ジェネシスオンライン
ガチャ空
プロローグ
日常
「ん?」
俺はパソコンが受信したメールを見た。
俺の名前は
自分で言うのも何だが、仕事に関しては結構優秀な部類に属しているという自覚はある。仕事内容は業績の悪化している店舗の活性化だ。業績の悪い店舗があればそこに異動して、立て直す。それが仕事のルーティーンワークだ。
こんな仕事をしていると3ヶ月ほどでの異動を繰り返す。当然その地域、地域に話のできる知り合いは出来るが、友人はできない。それでなくても、仕事の話とプライベートの話を両方できる友人などいない。
そんな俺が、ストレスに潰されることなく仕事に邁進できるのは、ネットゲームがあるからだ。
オンラインゲームは素晴らしい!! どこにいても、いつでも、常に友人と一緒に語り、遊ぶことができる。年齢、性別を問わずに気兼ねなく語り合える存在は本当に貴重だと思う。
今は宇宙を舞台にしたオンラインゲーム"ギャラクシスターオンライン(通称GS)"を嗜んでいる。
今日もいつも通りログインしようとPCを立ち上げるとメールが受信されていた。
『佐藤 空様
あなたの願いを叶えます
初めまして。株式会社GODと申します。
この度、佐藤 空様は弊社が新しく手掛けるオンラインゲーム 《ジェネシスオンライン》のβテスターに当選されました。
ジェネシスオンラインは、ユーザーの皆様が望まれるリアルで自由で壮大な世界をご提供させていただきます。
βテスターの抽出には過去にオンラインゲームの世界で一定以上の実績のあるユーザー様のみを選ばせて頂きました。
佐藤様にもご満足頂ける世界をご用意致しましたので、是非ともご参加のほどよろしくお願い致します。
ご参加して頂けるようでしたら、下記のURLをクリックして公式サイトよりユーザー登録の申請をお願い致します。
http://genesis-online.com
株式会社GOD』
なんだ?これ?
最近、βテストの応募なんてした記憶ないぞ?
そもそも株式会社GODなんて名前の運営会社を聞いたことがない。まぁ、後でネットで調べてみるか。
ってか、何で俺の名前知ってたんだろ?
◆
とりあえず、GSにログインした。
GSの中での俺のキャラクター名はソラ。そのままだ。水色のショートヘアで、西洋の騎士の様な顔立ちをした一般的な成人男性の姿をしている。
プレイスタイルとしては、所謂(いわゆる)器用貧乏なタイプだ。武器を用いた近接攻撃に魔法による遠距離攻撃。それに魔法やアイテムによる補助。とその時のメンバーに合わせて役割を変えるプレイスタイルだ。飽きっぽい性格で、あれもしたい、これもしたいと遊んでいたらこんな中途半端なキャラクターになってしまった。
ログイン処理を終えるとギルドハウスへと向かった。
ギルドハウスとは、ゲーム内で仲良くなったプレイヤー同士が申請して作るコミュニティー"ギルド"の活動拠点だ。コミュニティーの呼び名はゲームによって異なり、ギルド以外にもクランやチーム等と呼ばれるゲームもある。
俺の所属するギルドの名称は"@ホーム"。ギルドメンバーは家族であり、ギルドは"家"であると言う意味を込めて名付けられた名称だ。ギルドに所属するメンバーは総勢12名。規模としては小規模だろう。ギルドメンバーは社会人が多く、
ギルドハウスに到着すると、すでにギルドメンバーが数人チャットを楽しんでいた。
「やほー! 何してたん?」
チャットウィンドの画面に流れるギルドメンバーの会話に割り込む形で挨拶をする。
「お? ソラさん! ばんわー!」
真っ先に返事を返したのは@ホームに3人いるサブリーダーの1人アオだ。彼女は名前の通りの青髪でパッツンヘアーのショートカットをした女性エルフだ。どことなく小型犬の様な可愛さがあり、明るく元気な性格をしている。明るすぎるその性格は、儚く感じるエルフの雰囲気が台無しだ! とギルドメンバーのおっさん連中の間でちょくちょく話題にあがっている。プレイスタイルは生粋のヒーラーで、仲間を癒す事と強化する事を何よりもの生き甲斐と感じている。バフ(強化)の時間管理や先読みによる回復魔法の詠唱はギルドメンバーの中でも秀でている。
「今ね、みんなとジェネシスオンラインとかいう新しく始まるオンラインゲームの話しをしてたの」
「へぇ。奇遇だね。俺もさっきインする前にそのゲームのβテストのメール届いてたよ」
「お! ソラさんにもメール届いたんだ!」
「うん。応募した記憶もないのにメールが届いてびっくりだよ! ひょっとして、みんなにもメールが届いたの?」
俺以外にもメールが来てたってことは、GSをプレイしているユーザー全員に届いたのかな?と思い、聞いてみる。
「ううん。そのメールが届いたのはオイラととみみんとパティちゃんとホリィ君とすずさんだけっぽい」
とみみんとは、アオと同じく3人いるサブリーダーの1人だ。正式な名前は"とみみ"であるが、アオとチルハが「とみみん!」「とみみん!」と呼び続けた結果、とみみんの愛称が定着してしまった。容姿は緑色の長い髪を二つにまとめたツインテールに、フライトゴーグルを首に掛けた幼女だ。プレイスタイルは弓を使ったアタッカー兼後方支援だ。かつてとあるFPSゲームで上位のランカーだったらしく、ヘッドショットを駆使したダメージディーラーとして、また武器を狙い撃つ牽制役として、正確無比な射撃を得意とする頼りになるギルドメンバーだ。ちなみに中身はおっさんだ。
パティとホリィとすずは3人共がリアルでも知り合い同士らしい。
パティは赤髪のロングヘアーで彫刻の様な整った顔立ちをしている女性のエルフだ。人見知りが激しく、当初は無口なクールビューティーなイメージだったが、ある事件をきっかけに薄い本の愛好家である事が判明すると言うお茶目な一面も持っていた。ホリィは銀髪のショートヘアでパティ同様に彫刻の様な整った顔立ちをしている少年のエルフだ。こちらも人見知りが激しく、必要最低限の事しか口に出さない。しかし、ギルドメンバーの事を信頼している事は口に出さなくても行動で感じる事が出来た。二人は多くのオンラインゲームを渡り歩いてきたらしく、二人での連携は抜群だ。共にプレイスタイルはアタッカーで、パティは魔法寄りの魔法剣士、ホリィは剣術寄りの魔法剣士であった。元々廃人だったらしく、すさまじいプレイヤースキルを誇る@ホームのトップ戦力だ。
すずは紫髪のミディアムヘアでアイドルの様なフリフリのドレスを身にまとった幼女だ。プレイスタイルは自分の背丈程もある大剣を振り回す火力に浪漫を求めるアタッカーだ。リアルでは結婚しており、嫁さんが恐いのかイン時間は減少気味だ。ちなみに中身はおっさんだ。
「へぇ。全員じゃないんだ」
予想していたGSをプレイしているユーザー全員説はあえなく破綻した。
そういえば、届いたメールにβテスターの抽出条件はオンラインゲームの世界で一定以上の実績とか書いてあったし、それが原因なのだろうか。
俺はそこでふと疑問を感じた。
「あれ? チルハはメール届かなかったの?」
チルハとは、3人いるサブリーダーの最後の1人だ。紫髪のポニーテールで、メガネをかけたバストサイズが残念な女性だ。とにかく世話好きで初心者を見ると放って置けないタイプで自分の攻略よりも他者の手助けを最優先にする自己犠牲が激しいタイプだ。プレイスタイルは大きな盾を構えて敵の攻撃を一手に引き受けるタンク職だ。また、状況に応じて槍を振り回し敵を蹴散らすアタッカーとしても頼りになるギルドメンバーの一人だ。
俺とアオととみみとチルハはこのゲームのサービス開始日に偶然出会い、それからずーっと4人で行動している。大規模なレイドコンテンツ以外はこの4人で全てクリアしている。
@ホームはこうした仲良し4人組で作ったギルドである。小規模ではあるが、気兼ねなくチャットが楽しめる友人がおり、全てのコンテンツを楽しめるだけの技量もあるので、非常に居心地のいい空間だ。
ちなみにリーダーは俺である。
つまり、このゲームの世界の実績というのであれば、4人は同等のはずである。確かにチルハが初心者救済をしている時に俺は大好きなレベル上げと戦闘を求めてソロ活動に励む事もあれば、とみみも一期一会を求めて野良募集に飛び込む事もあった、アオも仲良しのフレンドと遊び尽くす日もあったが、GSの実績というのであればサーバー内で1位を獲得したこともあるタイムトライアルは4人で挑んだ記録だ。同等のはずである。
「そうなんよー。うちにはメール届かなかったんだよねーorz」
チルハは顔をガックリと下げるエモーションで悲しみを表現する。
「しかし、株式会社GODって聞いたことないよね」
俺がそう発言すると。
「確かに無名の運営会社っすね。でも、このメールは相当数の人に届いたらしく某掲示板でも話題にあがってたっすよ!」
情報通のとみみが某掲示板情報を答える。「そうなんだ!?」と相槌を返すと。
「某掲示板でも話題に上がってるのが、βテスターに選ばれる条件っすね。何でも、他ゲームでも有名プレイヤーを中心にメールが届いてるみたいっすよ」
「ほえー。でも、俺たちって有名プレイヤーじゃなくね?」
「いやいや。あっしはともかく、ソラさんはよく参加条件不問の野良マラソンを企画してるじゃないっすか。参加者も多いですし、主催者のソラさんはそこそこ有名っすよ!」
「マジか!?」
「マジっす! それと話しを戻しますけど、メールが届いた人以外がメールに記載されているURLにアクセスしてもエラーになるらしく、公式サイトにもアクセスできないらしいっす」
俺は、知らないURLは怖いのでまだクリックしていない。
「ゲームシステムとかも載ってましたが、かなり楽しそうなゲームだったっすよ! サービス開始は明日からで、βテスターにはメールでデータが届くらしいっす。全部某掲示板情報っすけどね」
「ふーん。あとで見て見ようと。みんなはやってみるん??」
俺はとりあえず、みんなに聞いてみた。なんかチルハから悲壮感が見えるがスルーしよう……。
「うーん。オイラはとりあえずみんなに合わせるよー。でも、チルハさん参加できないなら、本格的にはしないかなぁ」
アオがまず答える。
「あっしはとりあえずダウンロードしようかなと思います。やるやらないは別っすけどね」
次いでとみみが答えた。
「ボク達は……最近GSマンネリ気味なので、参加しようかなと。あ!? でも、こっちも引退はしないですよー」
パティとホリィも答える。
「俺はパスだな。これ以上ゲームにハマったら嫁が怖いしなwでも、ダウンロードだけはしてみるよ」
次いですずが答えた。
「んじゃ、俺もやってみようかな。向こうでもキャラクター名変えないでしょ? 向こうでも会えたらいいね」
最後に俺も参加を表明した。
「あ! それなら事前登録のアクセサリー申請した方がいいかも知れないっす! ちょっと待ってて下さいね!」
「え? とみみん? 事前登録のアクセサリーって何??」
慌ててタイピングをするが、とみみから返事が来ない。
「離席かな?」「離席っぽいですね」
とみみの返事を待つこと10分。
「お待たせしたっす!」
とみみが急に動き出す。
「えっと、事前登録のアクセサリーって言うのは、事前に登録したユーザーが限定で貰えるアクセサリーっす!」
予約限定のアイテムみたいなモノかな?
「617644。ユーザー登録の時にこの番号を入力すると、見た目を変化させるオリジナルのアクセサリーを手に入れる事が出来るっす! これでジェネシスオンラインの世界で出会ってもすぐにみんなだと分かるっす!」
とみみは今の10分間でオリジナルアクセサリーの申請とやらをしていたらしい。
「どんなアクセサリーにしたの??」
「それは秘密っす! 見てからのお楽しみっすね!」
とみみが不敵に笑うのエモーションで楽しみを煽った。
「まあ、目印もあるけど探せなかったらGSにログインして一度待ち合わせ場所を決めればいっか!」
「了解っす!」「ほーい!」「わかりました」「はい」
こうして、俺ととみみとアオとパティとホリィはジェネシスオンラインのβテストに参加する事になった。
「まぁ、面白かったら正式版かオープンβからでもチルハとか他のメンバーも参加したらいいしね! このゲームもみんないる限りいきなり引退はしないし、顔も出すよー」
一応チルハを筆頭にメールが届いていないメンバーにもフォローはしてみた
「んじゃ、とりあえず、今からみんなでボス狩りでもして、素材でも稼ぎに行きますか!」
「「「はーい!」」」
今日は珍しくギルメンが12人全員揃ってる。4人パーティーを3つ作って、12人が共闘して遊べるマルチエリアへと進んで、すずが欲しがっていた星龍の素材を集めにフィールドへと移動した。
◆
休憩を入れながら3時間ぶっ通しで星龍を狩り続けるマラソンを実施した。
狩りを終えて再びギルドハウスへと戻ると。
「やっぱり、みんなで遊ぶと楽しいね!」
アオが万歳のエモーションで全身を使って喜びを表現する。
「そうっすね。野良募集での一期一会も楽しいっすけど、やっぱりギルメンと遊んでる時間が一番楽しいっす!」
アオの喜びにとみみが賛同する。
「ボク達も@ホームのメンバーで行く狩りは大好きだよ!」
パティが発言すると、同意する様に後ろでホリィが頷きのエモーションを実施する。
チルハや他のギルドメンバーも口々に楽しかったね! 今度は素材を狩りに行こう! 今度はレアドロップ狙ってアルティメットに挑もう! 等と話している。
オンラインゲームの後期は突き詰めれば、同じ事の繰り返しになる事が多い。言い方は悪いが遊びでは無く作業と言っても過言ではないかも知れない。でも一緒に遊べる友人がいると、それは作業じゃなくて楽しい遊びになる。
「やっぱり、@ホームは良いチームだね! オイラはずーっとこのメンバーと遊んでいたいよ!」
アオの言葉に全員が頷く。本当にいい友達と巡り会えたものだ。
「うわ!? 2時過ぎてるし!? 明日も早いのでそろそろ寝ます! おやすみー!」
気付けば時計の針は2時を過ぎていた。事前登録だけでもしようと思いみんなに挨拶をした。
こうしていつもと変わらぬ日常の一部と化したGSをログオフした。
―――――――――
【あとがき】
お読みいただきありがとうございます!
本日は18:00と21:00に投稿します。
明日以降は12:00、15:00、18:00、21:00の時間にて4話投稿を毎日継続する予定となっております。(全284話予定)
本作をお気に入り頂けましたなら、☆にて讃えて頂くと執筆のモチベーションに繋がります。宜しくお願いします<(_ _)>
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