恋愛脳なギャルJDとおっさんの温泉旅行(4)

「三咲さんとの思い出、アコが上書きしちゃっていいの?」

 は? 上書き? 由基は少しぽかんとなってアコを見つめる。

 気持ちのいい風が吹いてきて、湖の岸でちゃぷちゃぷ水音がする。アコは俯きがちに口を尖らせて波打ち際を見ている。


 ここでもやっぱり軽く流さない方が良さそうだったので、由基は率直に自分の気持ちを言ってみた。

「よくわかんないけど、今はアコちゃんと来てるんだから、それでいいんじゃないの?」

「アコと乗りたいってこと?」

「うん」

 すると何度か瞬きした後、アコはえへへと笑って手をつないできた。

「行こ」


 ボート乗り場の桟橋の方へと引っ張られて歩きながら、アコに手綱を取られていると感じなくもなかったが、深くは考えないことにした。




 その後、夕刻になってから予約してある旅館へと向かった。屋号に旅館と冠してはいるがとてもこじんまりした建物で、だけどやっぱり通された客室は純旅館なつくりだった。


 スワンボートで湖を半周して足ががくがくになっていた由基はまず広縁の籐の椅子に崩れるように腰かけた。スワンのペダルを漕ぐのが自転車のそれよりキツいことは知っていたのに、自分の年齢を考慮に入れなかったのは失敗だった。肉体の衰えがこんなにも残酷なものだとは。


「このお部屋、前にことちんと泊まったとこにそっくりだね」

「昔ながらの旅館はどこもこうなんじゃないかな」

「ふーん」

 座卓の上の菓子籠の中のお饅頭を食べながらアコはくすりと笑った。

「前はヨッシー、そっちに無理くり布団敷いて寝ちゃったんだよね」

「それはもう言わないで」

 あれはちょっとした黒歴史だ。そしてやっぱり少しだけ、あの夜の琴美とのやりとりが頭の中をよぎってしまう。


 さいわいアコは食べ終わった饅頭の包み紙をくずかごに入れるために立ち上がり、そのままクローゼットを開けて荷物をごそごそしだした。


「じゃあアコは、お夕飯までゆっくりお風呂にいってくるね」

「あ、うん……」

 プールバックみたいな手提げを持ってアコは由基の方は見ずに部屋を出ていった。仕切りのふすまがたん、と締まり、がちゃがちゃと客室のドアを開け閉めする音が続いた。


 風呂。夕飯。そしてその後は……。しんとなった部屋の中でぐたーっとなりながら、由基は不安になってきた。

 俺、ちゃんとできるんだろうか。

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