第87話 体育祭④
「さて、じゃあ次は涼風だな」
「はい!頑張ってきますね!」
俺は涼風の頭を撫でた。
「よし!これでもう大丈夫だ!今のは俺からのおまじないだからね」
涼風は嬉しそうに頷いて、入場口の方へと駆けていった。涼風、頑張れ!
結論から言おう。
勝った!勝ちましたよ!それはもう圧倒的勝利……というわけでもなく、良い戦いだったんだけど。
いや、でもね、俺が注目してほしいのはそこじゃないの!涼風なの!だって、可愛すぎるんだよ?ちっちゃくぴょんぴょん跳ねながら、必死で手を伸ばして入れようとしてるの。もう、健気で可愛すぎて、写真撮りたかったぁ……。
体育祭は授業に準じるものだとか言って携帯使用禁止にしたやつら、まじで恨むわ。
あ、義治さん、絶対撮ってるよね?あとで五千円で頂こう……。
と、そんなことを考えていると、涼風が帰ってきた。俺はすかさず涼風を抱きしめた。
「け、謙人くん!ど、どうしたんですかいきなり?」
「こっから見える涼風が可愛すぎてちょっとやばかった。まじで涼風が可愛すぎて、見てて俺死んじゃうかと思った」
涼風は顔を真っ赤にした。
「そ、そんなに言われたら恥ずかしいです……。そ、それよりも、今度は謙人くんの出番じゃないですか?私もここで一生懸命応援してるんで、頑張ってきてください!」
本当は涼風とここでずっとこうしていたかったけど、涼風にキラキラの目で頑張ってなんて言われたら、全力を出すしかないよね?
「うん。それじゃ、行こうと思うんだけど、その前に……」
俺はもう一度、涼風を抱きしめた。
「うん。涼風からのおまじないもばっちり貰ったし、頑張れそうだよ!」
「えへへ。謙人くんが今日はいっぱいぎゅってしてくれます。幸せです……」
え、なにこの可愛すぎる生き物は?俺マジで行かなくていい?
とは思ったものの、やはりそんなわけには行かないようで……
『借り物競争に出場する生徒は、入場門にお集まりください』
あ、招集かかっちゃった。仕方ない、行くか。
俺はとぼとぼ入場門まで歩いていくのだった。そしてその途中で……
「あれ、謙人じゃないか!こんなところにいたとはね。涼風ちゃんは一緒じゃないのか?」
父さんたちに遭遇した。涼風の両親も一緒だった。
「あ、父さんたちじゃん。俺これから借り物競争に出る所なんだ。だから、涼風は応援席で待ってる。終わったらもう一回寄るよ」
「そうなのか。じゃあばっちり応援するから頑張れよ!」
「謙人くん、頑張ってね!」
「あはは……。義治さんと亜紀さんも、ありがとうございます……」
なんか、適当にやればいいかと思ってたんだけど、どんどんそうできない状況に追い込まれてない?これは必然的に頑張らなくては行けなくなってきてしまった……。
そして、入場門に行くと……、
「あ、横取りくんじゃないか!君もこれに出るなんて、奇遇だねぇ!」
長谷川先輩がいた。しかも優雅に俺に手を振ってやがる。質問次第では、涼風に頼みに行くつもりだなぁ?許さん!
俺はこの試合で、誰が何といおうと本気を出すことを誓った。
「それでは、位置について、よーい、ドン!」
一斉に走者が走り出した。その中でも長谷川先輩は足が速いらしく、一番乗りでお題が書かれた紙を拾った。俺はそれだけ確認すると、自分も一目散に紙を拾って中を開いた。そこには……、
『この人となら、一生を共にしてもいいと思える人を、お姫様抱っこでゴールまで連れていく』
出たよ……。たまに来るやばいお題。これ、ただの彼氏彼女でもなかなかにきついお題じゃないか?将来の話してるカップルなんて、俺たち以外にそうそういない気がする。
って!今はそんなことを考えている場合じゃない!涼風だ!
どうやら長谷川先輩も涼風を呼びに言ったらしく、すでに一緒に来てほしいと頼み込んでいた。ところが涼風は決して承諾していないようだ。
なんとか間に合え!
「涼風ちゃん。僕と一緒に来てくれない?今の僕には君が必要なんだよ」
「行きません。他をあたってください」
「そんなこと言わずにさぁ……」
「涼風っ!悪いが、一緒に来てくれるか?」
涼風は先ほどまでとは打って変わって明るい表情になった。
「謙人くん!ずっと待ってたんですからね!」
「悪い悪い。よし、それじゃあ来てくれ!」
「おい!ちょっと待て。今は僕が涼風ちゃんにお願いしているところなんだ。邪魔は良くないと思うんだけど?」
こいつ面倒くせぇ……。お前今、断られてたじゃんかよ……。え、どうしたら諦めてくれんの?
「謙人!気にしなくていいぞ!この先輩、今拒否られてたから!借り物競争のルールは、同じ人に頼んだ場合、頼まれた人が承諾したほうが連れて行っていいんだ。そこに順番なんて関係ねぇ!だから、早く姫野さん連れてっちまえ!」
康政がそう叫んだ。なんとも良いことを聞いた!
「サンキュー!康政。助かった!」
「いいってことよ!」
俺は涼風とグラウンドまで下りて、そして涼風に言った。
「俺のお題は簡単に言うと、涼風をお姫様抱っこすることなんだ。だから、ちょっと揺れるかもしれないけどいいか?」
「謙人くんにまたお姫様抱っこしてもらえるなんて、夢のようです!喜んで引き受けます!」
俺は涼風にニコッと笑い返すと、腰と足に手を添えて涼風を一気に持ち上げた。相変わらず軽い。
俺がグラウンドでお姫様抱っこをしたことで、周りからは叫び声が飛び交っている。だが、そんなものにいちいち耳を傾けている余裕などない。
「それじゃ、行くぞ涼風!」
「はい!頑張ってください、謙人くん!」
俺は涼風をお姫様抱っこしながら、校庭を駆け抜けた。
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