最終話 邪竜の後継者
00 ドラゴン
それは神話の獣、異境の番人、怪物の霊長としても知られており、幻想と神秘の代名詞ともいえるだろう。
様々な
起源を
大いなる巨人の亡骸に創生の大樹を植えた神々は、トゥアハ・デ・ダナーン大陸を創造した。そして外界のあらゆる災厄を封じるため、世界と同じ大きさになれるミズガルズオルムの
現在では
竜種は、古の書物において星の獣という名で登場する。ここに記される星が天上に散らばる夜のきらめきではなく、大陸球体説における地球を示しているのだとしたら、神々の起源を探る上での新たな手がかりとなるかもしれない。
一方でドラゴンの本質から大きくかけ離れているのが、炎や氷を吐くような怪物としての側面だ。これは娯楽を重視した近代創作の拠る誤解が多く、実際に神話で語られる竜種は毒を
時の移ろいと共に、ドラゴンは怪物の覇者として変化を遂げた。鱗の一枚、血の一滴、牙の欠片すら宝物とされる竜種を追い求めて、旅立つ者は後を絶たない。エルフ語を用いたドラゴン・スレイヤーという称号は、戦士たちが勝ち得る最高の栄誉に間違いないだろう。竜殺しの逸話は数あれど、もっとも有名なのはブリギット地方の建国神話だ。こんな話がある。
魔神バロールの呪いによって、火の女神ブリギットは
伝承の時代が終わりを迎えた現在も、ドラゴンは依然として神秘の象徴だ。人間の価値観など意に介さず、その存在は
――フラン・ビィ『神話と魔獣』(アーヴェン書房、一七九一年)
【登場人物】
ユウリス・レイン:黒髪の少年。公爵家の庶子。本編の主人公。十五歳。
キーリィ・ガブリフ:赤毛の男性。若手の元老院議員。三十七歳。
セオドア・レイン:ブリギット国を治める公爵。ユウリスの父親。四十一歳。
グレース・レイン:セオドアの伴侶。神聖国ヌアザの元王族。四十三歳。
アルフレド・レイン:金髪の少年。レイン公爵家の嫡男。十四歳。
イライザ・レイン:金髪の少女。レイン家の長姉。ウィッカの盟主。十六歳。
ドロシー・レイン:金髪の少女。レイン家の次女。双子の姉。十二歳。
エドガー・レイン:金髪の少年。レイン家の三男。双子の弟。十二歳。
ヘイゼル・レイン:金髪の少女。レイン公爵家の三女。八歳。
カーミラ・ブレイク:赤毛の少女。ユウリスの恋人。魔女。十六歳。
マーサ:ふくよかな老婆。ウィッカの盟主。
アナスタシア:銀髪の若い魔女。
サヤ:下水道に住む赤毛の幼女。
ナダ:下水道に住む妙齢の金髪の女性。
ボイド:下水道に住むサヤの父親。三十代後半。
エイジス・キャロット:ちょび髭の男性。ブリギットの市長。四十七歳。
ゲラルト・ミュラー:初老の男性。ブリギット大聖堂の司教。
ウィリアム・アーデン:赤毛の男性。ブリギット領邦軍の将軍。四十一歳。
ジェイムズ・オスロット:口髭の男性。ブリギット市の警部補。三十九歳。
グレン・ファルマン:痩せこけた男性。ブリギット市の警察官。三十九歳。
ナルニア・ブルックウェル:赤毛の女医。二十七歳。
テムジン:下水道の中年男。片脚の不自由な自称占い師。
ランドロフ・カース:鍛冶屋の息子。愛称はランディ。十七歳。
ロバート・カース:鍛冶屋の主人。ランドロフの父親。
アーネスト・アノ:剃髪の若い男性。ブリギット武術道場の三高弟。師範代。
ネイナ・ナーナ:赤毛の若い女性:ブリギット武術道場の三高弟。二番手。
ガノ・ルガト:赤毛の若い男性:ブリギット武術道場の三高弟。三番手。
フミル:クマのぬいぐるみ=パッフィに宿る怨念。別名ミアハの人形。
エリザベス・オルキン:薬師の娘。愛称はリジィ。十四歳。
ジェシカ・バーグ:銀髪の女性。レイン家に仕える侍女。二十八歳。
ダニー・マクフィー:糸目の青年。キーリィ・ガブリフの秘書。
リュネット:猫の妖精。ケット・シーの姫。
オリバー:三十四年前の大洪水で奇蹟を起こした少年。故人。
クラウ:白狼と呼ばれる雪原の魔獣。白い毛並み、金色の瞳。
ウルカ:亜麻色の髪の女性。怪物狩りの専門家。外見は二十代前半。
登場人物イラスト(リンク先:近況ノート)
https://kakuyomu.jp/users/nagarekawa/news/16817330654131674912
【これまでのゲイザーは】
舞台は豊穣国ブリギット。大いなる水と土の都を
次の楔は一ヵ月後、魔導王リッチの暗躍。オリバー大森林から解き放たれた二つの至宝、別名ブリギットの剣と指環を巡り、ゴーレムが闊歩した市庁舎占拠事件。この企みは失敗に終わり、さらに街に混乱を起こす目的で手引きされた者たちは、火竜の子供を巡る予期せぬ騒動を引き起こした。
最後の
そして秋、追い討ちの楔。棄民である地下住民の不満を煽り、地上との隔絶が浮き彫りになった収穫祭をもって呪詛は成就する。いまにして思えば、あのとき市が棄民の存在を認めていれば、この計画は中途で閉ざされていたかもしれない。
道のりは、決して平坦ではなかった。闇祓いと呼ばれる者たちに行く手を阻まれ、計画は当初の予定から何度も軌道変更を余儀なくされている。その中心にいたのが、公爵家の長男でありながら忌み子と呼ばれる少年ユウリス・レインだ。彼は傷つき、迷いながらも、一年に渡る戦いを力強く駆け抜けた。その矜持と意思を、心から讃えよう。
だが、もはや、なにもかもが手遅れだ。春の感謝祭が間近に迫り、紅と蒼の満月が瞬く今夜、ブリギットは終わりを迎える。怪物は地底より解き放たれ、都市を焼く黒き火が絶えることはない。これは悪意に満ちた世界に絶望した独りの男が、永劫の復讐を遂げる物語だ。
僕の名はキーリィ・ガブリフ。魔導王リッチの子にして、悪意の
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます