第103話 誕生日デート③

「着きましたよ、謙人くん!」


 電車に乗ることおよそ15分。俺たちはショッピングモールにやってきた。涼風は見たい映画が見れることがとても嬉しいのか、さっきからテンションマックス!って感じだ。なんだかとても微笑ましい。


「そうだな、楽しみだな。だけど、はしゃぎすぎて転ばないようにな」


「むぅ~。私だって、子どもじゃないんですから」


 頬を膨らませて抗議する涼風。めちゃくちゃ可愛い。


 その膨らんだ頬を指先でツンツンとつついてみると、その膨らみがみるみるしぼんでいった。涼風のほっぺ、めちゃくちゃすべすべで柔らかい。なんかこれ、くせになりそう……。


 しばらくその柔らかほっぺをツンツンしていると、涼風も恥ずかしくなったのか顔を赤くした。


「あ、その、謙人くん……。そんなに、ほっぺが好きなんですか……?」


「涼風のほっぺ、すべすべもちもちでめっちゃ気持ちいい。なんか、くせになるよ」


「あ、あの、お家で触ってもいいですから、ここではちょっと……。恥ずかしいです……」


 せっかくここまで来たけどさ、このまま引き返してもいいですかね?帰って涼風のほっぺを堪能したいんだけど……。


「じゃあ、これは帰ってからのお楽しみに取っておくよ。それより、行こうか?」


 ま、流石にそんなことが出来るはずがないので、おとなしく我慢しますよ。




 そして二人歩いて映画館に来たわけだが、館内もなかなかの混み具合だった。それにしても子連れが多い。さっきからちびっ子のはしゃぎ声が響き渡っている。


「ちっちゃい子って、可愛いですよね。私、子ども大好きなんです」


 子どもを抱いた涼風ねぇ……。めちゃくちゃ可愛いんだろうなぁ……。


 ついそんなことを考えていたからか、ぽろっと口を滑らせてしまった。


「俺たちの子供も可愛いんだろうなぁ……」


「へっ⁉」


 あ、しまった。言うつもりはなかったんだけど……、


「え、え~っと、涼風?あ、あの~……」


 涼風は放心状態になってしまっていた。どうしようか……。流石に涼風もあんなこと言われたらなんかされるんじゃないかって警戒するんじゃないか?彼女の誕生日に彼女を不安がらせるようなことはしちゃいけないよな!


「涼風、ごめん!あの、ホントにうっかり言っちゃっただけで、今すぐどうこうっていうわけじゃないし。涼風だって、いきなりそんなこと言われたらびっくりしたよな?ホント、ごめん!」


 思いっきり涼風にむかって頭を下げた。周りの人も、修羅場だと勘違いしたのか心配そうに俺たちの事を見ている。やば、恥ずかし……。


「け、謙人くん。落ち着いてください。と、とりあえず、場所を変えましょう!」


 涼風に連れられて、一旦映画館から出た俺たちは、近くのベンチに腰を下ろした。


「涼風、本当にごめん。さすがにデリカシーがなかったよな」


「そんなことないです!そ、その、私もいきなりでびっくりしましたけど、その、嬉しかったんで……」


 涼風は顔を赤らめながらはにかんで言った。


「え、そうだったのか……?」


「はい。私だって、その、謙人くんとの……子供、欲しいです……。あ、でも、今すぐとかじゃなくて!あ、でも、謙人くんがすぐに欲しいって言うなら……」


 慌てる涼風が可愛くて、そっと抱きしめた。


「涼風、落ち着いて。大丈夫、俺も今すぐにとかは全く考えてないし、ちゃんと将来の見通しが立ってからそういうことはするって決めてるから。それに……、涼風とはもうちょっと、彼氏彼女でいたいからね。結婚すれば、何十年も夫婦でいられるわけだし」


 涼風の体から、強張っていた力が抜けていくのを感じた。


「謙人くんは、それでいいんですか……?」


「もちろん!涼風だって、まだ怖いだろ?俺は涼風が嫌がることはしたくないし、涼風が悲しむ顔は見たくないからな。お互いにその気になったらってことでいいんじゃないか?」


「そう、ですか……。ありがとうございます……。私やっぱり、まだちょっと怖いです……」


「そう思って当たり前だ。逆に何とも思ってなかったらそれはそれで俺がちょっと心配になっちゃう……。ま、今はそんなこと気にしないで、デートを楽しもうよ!」


「はい!」


 涼風も満面の笑みで頷いてくれた。そして俺たちはまた映画館へと入っていった。

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