第八話 魔女の沼地
00 ドリュアス
ドリュアスは、大樹に宿る精霊だ。
別名をニンフとも呼ばれ、自然界に宿る美しい乙女として知られている。
森で迷う者がいれば快く導き、空腹を訴えれば木の実や水場を提供してくれる、そんな人懐こい性格もあり、彼女たちは古くから人々に愛され続けてきた。しかし精霊の命は
彼女たちは薄緑の肌と
こんな話しがある。森を訪れた若い男に、ドリュアスが恋をした。やがて二人は結ばれ、男は森と町を行き来しながら精霊との愛を育んだ。ある日、逢瀬の約束を忘れていた男は家で寝過ごしてしまう。いつまでも現れない相手の身を案じたドリュアスは、同胞や怪物の手も借りて彼を探しまわった。ようやく目覚めた男は慌てて森に駆けつけるが、事情を聞いたドリュアスは怒ってしまう。こらしめてやろうと考えた精霊は、蜂をけしかけて彼を森の奥へと追いたてた。出口のない自然の迷宮に囚われた男は、とうとう帰れなくなってしまう。しばらくして機嫌を直したドリュアスが迎えにいくと、彼はすっかり衰えて真っ白な髪の老人になっていた。人間と精霊は、時間の感覚に大きな隔たりがあったのだ。しかし男は彼女を恨んではおらず、約束を破った日の出来事を真摯に謝罪にした。その清い心に胸を打たれた精霊は、彼の命が尽きるまで生涯を共にしたという。
ドリュアスは常に暇を持て余しており、娯楽に飢えている。もし彼女たちに遭遇したのなら、街の遊びを教えてあげると喜ばれるはずだ。愛と誠意を忘れずに接すれば、彼女たちと結ぶ友情は永遠に続くだろう。
――フラン・ビィ『精霊の系譜』(幻想書院、一七二五年)
【登場人物】
ユウリス・レイン:黒髪の少年。公爵家の庶子。本編の主人公。十五歳。
カーミラ・ブレイク:赤毛の少女。ブレイク商会の子。魔女。十六歳。
セオドア・レイン:ブリギット国を治める公爵。ユウリスの父親。四十一歳。
グレース・レイン:セオドアの伴侶。神聖国ヌアザの姫。四十三歳。
イライザ・レイン:金髪の少女。レイン家の長姉。ウィッカの盟主。十六歳。
アルフレド・レイン:金髪の少年。レイン公爵家の嫡男。十四歳。
エドガー・レイン:金髪の少年。レイン家の三男。双子の弟。十二歳。
ドロシー・レイン:金髪の少女。レイン家の次女。双子の姉。十二歳。
キーリィ・ガブリフ:赤毛の男性。若手の元老院議員。三十七歳。
エイジス・キャロット:市長。薄毛、ちょび髭の男性。四十七歳。
ベアトリス・ブレイク:ブレイク商会の女主人。カーミラの母親。
エドモンド・ブレイク:ブレイク商会の番頭。カーミラの父親。
グレン・ファルマン:痩せこけた男性。ブリギット市の警察官。三十九歳。
ランドロフ・カース:鍛冶屋の息子。愛称はランディ。十七歳。
ロバート・カース:鍛冶屋の主人。ランドロフの父親。
ジェシカ・バーグ:銀髪の女性。レイン家に仕える侍女。二十八歳。
マーサ:ふくよかな老婆。ウィッカの盟主。
アリスレイユ:銀髪の少女。ウィッカの盟主。
キルケニー:長い鼻の老婆。カーミラとイライザの師匠。
ガラード:金髪の男性。円卓の騎士。
グィネヴァ・キャストゥス:金髪の女性。エーディンの王女。
クラウ:白狼と呼ばれる雪原の魔獣。ユウリスの相棒。雌。
ウルカ:亜麻色の髪の女性。怪物狩りの専門家。外見は二十代前半。
登場人物イラスト(リンク先:近況ノート)
https://kakuyomu.jp/users/nagarekawa/news/16817330654131674912
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