精霊化
『
魔法属性=雷
形状=変質
魔力減衰=2
強化率=×2
精霊化=200000
魔力=1600000
稼働時間=10
魔法名を紡いだ直後、ルシウスの体が白雷に同化していく。実体が全て白雷へと変質し、身に纏っていた紅炎すらも白雷へと変質していく。
(くっ……やっぱりこの魔法はまだ未完成か……)
ルシウスの思いつきで生まれた魔法。それは伝説とされる魔法だった。
精霊へ体を変質させるこの魔法は、既に掛かっている強化倍率を更に強化させる。
更に雷と化した体は、物理的な攻撃を全て無効化する。非常に強力な魔法だが、まだ未完成でもあった。
精霊化の数値10万毎に強化率が上がり、当然魔力消費も跳ね上がる。しかもその魔力制御はこれまでに掛かっている身体強化の魔法に上乗せされる。
その魔力制御の難易度は、ルシウスをして10分に設定した稼働時間を持たせることすら難しい程だった。
(時間はあまりない……)
レウスが雷と化したルシウスを見て「何だありゃ!?」と身を乗り出す。
「レウス離れて! 巻き込まれるわよ!」
乗り出したレウスの体を、通路の奥へと引き戻す。
「ルウ君……」
心配そうな瞳で、自身の手を絡ませて祈るようにアリスが見つめる。
「あれは……まさか精霊化?」
イザベラが白雷の化身となったルシウスを見て、目を見開く。
「精霊化ってなんなのー!?」
「聞いたことがあります……確か遙か昔に失われたとされる……精霊級の魔法……」
アグニの黒炎が膨れ上がる。それに呼応するように白雷が溢れ出す。
極限の黒と白が大広間で衝突した--
黒炎と轟雷がけたたましい轟音を立て、大広間を死の嵐が吹き荒れる。
「は……離れろぉおお!」
イザベラの絶叫で、六人は通路の奥へと駆けだした。
「面白い。お前は人の身で精霊の領域へ踏み込むか」
「悪いが、時間があまりないんだ」
アグニの笑みが深まる。そして--白雷の化身が動き出す--
◆
「なんなのよあれは!?」
エリーが取り乱すように叫ぶ。
「落ち着けエリー!」
「あんなのが人の世界にいていいわけないでしょうが!」
興奮状態になることで、魔力が漏れ出していた。
「それは俺もそう思うが……」
「ルウ君ならきっと……きっと大丈夫だよ」
「イズとマリーは、ルウのあの魔法について何か知ってるの?」
「……ありゃ精霊級の魔法だ……多分な」
「精霊級……? それって……」
「私も聞いたことしかありませんが、帝級の更に上位の魔法だと思います。術者の体を精霊に変質させる強化魔法……」
マリーの言葉に、ルシウスと自分達の実力が、思っていた以上にかけ離れていることを実感する。
「最高の魔術師って、帝国魔法指南役のフェルディナンド卿よね? 確かフェルディナンド卿の使える魔法が……」
「帝級だ。ルシウスはそれを確実に越えている」
六人が息を飲み、喉を鳴らす。
「ルウすごすぎー?」
「すごいなんてもんじゃねーだろ。俺はルウに追いつく事を目標にしてたんだけどよ、いくらなんでも遠すぎるぜ」
「レウスがルウに追いつけるわけないじゃない」
「う、うるせーな! 目標なんだからいいじゃねーか!」
六人が話している間にも、大広間では人外の領域の力がぶつかり合っていた。
「ボクたち、何もできないのかな」
通路の先を見て、レーナが呟く。
「無理だ。あの力の衝突に巻き込まれりゃ、あたしらなんかクソの役にも立たねぇだろうぜ」
イザベラの言は正しい。そして他の五人もそれを理解していた。
「悔しいですけど、信じて待つしかありません……」
「ルシウスとの付き合いはあんたらのほうが長ぇんだろ。信じろ。あたしらにはそれしかできねぇ」
「……分かったわ」
◆
ルシウスが白雷となった右腕を、顔の左側へ持ち上げる。アグニもそれに呼応するように同じ体勢をとっている。
そして、同時に正面に向かって持ち上げていた手を伸ばした瞬間--
--それぞれの掌から、極大の砲が放たれた。
大地を抉りながら、黒と白の砲が衝突した。カッと発光した直後、半球状に砲が広がった。
拮抗するその力は、白へ黒へと揺らいでいる。その間も大地を削り、空間を揺らす。
そして一際大きく広がった直後、これまでの轟音が嘘のように消失した。
「ふむ。その力、うまく使えているようだな」
「だから話してる時間はないんだっての……」
ルシウスが両腕を頭上に翳す。
「気の済むまでやるといい」
「余裕かよ……このバケモノめ」
「お前もそうは変わらないとは思うがな」
翳した両腕を、斬るように振り下ろす。それに呼応して、ルシウスの周囲に白雷が発生し、瞬く間に大広間を埋め尽くした。
そして、全てを滅する白雷の斧が黒炎へと襲いかかった。
「面白い」
アグニは両腕を目の前で交差した--直後、アグニを囲むように黒炎が発生した。
そこへ無数の白雷の斧が殺到した--
何百もの稲妻が落ち続けているかのような、耳を劈く轟音と光で大広間が埋め尽くされた。
しばらくして、黒炎が膨張し始めた。白雷の斧は変わらず降り注いでいる。
しかし黒炎を貫くことはできず、ついには黒炎が大広間を半分程埋め尽くすまで広がり、白雷が飲み込まれる。
「チィ!」
ルシウスが広がった黒炎を警戒していると、黒炎は収縮していく。そして全てがアグニへと取り込まれていった。
「素晴らしい。人の身で大精霊に匹敵する程の力があるとは」
「そうかよ……あんたには大して効いてないみたいだけどな」
「そんなことはない。それなりにダメージを受けているし、相応の魔力も消費しているとも」
「そうかい。だが俺は次で打ち止めだ」
「見せてみろ」
「言われなくても……な!」
両腕を大きく広げると、ルシウスを囲むように筒状に白雷が広がっていく。
「何だそれは?」
「へっ……お前には言ってもわからねぇよ」
バチバチと弾けるような音を響かせながら、更に筒状の白雷の密度が上がっていく。
「素晴らしい魔力だ」
「そりゃどうも……これで終わってくれることを祈るよ」
アグニの笑みが深まる。そして、特大の白雷でできた砲身がキィィィンと甲高い音を響かせ--
--極限の魔力を収束させ、白雷で加速した極光が放たれた。
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