冒険の始まり

ナビゲーター

「ん? ここはどこだ??」


 気付けば、俺は草むらの中で倒れていた。


(お目覚めですか? マスター)


 誰だ!? ここはどこだ??


 辺りを見渡したが、誰の姿も見えない。

 鬱蒼と生い茂る草木が見えるだけだ。


(初めまして。私はマスター専用のナビゲーターです)


 その声は頭の中に直接響いていた。


 えっと、ここはどこですか?? あなたは誰ですか?

 心の中で念じてみると、返答はすぐ来た。


(はい。マスター。ここはミッドガルド大陸の南西部です。私はマスターのナビゲーターです)


 マスターとは、俺のことだろうか。

 ナビゲーターとは、何をナビゲートしてくれるのだろう?


(はい。マスターとはソラ様のことです。他の呼び名がよろしければ、変更することも可能です。私はマスターがこの世界を生き抜く為の手段をナビゲートする為に遣わされました)


 ふむ。どうやら俺は夢を見ているらしい。


(マスター。これは夢ではありません)


 夢ではないらしい。つまり現実だ。


 ………


 ………


 ………


 現実?? さっきまで家に居たのに?? 頭の中に変な声が聞こえるのに??


 1時間程、悩み苦しみ、考え抜く。


 ダメだ……全く答えが出ない。


 落ち着け。冷静になるんだ。冷静に……


 えっと、ごめん。ここは何処だっけ??


(はい。マスター。ここはミッドガルド大陸の南西部です)


 ミッドガルド大陸ね……聞き覚えが、いや見覚えがあるな。たしか、昨日ジェネシスオンラインの公式サイトの世界観のページにそんな地名があった気がする。


 えっと、つまり俺はゲームの世界にいるってことか??


(いいえ。ゲームの世界ではありません。ここは新しい世界ジェネシスです。マスターは創造主より選ばれこちらにやって来ました)


 んー。なんか理解しづらいが、俺は異世界に来たらしい。小説などでよく見る展開だが、まさか実現するとは驚きだ。


 まぁ、俺もそうした願望が0か? というとそうでもない。健全な男の子(※34歳)なので、そういうことも受け入れてみよう。


 とりあえず、いくつか質問はあるが……まずは、元の世界に帰る方法は?


(元の世界に帰る方法に関する情報は持ち合わせておりません。創造主にお会い出来れば、その方法も判明する可能性はあります)


 情報は持ち合わせて無いと。それなら、その創造主にはどうすれば会えるの?


(その情報は持ち合わせておりません)


 質問に対する答えが全部"その情報は持ち合わせておりません"とかじゃないよね?? それなら次は……この世界を生き抜く手段とやらを教えてくれ。


(了解しました。まずは、マスターにステータスの見方からご説明致します)


 お!? 初めてまともな回答が来た。ってかステータス?やっぱりゲームの世界なんじゃないのか??


(ポケットの中にございます、端末をご覧下さい)


 そう言われて、ポケットの中を見ると少し大き目のスマートフォンのようなものがあった。


 とりあえず、いじってみると普通にステータスというアイコンがあったので、押してみた。


 名前:ソラ

 クラス:開拓者(LV1)

 サブクラス:未設定


 生命力:100

 精神力:10

 腕力 :10

 耐久 :10

 敏捷 :10

 魔力 :10

 神力 :10

 運 :10


 攻撃力:10

 防御力:15


 所持金額:100G


 装備品

 左手:なし

 右手:なし

 頭:なし

 腕:なし

 体:開拓者の服

 足:開拓者の靴

 装飾品:なし

 アクセサリー:なし


[ユニークスキル]

 マルチウェポン

(クラス制限を問わずに全ての武器を使用できる)

 大器晩成

(獲得経験値は下がるが、成長値にプラス補正が付く)


 ふむ。ゲーム等でよく見かけるステータス画面が表示された。特筆すべきは、ユニークスキルかな? マルチウェポンと大器晩成、共に自分のプレイスタイルに合っているスキルを獲得できてるみたいだ。


 俺は、飽きっぽいのか、新しいモノ好きなのか、とにかく多種多様な武器を扱う事が色んなゲームで多かった。とくに、とあるゲームでは全クラス装備可能といった、特殊効果の付いた武器を収集するのが趣味だった。


 また、大器晩成も非常に自分のプレイスタイルに合っている。強くなる為に、途中で遠回りして、弱い状態でプレイしたり、最初は弱いが、育てれば強くなるキャラクターの育成は大好きだ。初めてプレイしたオンラインゲームであるドリームファンタジア(通称DF)でも、周囲に最初はバカにされながらも能力の上限が0.01%上がるがレベルは初期値に戻る転生というシステムをこよなく愛していた。


 他にどんなユニークスキルがあるのか知らないが、今は純粋に喜ぶことにした。


 俺はステータスを確認すると、続けて説明をお願いした。


(スキルはレベルを上げるか、同系統のスキルを使い続けることによって、新たなスキルを習得します。スキルの詳細は端末にて確認できます。スキルはコマンドで詠唱をするかイメージすることにより発動致します)


 ふむ。端末にて、スキルというアイコンがあったので、押してみると


 剣術、槍術……格闘術、体術……火魔法、風魔法……錬金、鍛治……採掘、採取……料理……etc


 と多種多様なスキルが表記された。


 当然、全てのスキルレベルは1であった。


(その他、拾得品などのアイテムは全て端末に収納されます。端末のアイテムを開いて、該当のアイテムを選択することで、使用及び取り出す事が可能となります。マスターはアクセサリーをお持ちです。端末からアクセサリーを選ぶ事で装備する事が可能です)


 ナビゲーターの指示に従って端末を操作してアイテムというアイコンを押してみる。端末に記載されたアイテム欄の中には"@ホームの絆"と呼ばれるアイテムが表記されていた。

 "@ホームの絆"を選択すると、首に突然フライトゴーグルが出現した!? どうやら、このフライトゴーグルがとみみの選んだアクセサリーらしい。これって@ホームの絆じゃなくてとみみのアイデンティティーじゃないのか?


 しかし、便利な世界だな。まるで俺のいた世界のゲームを具現化した様な世界だ。


(その他には、こちらの端末を使用して遠くに離れたフレンドと会話をしたり、位置の把握などが可能となります。詳細は、その都度お話し頂ければご説明いたします。何か他に質問はございますか?)


 そうだな、あと三つほど尋ねたいことがある。


 まずは、この世界に選ばれて来たのは俺だけか?


(いいえ。マスター以外にもマスターの世界から30万人の人間がこちらの世界に選ばれました。実際には20万人ほどがこちらの世界に来ております)


 ふむ。俺以外にも向こうの世界から来ている人間がいるらしい。ジェネシスオンラインのβテストがこちらに来るきっかけならば、あいつらにも会えるのかな?


 その呼ばれた人達とこの端末を使って会話をすることは可能かな??


(いいえ。それは無理です。一度直接会って、識別登録を交わさないと端末の機能は使えません)


 ダメ元で聞いてみるが、こちらに呼ばれた人が誰かは知ってる??


(私には分かりませんが、各大陸に建造されている神殿に設置されている"路の標"を見れば分かります)


 おぉ! これは朗報だ。とりあえずは、その神殿に向かうことを当面の目標にしてみようかな。


 二つ目の質問だが、君の事を何て呼べばいい?


(え? 私ですが? 特に固有名称はないので、必要な時に呼んで頂ければそれで構いません)


 んー。それじゃ不便だし、名前を付けようか。今日から君の名前はキュロだ。気に入らないなら他の名前でもいいけど、どうする?


(キュロ……私の名前……? 分かりました。私の名前はキュロです。今日から改めてよろしくお願いします。マスター)


 うん。キュロよろしくね!

 やっぱりコミュニケーションを取るうえで、名前は重要だよね。


 最後の質問だけど、これから俺は何をしたらいいの?


(マスターの装備を整える為にここから歩いて30分程の距離にあるトマリ村へ向かう事を推奨します。その後はレベル上げを行い、北にあるノーブルの町を目指して、辿り着いたら冒険者ギルドで冒険者登録を行う事が推奨されております)


 なるほど! キュロありがとう! トマリ村へ向かいますか。


 道中はキュロのナビもあり、先ほどの場所から30分ほどで迷うことなくトマリ村へと辿り着いた。




 ◆




 トマリ村は木造の家と畑が立ち並ぶ100人程が生活をしているのどかな村であった。


 RPGの基本と言えば、村人の話を聞いて回ることだが、俺はとりあえず武器屋を探した。


 まぁ、何かあればキュロに聞けばいいしね!


 そして、キュロのナビに従ってやって来ました武器屋さん。


 見た目としては、武器屋と言うより個人商店の金物屋みたいな佇まいのお店であった。


 店に早速入ってみると


「お? 兄さんここら辺じゃ見かけない顔だが、ひょっとして開拓者様かい?」

 50歳ほどの店主が気さくに、話しかけてきた。


「初めまして。開拓者のソラと申します。今日から冒険を始めようと思うので、装備品を探しに来ました」

 キュロ以外の人物との会話に多少緊張しながらも返事を返す。


「驚いた!! ホントに開拓者様かい!? ってことは、あの予言はホントなんだねぇ。よくぞ、こんな辺境の村へ。品揃えは良くないですがゆっくりと見ていって下さい」


 ん? なんか開拓者という言葉に過剰なまでの反応を頂いた気がする。開拓者って偉いのか?? あとで聞いてみよう。とりあえず店内の装備品を物色するが、如何せん軍資金が100Gしかなく、店内の装備品を見るとそこまで、大金というわけではないらしい。


 装備品を見て回った結果、80Gの鉄の剣を購入することにした。


「そーいえば、さっき言ってた開拓者とか予言って何ですか??」

 剣を購入した俺はさっきの事を質問する事にした。

「あぁ、開拓者様はご存知ないんですね。この世界に昔から伝わるお話で"創世1000年に開拓者が顕れこの世界を完成させる"という予言があるんですよ」


 ふむ。なんかよく分からないけど、メインシナリオのバックストーリーみたいなやつかな?


「しばらくはこの村にいると思うのでまたよろしくお願いします」

 店主に礼を述べて武器屋を後にした。


 武器も買ったことだし、早速レベル上げに励もうかな。


 キュロ? 質問だけど、ここら辺の敵って俺でも倒せる?


(はい。マスターは非常に幸運です。トマリ村周辺は、モンスターのレベルが低く、マスターの育成には非常に最適な場所となっております)


 ん? 非常に幸運ってどういうこと?


(最初に降りられる場所は、完全にランダムとなっております。いきなり龍皇の巣や霊峰の麓に降りる場合もございます)


 何かよく分かんない地名が出てきたが、とりあえず俺は幸運らしいということで理解しとこう。


 んじゃ、早速だけどどこに行けばいいかな?


(ここから南西にある草原にブルーラットやホーンラビットが生息しております。それらのモンスターを対象に戦闘を行い経験値を稼いで、得られた素材を売れば金策にもなります)


 うん。じゃあそうしようか。




 ◆




 キュロのナビに従ってトマリ村から10分程の位置にある草原にやってきた。自身の靴くらいの高さまでの草花が生い茂る草原で草花を食べる大型犬程のサイズで青い毛皮に包まれたネズミ?の様な生き物を発見した。草原を見渡すと同様の青鼠な無数に彷徨(うろつ)いている。

(ブルーラット。討伐推奨レベルは1です)


 うん。何となく覚悟はしてたけどやっぱりでけぇな。


(今のマスターの能力では、多数を相手にするのは危険です。1匹ずつ慎重に倒しましょう)


 1匹ずつかぁ。落ちてる石を投げて近くにいる1匹の青鼠を狙って投擲する。石をぶつけられた青鼠は計算通り1匹でこちらに走ってきた。


 さぁ、初めての戦闘だ!!

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