第88話 増えすぎたゴブリンと新たな出会い

「ストップ! ストーップ!!」


 部屋一杯に埋まったゴブリンたちを見て、エルダネスが叫んだ。

 すでに床は全く見えなくなっていて、大きなゴブリンが小型のゴブリンを肩車し始めているような状況であった。


「まだ居るのかい?」

「えっと……まだ五十人くらいいるみたいですね」

「マジで?」


 呆れたような声のエルダネスに、僕は頷いて答える。


「正直言えば僕もこんなにゴブリンたちが増えているなんて思わなかったんですよ」

「キミはテイマーなのに、テイムしてる魔物の管理とかしてないのかね」

「してませんでした……」


 ゴブトに事情を尋ねると、どうやら先日の辺境での戦いの後、ゴブリンたちは一気に子供を作りだしたのだそうだ。

 それというのも、あの時死者は出なかったもののかなりの数のゴブリンが大きな怪我を負った。

 そのせいで種族として、種の保存本能が猛烈に刺激されたらしい。


 本来なら人間の子供より弱いゴブリンたちは、子供を沢山作ることで種を絶やさずに生きてきたわけで。

 ゴブリンテイマーである僕のスキルのおかげで強くなったといっても、直ぐにその本能が消えるわけでは無い。


 早くそのことに気がついていれば、マスターである僕の命令で子作りを制限することが出来たのだけど。


『ゴブブ』

「いや謝らなくて良いよ。特に報告してなんて言ってなかったしね」


 報告しなかったことを反省してしょんぼりするゴブトに僕は慰めの言葉を返して、次にエルダネスに声を掛ける。


「それでどうします?」

「これ以上はさすがにこの部屋でも危険そうだし、君の実力は大体わかったからもう戻して貰って良いよ」

「わかりました。みんな、戻って! あと、これ以上子供は作らないでね」

『『『『ゴブー』』』』


 ゴブリンたちは返事をすると、次々に僕のテイマーバッグに吸い込まれるように帰って行く。

 さすがに二百以上ものゴブリンが戻りきるまでにはそれなりの時間が掛かる。


『ゴブッ?』

「ん? 僕一人でも大丈夫だから安心して帰って良いよ」


 最後に残ったゴブトが、護衛に残らなくても良いかと聞いてきた。

 だけどこの図書館にいる限りはエルダネスの様子を見る限り危険は無さそうなのでゴブトにも帰って貰うことにした。


「あ、ちょっとまってくれたまえ」

「何でしょう?」

「そのゴブリンだけ、他のゴブリンと少し違うように見えるんだけど」

「ああそうですね。彼はゴブトといって、僕が一番最初に家族にしたゴブリンなんですよ」


 エルダネスはその答えを聞くと「ほう。興味深いね」とゴブトに近寄るとその体をペタペタと触り出す。


「やはり体から感じる魔力も普通のゴブリンとは桁違いだね」

「わかるんですか?」

「ああ。僕は魔力の流れとか動きがわかるのでね」


 どうやらエルダネスのスキルらしい。


「もう少し調べさせて貰って良いかい?」

『ゴブブブ』

「あまりペタペタ触らないで欲しいって言ってますけど」

「たしかに。初対面の男に体なんて触られたくないだろうしね。わかった、もう触らない」


 エルダネスは両手を挙げて少しゴブトから離れる。


「それじゃあ一旦元の部屋に戻って、君から話を聞かせて貰って良いかい?」

「それならかまいませんが。ゴブトはもう戻しても?」

「本当はもう少し調べさせて貰いたかったけど、本人が嫌がるなら無理にとは言えないしね」


 その答えを聞いて僕はゴブトをテイマーバックに戻すと、エルダネスと共に図書館の閲覧室に戻った。

 それからしばらくの間、エルダネスからの質問攻めに遭いフラフラした頭で図書館を出ると、外はもう夕方になっていた。


「思った以上に時間つかっちゃったな。もう今日は他の所にいく時間は無いし帰ろう」


 夕闇に沈む町の中、僕は来た道を戻ろうと図書館の前の道を歩く。

 貴族院の横の道は、この時間になるとほとんど人も歩いておらず、夜の照明も大通りに比べて少なく薄暗い。


「新しい図書館の方は明るいんだろうなぁ。せっかくだし明日行ってみようかな」


 人通りの少なさに、少し不安になった僕は独り言でそれを誤魔化しながら歩く。

 そして大通りまであと少しの所まで来た時である。


「ど、どいてーっ!」


 そんな声と共に、一人の人が突然脇道から飛び出して来た。


 反射的に避けようと体を拈るが、完全に避けきれず肩と肩がぶつかる。


「うわっ」


 僕の方は思わず蹌踉けたが、ギリギリ転ばずに踏ん張ることが出来た。

 が、相手の方は僕より体重が軽かったのだろう、当たった肩を支点にくるりと体が回転すると、そのまま道路に勢いよく倒れてしまう


「きゃあっ」


 その人物の口から漏れた悲鳴は若い女性のもので。

 僕は地面に転がった彼女に手を差し伸べたのだった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆おねがい◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 本日2月7日でカクヨムコンテストの読者選考が最終日となります。

 期間内での★とブックマークで決まるらしいので、もしまだ評価を頂いていない読者様がいらっしゃいましたら★での評価をお願いいたします。


 と言っても残り一時間もないのですが……。


 それではまた次回。

 この女の子は何者なのかはその時に。

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