step7.ジェラシー

step7.ジェラシー(1)

 じゃあ、とアコが軽やかに立ち上がったとき、店舗側ではなく直接外に出入りできる通用口の扉が開いた。

「あ、すみません」

 琴美だった。面接の邪魔をしたかと思ったのか慌てた様子だ。

「大丈夫だよ。終わったところだから。アマギさん、ありがとうございました」


 退室を促す由基を無視し、アコは大きな瞳で琴美をじっと見ている。値踏みしてるみたいな目つきだ。琴美の方も、少し怖じ気づく様子を見せながらもアコを凝視している。我知らず由基はこめかみに汗を浮かべる。


 永遠とも思えた数秒後、アコが尋ねた。

「こっちから出てもいいんですか?」

「あ、ハイ。どうぞ」

 テーブルを回り、由基の横をすり抜け、アコは通用口の脇に佇む琴美の方に向かう。視線は琴美に固定したまま。琴美も見えない光線で目と目が繋がっているかのようにアコとの距離に合わせて目線を動かしている。

 接触しそうな距離まで近づいたアコを避けて琴美が一歩下がる。一瞬、至近距離で見つめ合う。それからアコは外開きのドアを開けて出ていった。


 緊張していた由基はそこで密かに息をついた。琴美がゆっくり振り向く。

「高校生ですか? すごい、若いですね」

「若いって、ことちゃんだって若いじゃないか」

「いえいえ。現役高校生からしたら、わたしなんてオバサンです」

 JDがオバサンなら、三咲などどうなるのだろう。恐ろしいことを考えかけ、由基は思考を停止する。琴美は琴美で、またぼんやりと通用口の方を見ている。


「ことちゃん?」

「あ、いえ。すごい、目を引かれる子だなって」

「化粧がすごいもんね」

「ええ、はい。流行りのメイクですごいです」

 どうやら、すごいの意味合いが異なることは感じたが、メイクのことなどわからない由基は黙る。

「わたしも、もう少しおしゃれをしたらって母に言われるのですけど、なかなか。お洋服でもなんでも無難なものばかり選んでしまって。お化粧だってもう少し……」


「そう? ことちゃんは今のままでいいと思うけど」

 うっかり、ついうっかり、本音が口から出てしまった。琴美が驚いて由基の顔を見る。

「ごめん、おしゃれのことなんかわからないおっさんが余計なことを」

「いえ」

 ふるふると首を横に振る琴美の頬は赤く染まっている。

「なんか。嬉しいです」


 まずいぞ、と由基は内心でうろたえる。このこそばゆい空気感。店長とスタッフ、おっさんとJDがかもしだしていいものじゃない。日頃気をつけているのに、アコの急襲による動揺が尾を引いているようだ。


「ああそうだ。キウイが足りなくなりそうだったんだよね。買いに行かなきゃ」

「それならわたしが」

「いいよいいよ。俺が行く。ショートを補充しなくちゃだからナマを準備してくれる?」

「はい、わかりました」

 行儀の良い返事を背中で聞き、逃げるように事務所を出て、由基はほっと息をついたのだった。

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