず自身とシーヴを囲むように正方形の結界魔法、絶対防御(ペルフェクシオン)を生成する。
「これは? 結界魔法?」
「ま、一時的なものよ。長くは持たない」
結界魔法を貼り終えたエリスは、今度は杖を上に掲げ、杖の中心に強力な魔力が集まり始める。
膨大な魔力の流れを見たシーヴは、その力の強大さとそれを悠々と操るエリスの姿に見惚れる。
「大災害(デザストル・トルナード)」
魔法を発動すると、巨大な風の渦がエリス達を囲むように発生し、森を飲み込む竜巻へと変貌する。
竜巻は木々を飲み込み、盗賊達を宙に浮かし、森を破壊する。
そして森に隠れていた盗賊達はエリスの魔法によって一瞬のうちに一掃された。
大災害(デザストル・トルナード)を見たシーヴは口を開けたまま、しばらく固まっていたが、やっと状況が飲み込めたのか。
「え、エリス先輩!? 今のはなんですか!?」
「大災害(デザストル・トルナード)だけど? 授業でやったことあるでしょ?」
「いや! それは知ってますけども!! あれはフラスコの中でやるのが基本で……。実際に竜巻を起こすことなんてできるんですか!?」
「当たり前でしょ、そういう魔法なんだから……」
まぁ、その代わりに魔力の消費量は膨大で、何度も使えるような魔法ではない。
「エリス先輩……恐ろしや…………」
シーヴはエリスに尊敬と恐怖の混ざった眼差しを向ける。
「これで襲ってきた盗賊は倒せたけど。どうしようか」
「そうですね。僕が先にオーボエ王国に行って警備隊を連れてきましょうか?」
「そうね。そうしましょう」
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エンザンは剣をヤマブキに掴まれ、一切の身動きが取れずにいた。
「なんだ……この力は……」
エンザンの力がないわけではない。ヤマブキの力がエンザンの力に圧倒的に混ざっている。
エンザンは残っている片手でヤマブキの顔を殴る。しかし、ヤマブキは表情を変えるどころか、ダメージを受けている様子はない。
「クソ! なんだ貴様は!」
エンザンの額には汗が流れ始める。
このような展開になるとは想像していなかったようだ。
そしてそれはパトも同様であった。
盗賊の攻撃を素手で受け止める少女の力に驚愕し、そして少年が希望を持っていた技術の恐ろしさを見ることとなった。
ヤマブキは剣を一瞬離すと、素早く両腕でエンザンの腕を掴む、そして両方の腕を徐々に近づけていく。
「な!? 何をする!? お、俺を潰す気か!」
エンザンは暴れて抜け出そうとするが、抜け出せそうにはない。
パトは何もできず、その場で人間が潰されそうになる様子を見守ることしかできなかった。
「ごのぉやろぉ」
しかし、エンザンは諦めようとはしなかった。気絶しそうになりながらも、自身とヤマブキの間に魔法陣を展開した。
「衝撃波(アンパクト)ォ!」
エンザンが渾身の力を振り絞り、魔法により爆発を起こす。
その衝撃の威力は凄まじく、木々が揺れ、爆音が周囲を包んだ。
土煙が舞い上がり、二人の姿は見えなくなる。
「ヤマブキさん!!」
パトは心配し声を上げる。しかし、冷たい声が返ってくる。
「問題アリマセン」
やがて土煙が晴れ、二人の姿が見える。そこにあったのは無傷のヤマブキの姿と、泡を吹いて倒れているエンザンの姿。
パトはヤマブキが無事であったことに安堵する。だが……。
パトは倒れているエンザンの元へと駆け寄る。
エンザンの呼吸は荒く、呼吸困難を起こしているようだった。
エンザンは盗賊であり、悪党である。しかし、
パトはヤマブキの頬を叩く。
だが、ヤマブキは無表情で反応はない。
「やりすぎだ。こいつは悪人だ。だが、ここまでやることはない。モンスターじゃないしな」
パトは出来る限りの応急処置をする。だが、あまり多くの知識もなければ、道具もあるわけではない。
処置をしている最中、森の奥から馬車が向かってくる。
「パトさん! 無事でしたか!」
馬車を操作しているのはシーヴ。それにエリスとオルガの姿もある。全員無事だったようだ。
「シーヴ、ちょっと来てくれ」
パトはシーヴを呼ぶ。
シーヴの両親は医者で、シーヴは治療魔法を専門に研究している。そのためシーヴならエンザンの容態も分かるはずだ。
「この人は……!? ……いや、それよりも、これは少しまずい状態です。早く王国の警備隊に引き渡して、しっかりした治療を受けさせた方が良いです」
パトはシーヴと協力して、エンザンを馬車に乗せる。
エリスとシーヴの倒した盗賊はすでに警備隊に引き渡したようだ。
馬車を急がせ、パト達は王国へと向かった。
続く
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