第26話 最後の時間
「さてと、そろそろ夕飯の支度をして、それが終わったら花火の約束をしに広場に行かないとな」
アリスが帰ってから後、時間はゆるりと過ぎ去り、気づけばもう日もすっかり暮れて、夕食の準備となった。
今日がオレがシュナの護衛をする最後の日。
シュナもそのことをわかっていたようで今日は「ブレイブさんの一番得意な料理をお願いします」と言われた。
まあ、得意というほどではないがやっぱり定番のカレーだろうか。
できれば一日じっくり煮込ませて寝込ませたやつを出したかったのだが、こればかりはしょうがない。
とはいえ、たくさんの具材をいれて調理をすると、なんとも言えない匂いが漂う。
「さてと、あとはもう少し煮込ませてからシュナを呼ぶか」
そう思ってキッチンから離れた時、玄関からドアをノックする音が聞こえる。
なんだ? もしかしてまたアリスか?
オレは火を消した後、玄関へ向かう。するとそこには意外な人物がいた。
「アリア」
「……久しぶり」
そこにいたのは先日、シュナと共に海で遊んだアリアであった。
あれから彼女とはこの聖都についてから別れたので久しぶりと言えば久しぶりであった。
「あー、久しぶりだな。今日はどうした?」
「…………」
「えーと、ひょっとして、この間の海でのこと怒ってる? すまん、あれは悪かったと思ってるよ。けど、何度言うけどあれは偶然で別にお前の胸を狙ってとかではなくてだな」
「いい、そのことは。今日は別の用事できた」
「別の用?」
見るとアリアの表情は今までにないほど真剣にオレを見据えていた。
「アンタに聞きたいの。前にここで聞いた答えを」
「答え?」
「アンタは本気でシュナを守るの?」
「守るって……そりゃそうだろう。それがオレの任――」
「任務以外でよ。たとえば、この先、その任務がなくてもアンタはシュナを守るの?」
「…………」
突然、そのようなことを問われてオレは戸惑う。
確かにシュナを守るのは聖十騎士の任務からだ。
だが、それ抜きでシュナを守るかどうかと問われば――。
オレは一瞬悩んだがすぐにつまらないことだと理解した。
「守るさ。任務とか関係ない。シュナはもうオレの友達だ。友人を守るのに理由なんかいらないさ」
そうはっきりと答える。
そうだ。このひと月でオレは彼女と過ごして、前以上に彼女のことを知った。
最初は花澄によく似た子だと思っていたが、一緒に過ごすうちにとても感情豊かで心優しく、そして花澄と同じ純粋な気持ちを持った女の子だと知った。
別に彼女をこの時代における花澄の代わりとして見ているわけではない。
そんなのがなくても、オレは彼女と触れ合ううちに、彼女という人間が好きになった。好意を抱くのに十分な人物だと思えた。
そんな子がこの先、もしもなにか困ったことがあれば力になる。
そう迷いなく答えるが――
「嘘つきッ」
目の前のアリアはそんなオレを嫌悪するように睨みつける。
「嘘よ。嘘嘘嘘、大嘘! そんなの絶対にしないわ! アンタみたいなたかだがひと月一緒にいた奴があの子を守る? そんなことあるわけないじゃない! 仮にこの先、あの子とアンタにとっての何かが天秤にかけられたらアンタは間違いなくあの子じゃなく、自分の目的を選ぶはずよ!」
「ちょ、いきなりなんだよ……! そんな頭ごなしに否定をして――!」
「うるさい! 人のいいことばっかり言って、そんなの信じられるわけないでしょう! アンタも所詮、この国にいる騎士と同じ! 国や四聖皇のために尽くす聖十騎士団と同じよ!!」
「……どういう意味だよ」
あまりにも感情的にオレを否定するアリアに違和感を覚える。
彼女は確かにオレを罵倒しているが、それはまるでオレだけでなく、オレの背景全てを憎んでいるように思えた。
もっと正確に言えば、今のオレが所属している騎士団。聖十騎士、いや、その先にいる四聖皇すら――
「きゃああああああああああッ!!」
「!?」
その時、突然二階から叫び声が上がる。
慌ててそちらを振り向くと、そこには窓を壊し、夜の帳が落ちる街中へと駆け出す影があった。
そして、その人物の小脇には確かにシュリの姿があった。
「シュリっ!」
オレは慌ててシュリを追おうとするが、そんなオレの手をアリアが掴む。
「どこに行く気よ?」
「決まってんだろう! シュリを守るんだよ!」
「それは騎士としての任務からでしょう? アンタが本当に守りたいわけじゃない!」
「ッ! うるせえな! それがなんだっていうんだ! そんなことが関係あるのか!? 今オレが任務であの子を守ろうと、個人的に守ろうともどうでもいいだろう! とにかくオレは彼女を守る! それ以上、なにか理由を付ける必要があるのかよッ!!」
オレはそのままアリアの手を振り解き、街の奥へと消えた影を追う。
「……関係あるから言ってるのよ。もしも、アンタが任務だけで彼女を守るのなら……アンタはシュリの敵よ……」
ボソリと呟いたアリアのその一声はオレの耳には届かなかった。
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