第84話 体育祭①
「涼風~、忘れ物は大丈夫か~?」
「はい!ばっちりです!」
「よし!それじゃ、行くか!」
今日はいよいよ体育祭当日。俺たちは今ちょうど、支度を終えて玄関を出ようというところだった。というわけで……
「それじゃ、行ってきます……」
「私も、行ってきます……」
恒例となった行ってきますのチュー。今日もばっちりだ!
今日は土曜日ということもあって、いつもよりも通学路は人通りが多かった。俺はさりげなく車道側に移ったわけだが、するどい涼風さんにはバレバレだったようで……
「謙人くん、ありがとうございます。そういうさりげない気づかいができるところ、大好きです……!」
今日、行かなくてもいいかな?俺的には体育祭よりも涼風を愛でることの方が全然やる気が出るんだけど……。
しかしそういうわけにもいかないため、俺は涼風の手をぎゅっと握って、
「ありがと、涼風。俺も、涼風のそういう人の良いところをいっぱい見つけられるところ、大好き!」
と言ったわけだが、涼風たんは照れてしまったらしく、顔をそむけてしまった。
可愛すぎる……!まじで天使なんじゃないかな?今日とか、またあの先輩に言い寄られそうで怖いなぁ……。あれ?そういえば……、
「ねぇ、涼風。もしかしてなんだけどさ、俺まだ涼風に、後夜祭のダンス一緒に踊ってくださいって頼んでないよね?」
涼風も今思い出したようだ。
「あ、そういえば私も謙人くんに頼むのすっかり忘れてしまっていました!」
「ずっと一緒にいるから、なんか一緒が当たり前になってきたな」
二人でおかしくなって笑いあった。
「それじゃ、改めて頼むけど……。後夜祭、俺と一緒に踊ってください!」
右手を涼風の方にぐっと差し出すと、涼風がそれをぎゅっとつかんでくれた。
「はい!私の方こそ、よろしくお願いします!」
「オッケーされるの分かってても、やっぱり緊張するなぁ……」
「こういうことには私も慣れません……」
それからまた、二人で笑いながら学校まで歩いて行った。もちろん、手を繋ぎながら。
教室に入ると、いつも以上にクラスは盛り上がっていた。
「おっ!バカップルの登場だぜ!相変わらず熱いなぁ~!」
俺たちが登校してきたのを目ざとく発見した岸田がそう叫んで、クラス中の視線が俺たちに集まった。
「姫野さんは今日も美しい……」
「あの二人見てると、なんでか知らないけど心が温まるのよねぇ……」
「今日も手を繋いできて……姫野さん、嬉しそうだなぁ……」
「私の彼も、あのくらい積極的だったらいいのに……」
う~ん……、朝から注目されるっていうのは何とも気恥ずかしい。
「ヒュー!お二人さんは今日もラブラブだねぇ!」
「康政はちょっと黙れ」「黙ってください」
「二人してひどいっ!」
とりあえず、目の前にいた康政をボコして、俺たちは席に着いた。するとちょうどそのタイミングで、教室に入ってきたやつが……
「姫!僕のプリンセスはどこだい!」
あの人、なんかの劇団でも入ってんのか?あんなこと言いながら登場するやつ、なかなかいないぞ?
残念イケメン先輩との初対面だ。抑えなければと思うのに、顔は勝手に敵意むき出しになってしまう。そして彼は涼風を見つけると、一目散に駆け込んできた。
「おぉ!姫!この前からずっと会いたかった!君は姫野涼風ちゃんって言うんだね!ちなみに僕は、
さて、俺はいつ出ていこうかな。と思っていたのだが、
「えっ?涼風?」
彼女はいきなり立ち上がると、俺の膝の上にいつものように座った。これには流石の彼も驚いているようで、この光景に固まっていた。
「謙人くん。朝からなんだか疲れちゃいました。こうしていてもいいですか?」
「えっ?あ、あぁ、いいけど……」
なんか、その場のノリでオッケーしちゃったけど、よくよく考えたら、これ俺先輩にぶん殴られるんじゃね?えっ、こわっ……
「なるほど。君が僕の涼風ちゃんを横取りした奴か」
はっ?僕の涼風ちゃんだと?妄想もいい加減にしようか?
俺は涼風の背中に手を回して、抱きしめながら先輩に言った。
「何言ってんだ?涼風は俺の彼女だ。悪いが他をあたってくれ」
涼風は顔を真っ赤にして俺の肩にもたれかかり、教室からはそのやりとりを見ていた奴らから黄色い歓声があがっているが、俺の眼中にはそんなものは一切入ってこなかった。ただこいつだけ、この異常者をどうやって追い出そうか考えていた。
すると涼風がおもむろに俺の顔を覗き込んで、いきなりこう告げた。
「謙人くん、チューしてもいいですか?」
「へっ?え、ちょ……!」
涼風はそう言うと俺の返事を待たずに俺の唇に彼女のものをくっつけた。まさかの公開キス。めっちゃ恥ずい……。でも、十分な牽制にはなったかな?
「へ、へぇ……。なるほど。涼風ちゃんはそいつに弱みを握られてるのか。可愛そうに。僕がそいつを二度とそんなことが出来ないように懲らしめてあげるから」
「謙人くんになにかしたら許しませんよ」
恐ろしいほどに涼風の声が冷酷だった。思わず涼風の顔を覗き込むと、涼風は俺と目を合わせてニコッと笑った。
うん、きっと俺の耳が変だったんだよな。涼風があんな声出すわけないじゃん。
そう思うよりほかなかった。そしてこの時俺は誓った。絶対に涼風を怒らせてはならないと。
そしてその頃、先輩はというと……
「あはは、照れちゃって可愛いね!もうホームルーム始まっちゃうから、今は行くけど、また後で校庭で会おうね!じゃあね、涼風ちゃん!」
そう言って、手を振りながら教室を出ていった。
え?涼風のあんな声聞いて、まだあの人はいけると思ってるの?俺でも相当ビビったっていうのに?
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どうも、作者です!『ピンク色の傘』のフォロワーさんが150人達成しました!皆さんありがとうございます!
そして、『五年の時を経て、君と』の方も、PVが1000を突破しました。短編がこんなに伸びるとは、私自身もびっくりです。
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