step10.サプライズ(5)

「隙ありー!」

 とうっと、後ろから体当たりするように抱き着かれた。帰り道、信号待ちをしていた背中に、公園の木々の間から走り出てきた小柄な人影に。


「ヨッシー元気だった?」

 弾んだ声色は忘れもしない、出会った頃のアコそのものだ。梅雨が明け、夏を乗り越え、秋が深まり、初冬を迎えた今。相変わらず短い制服のスカートの上には今はブレザーを着てマフラーも巻いていて。


 横断歩道の手前の街灯の光の中に浮かび上がったのは、明るい茶色の髪をハーフアップにして盛り盛りアイメイクを施したギャルの顔。出会ったあの頃のアコの顔。


「うふふ。ヨッシー寂しかったの? そんなに見つめちゃって」

「んなわけあるか」

 自分の手に指を絡めようとするアコの小さな手を振り払って由基はかろうじて吐き捨てる。

「寒そうだからあっためてあげようと思ったのに」

「間に合ってます」

「ふふふ」

 アコは体の後ろで手を組んで余裕の表情で笑っている。


「ヨッシーの嘘つき」

「何が」

「ふふ、アコわかっちゃうんだから」

 何やらとんでもない勘違いをされていそうで由基は怖くなったのだが。

「ほんとはアコに会えて嬉しいでしょ?」

「……バカっ」

「ええ、ひどーい」

 きゃらきゃら笑って両手を出し、由基の腕を捕らえようとするから危うくよける。まったく油断も隙もない。


「あのね、ヨッシー。アコ決めたんだ。アコはアコらしさで戦うって」

 うっかりと、ほれぼれしてしまいそうな清々しさでアコは笑った。

「決めたっていうか。元に戻っただけだけど。ことちんとも約束したんだ。正々堂々戦おうって」

 なんだその運動会の選手宣誓みたいなのは。一体なんの話なんだ。

「だからね。由基にもいい加減覚悟を決めてほしいな」

 ちろっと、アコは由基を上目遣いで見た。

「アコもことちんも真剣だよ。なのにいつまでも適当にかわすんだったら、アコ、何をするかわからないから」

 脅迫じゃねえか! 由基はぞわっと腕に鳥肌が立つ。


「それは冗談だけどさ。ヨッシー、そろそろ男を見せてよ」

 口を尖らせてずいっと見上げてくるアコに由基はほとほと参る。

「あのね。愛とか恋とかって話なら、俺はほんとにそんな気はない」

「子どもは相手にできないっていうなら……」

「違う。俺はそもそも独りでいたいんだ」

 堂々巡りはごめんだと由基はそこはしっかり強調する。それなのに。


「嘘つき」

「嘘じゃない」

「ふーん」

 なぜか余裕の表情でアコは笑い、くるっと由基に背を向けた。

「まあ、いいや。またラインするねっ」

「おい」

「言ったでしょ、覚悟を決めてって」


 由基を見返ってにこりと笑い、アコは朗らかに宣言した。

「これからもよろしくね。ヨッシー」

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