第二話 ガルーダの宝石

00 ガルーダ

 数ある鉱物の中でも、赤い輝きとして名高いのはガルーダの宝石だ。幼子ほどの大きさがあり、人の身に余る力を秘めた魔鉱石の一種だと言われている。最初の発掘は伝承戦争以前、神話の時代に遡り、ドワーフの手によって行われた。発見場所はゴリアス大渓谷の底深く、溶岩と沸騰した水が流れる悪魔の小路と呼ばれる地層であったらしい。そしてゴリアス大渓谷の断崖にスヴァルトアールヴァヘイムという都市を築いたドワーフたちは、持ち帰った赤い大きな石を守り神として崇めたそうだ。その後、ドワーフは伝承戦争の敗北者として歴史から姿を消し、次に赤い大きな石を手に入れたのは、ゴリアス大渓谷に棲みついた終焉の邪竜だった。終焉の邪竜は、赤い大きな石の力を用いて、悪事の限りを働いたという。多くの戦士が討伐に名乗りを上げたが、邪竜の弱点は額の三つ目にあり、どんな矛も届くことはなかった。そこでヌアザの勇者スレイヴは一計を案じ、ガルーダの王スパルナと盟約を交わしたという。空から戦いを挑んだ勇者スレイヴは、見事に終焉の邪竜を討伐した。そして力を貸してくれたお礼に、赤い大きな石をスパルナに譲ったという。これ以降、大きな赤い石はガルーダの宝石と呼ばれるようになった。


 ――レオン・シャンクス『ほうき星を求めて~宝石の神話~』(幻想書院、一七五五年)



 むかし、むかし、あるところに、ガルーダがいました。


 ガルーダはトリのあたまと、ニンゲンのからだをもっている、おそろしいカイブツです。


 ガルーダは、せなかのつばさで、いつも、そらを、じゆうに、とびまわっていました。


 あるとき、ガルーダは、ナーガと、しょうぶをすることに、なったといいます。


 ナーガは、ニンゲンのからだと、ヘビのあしをもつ、おそろしいカイブツです。


 でも、まけるのがだいきらいな、ナーガは、ガルーダとの、しょうぶで、ズルをしました。


 しょうぶに、まけたガルーダは、ナーガのいうことを、なんでも、きかなくてはいけません。


 ガルーダは、まいにち、まいにち、ナーガのために、イヤイヤ、はたらきつづけたそうです。


 そんな、あるひ、ガルーダは、ナーガに、もういっかい、しょうぶをしようといいました。


 くものおしろに、かくされている、ひみつのおくすりを、とってくれば、ガルーダのかちです。


 ガルーダは、くものおしろまで、とんで、ひみつのおくすりを、さがしました。


 とちゅうで、かみさまに、いじわるを、されても、ガルーダは、がんばって、とびつづけたといいます。


 やがて、とうとう、ガルーダは、ひみつのおくすりを、みつけました。


 でも、ひみつのおくりすを、まもっているのは、おおきなナーガだったのです。


 おおきなナーガは、めから、ほのおをふきました。


 ガルーダは、おおきなナーガの、めに、すなを、かけて、なんとか、たいじしたといいます。


 ガルーダは、ぶじに、ひみつのおくすりをてにいれました。


 そしてナーガのいうことを、にどと、きかなくても、よくなったのです。


 ひみつのおくすりを、のんだ、ガルーダは、とても、つよく、なりました。


 そして、ひみつのおくすりを、ひとりじめしていた、ナーガを、たべるように、なったそうです。


 みんなも、かぜを、ひいたら、おくすりを、ちゃんと、のみましょう。


 にがいおくりすを、がまんすれば、いつか、ガルーダ、みたいに、とても、つよくなれますよ。


 これは、むかし、むかし、とおい、せかいの、おはなしです。


 ――ゲラルト・ミュラー『せかいのおはなし』(ヌアザ教会児童館、一八二二年)



 ゴリアス大渓谷の寒空は、ワイヴァーンの翼ではなく、ガルーダの赤い羽根に支配されている。

 ガルーダは魔力を操る鳥の頭と、黄金の鱗に守られた人間の体を有する、半鳥半人の怪物だ。

 宝石に目がなく、きらびやかな装飾品を身に着けた旅人はかっこうの獲物となるだろう。

 ガルーダは同じゴリアスの地に棲むナーガを主食とし、なによりも優先して襲いかかるそうだ。

 ゴリアス大渓谷の麓街に、ガルーダの王スパルナを怒らせるなかれ、という言い伝えがある。

 スパルナの逆鱗に触れた夜、ゴリアスの空には刃の嵐が渦巻き、血の雨が降るという。


 ――チェリン・エン『怪物夜噺』(幻想書院、一七一〇年)




【登場人物】

 ユウリス:黒髪の青年。闇祓い。外見は二十代前半。本編の主人公。

 トリス:山岳地帯に住んでいた赤毛の少女。十五歳。

 ライラ:金髪の修道女。十五歳。


 メドラウト:赤毛の少女。自称、麗しき円卓最強の姫騎士。十八歳。

 エウラリア:ヌアザの姫。萌黄色の髪と常盤色の瞳。時詠みの巫女。十六歳。


 ネミディア王:金髪の男性。神聖国ヌアザの王。五十歳。

 アロイス:剃髪の男性。ダーナ神教の教皇。六十六歳。


 ヤーバン・クス:褐色肌の男性。南部の商人。五十二歳。

 ケルヴィス・ゼルマン:白髪の男性。司教。五十六歳。

 グワルマフイ:金髪の男性。額に十字傷を刻んだ円卓の騎士。四十二歳。


 ケーラ:教会のシスター。三十四歳。


 クラウ:狼に似た魔獣。白い毛並み、金色の瞳。雌。

 ウルカ:亜麻色の髪、そばかすの女性。闇祓い。外見は二十代前半。




【トゥアハ・デ・ダナーンの世界】

 神聖国ヌアザ:大陸中部に位置する国。首都はノドンス市。


 ノドンス市:神聖国ヌアザの首都。別名、白亜の都。

 コッカーサンド平原:謎の石碑群が点在する平原。

 大王街道:聖王国ダグザ、神聖国ヌアザ、豊穣国ブリギットをつなぐ街道。

 ゴリアス大渓谷:大陸の中部から北西部に伸びる山岳地帯。

 ボーガバティー:ゴリアス大渓谷の地下に築かれたナーガの都。


 登場人物イラスト(リンク先:近況ノート)

 https://kakuyomu.jp/users/nagarekawa/news/16817330654131674912

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