スキル『睡眠』で眠ること数百年、気づくと最強に~LV999で未来の世界を無双~
雪月花
第1話 睡眠から始まる無双
「湊(みなと)! そっち行ったぞー!」
「任せろ! おりゃー!」
「ナイスでござる! 湊殿!」
「へへ、真人(まさと)達のアシストがあったからだよ」
「それじゃあ、早速戦果の確認しようぜ」
「オーケー。おっ、すげえ! 今のでレベル3も上がったぜ!」
「こっちもスキルポイント一気に10も増えたぜ! 花澄(かすみ)。お前はどうだ?」
「あ、えっと、私はレベル1上がったみたい」
「上出来上出来。戦闘は兄ちゃん達が担当するから、お前は今のようにサポートに徹してくれ」
「う、うん!」
そう言ってオレ達のリーダーでもある宮野(みやの)湊(みなと)は妹でもある花澄(かすみ)ちゃんの頭を優しくなでる。
「そっちはどうだ、真人(まさと)?」
「ああ、オレもレベル2上昇でスキルポイントも5増えてたよ」
「皆順調だな。それじゃあ、今日はもう遅いし、近くに見えるあの塔で休むか」
『賛成ー!』
◇ ◇ ◇
ここは異世界エウル・リエス。
その世界にオレ、斑鳩(いかるが)真人(まさと)は召喚された。
そして、オレと共にこの異世界に召喚されたのはオレの幼馴染達であった。
一人は先程、魔物を仕留めたオレ達のリーダー・宮野(みやの)湊(みなと)。
母親がアメリカ人らしく生まれつき金色の髪が特徴的だ。
更に容姿端麗で頭脳明晰、文武両道とまさにアニメや漫画に出てくる主人公のような万能超人。更に誰にでも優しいまさに陽キャの頂点とでも呼ぶべき人物だ。
そんな湊の隣にオズオズとくっついている金髪ツインテールの少女は宮野(みやの)花澄(かすみ)、湊の妹だ。
彼ら宮野兄妹とオレは家が隣同士であったため、幼い頃からの付き合いであり、兄弟同然のように親しい関係だ。
「にしても最初は異世界転移ってことで驚いたけど慣れてしまうとゲーム感覚だよな」
「だなー。オレも昔やっていたファイナルレジェンド思い出したよ」
「わ、私はスマホゲームみたいだなーって……」
「あ、わかる。スキルポイントとかそれっぽいよね」
「う、うん! 特にレベルが上がるとポイントが上昇して、色んなスキルが解放されるのが『魔石物語』にそっくり。でも、これって気を付けないと今解禁されたスキルにポイントを降ったら多分後で後悔する……。私が思うにこのレベルとポイントにも何らかの法則があってスキル解放にも現状数百種類の解放パターンがあるみたい。その中から一番後悔しない選択となると……」
「あはは、また花澄のスイッチが入っちゃったよー」
「なまじ天才がゲーム脳だとどっぷりハマっちゃうタイプだよね~」
「あ、あわわ~。ご、ごめんなさい~」
オレや兄・湊のからかいに花澄は顔を真っ赤にする。
彼女は引っ込み思案な性格なのだが、兄に負けず劣らずの才能の持ち主である。
中学生でありながらIQ180というずば抜けた数値を持ち、そのため有名な大学からすでに推薦をもらっている。
だが本人はそうした勉学には興味がなく、むしろアニメや漫画、ゲーム知識にどっぷりとハマってしまったオタクである。
そうなった経緯は湊と共によくオレの家に遊びに来て、その際オレが薦めたアニメやゲームの影響だったりする。
そのため、今でも花澄はオレによくオススメのゲームやアニメの話題を聞いてきて、その話にする。
「というか、私がこうなったのは真人さんの影響でもあるんだよ~!」
「はは、ごめんごめん」
「三人とも本当にゲームに詳しいでござるな。拙者はそういうのやったことがないのでちんぷんかんぷんでござる」
「なに言ってんだよ。そういう壮一(そういち)は、この間の甲子園で部を優勝に導いた立役者じゃないか」
「そうそう。しかも、その時の試合がプロの目にとまって、スカウトが来たんだろう?」
「いやいや、拙者などまだまだ。プロの世界に入れば、もっと精進したいでござる」
そう言ってオレ達の会話に入ってきたのは身長180センチはある大柄な男子、字野(あざの)壮一(そういち)。
彼もまたオレの親友の一人。
ちょっと特徴的な喋り方をするのは先祖が有名な武将で、それに影響されてだとか。
文武両道な湊、頭脳明晰な花澄と違い、壮一はスポーツ一筋。けれど、運動神経はオレ達の中でも随一。
すでにプロで通用するレベルと周りから太鼓判を言われるほどである。
だが、この三人に比べると、オレはこれといって特徴のない平凡な学生だ。
けれど三人はそんなことを気にしたことはなく、この異世界に来てからもオレ達の関係は変わらずにいた。
そうしてオレ達は楽しく談笑していたのだが、ふと花澄が少し離れた場所に座る一人の少年に声をかける。
「ねえ、君もよかったら一緒に話さない?」
「……いいよ。僕のことは放っておいて」
部屋の片隅にて三角座りをしている小柄な少年はそう言って顔を伏せる。
その様子にオレや湊、壮一は困ったように肩をすくめる。
彼の名前は春日(かすが)俊(しゅん)。
オレ達と同じこの異世界に召喚された五人目のメンバーだ。
けれど彼だけはオレ達の誰とも面識がなく、この異世界で始めて出会った人物となる。
オレや湊、花澄、壮一の四人は現代にいた頃から仲の良いメンバーだったのだが、そこに一人突然加わるとなると居心地の悪さを感じているのかも知れない。
悪い人物ではないので、なんとかして仲良くなりたいとは思っているのだが、陽キャの湊にもなかなか心を開いてくれなかった。
「にしてもこのスキルって便利だよな。昼間の戦闘も湊のスキルがないとやばかったよな」
「あ、分かる分かる。っていうか、やっぱこのスキルが異世界転移の醍醐味だよな」
「そうなのでござるか?」
「そうだよ! つーか、壮一のスキルとかまさにチートじゃん」
「そ、そうだよ! 私もこういうスキルとか憧れだったから最初に使った時は興奮したよ!」
なんとか話題を変えようとしたオレに花澄が食いつく。
それに湊も乗っかってくるが、そうした知識のない壮一だけがよく分からない風に首をかしげる。
「まあ、壮一はこの手の話題には疎いからな。こういう異世界物だとスキルとかそういうのって定番なんだよ。実際、壮一の持ってる『加速』も便利だろう?」
「うむ、確かに。自分の速度を何倍にも加速できる故、スポーツでもこれが使えれば何かと便利でござるよ」
「そういうお兄ちゃんのスキルもずるいよー。なんでも好きな武器やアイテムを作れる『創生』とかチートだよ、チート。私のスキルと交換してよー」
「はは、そういうお前のスキルだって十分強いだろう。花澄」
和気あいあいと楽しそうに会話をする三人。
だが、自分で降っておいてなんだがスキルの話題となるとオレの心境は複雑であった。
「でも三人とも実用的なスキルで羨ましいよ。それに比べてオレのスキルと来たら……」
「あー、確かに真人のスキルは独特だよな」
「あ、あははは」
「確か……『睡眠』でござったな?」
「それそれ」
壮一の指摘にオレは苦笑いで頷く。
『睡眠』。
それがオレがこの世界に転移した際に与えられたスキル。
効果は眠った時間に比例してオレのレベルや能力値が増大するというもの。
だが、普通の睡眠――およそ8時間程度では1~2程度しか上がらない。しかもこの『睡眠』によって上昇したレベルや能力値は一時的なものであり、戦闘すると『睡眠』によって増えた能力値やレベルは消費される。
なので、その日一回分の戦闘が少しだけ楽になる程度の実に微妙なスキルだ。
湊達のスキルが滅茶苦茶優秀なのに対して、オレのスキルだけこんなに微妙なのは本人の才能や能力に影響しているのだろうか? そうとしか思えない外れっぷりである。
しかし、幸いというべきかそれで三人がオレを邪険にしたり、役立たず扱いしないのは本当に助かる。
これがいわゆる追放系の異世界物だったら、あっさり仲間に裏切られてドロドロの四苦八苦展開になっただろうから。
「けどさ、それって眠った時間に比例して湊のレベルが上がるんだろう? ならいっそ24時間眠り続けるのはどうだ?」
「ちょ、湊。冗談はよせよ。そんなに眠れるわけないだろう」
「いやいや、わかんないぜー。だって、それってスキルだろう? もしかしたら普通よりも長く眠れるかもしれないぜ」
「言われてみればそうかも……。ねえ、真人さん。試しにどこまで眠れるかそのスキルで試してみませんか?」
「え?」
「ふむ、面白そうでござるな、真人殿。どこまで眠れるか異世界ギネスに挑戦してみるでござるよ」
湊の冗談に花澄ちゃんや壮一まで乗ってくる。
「んー、試すのはいいけどさ。その間、皆どうするの?」
「はは、そんなのお前が起きるまで待っててやるさ。いくらなんでも数ヶ月寝るわけじゃあるまいし」
「でござるな。おそらく最高でも二日あたりと拙者は睨むが」
「そ、そんなに寝過ぎたら逆に体に悪くないかな? だ、大丈夫、真人さん! あんまり眠り続けていたら私が途中で起こすから!」
「はは、花澄ちゃんにそう言われるのなら安心だな」
そう言ってオレは早速横になり、意識を自分の中のスキル『睡眠』に集中する。
今までは単に寝ていただけだが、こうして意識的にスキルを発動させて眠るのは初めてだ。と、そう思った瞬間、
『スキル睡眠にて何時間の睡眠を取りますか?』
お?
頭の中に声が響いた。
これは……スキルの声か? こんなのは初めてだ。
というか、スキルで何時間眠るとか調整できるのか。
なんだよ。こういうのが出来るのならもっと早くやっておけばよかった。そんなわずかな後悔を覚えつつも、オレはこの先一生後悔するであろうその言葉を口にした。
「えーと、それじゃあ最高まで」
『了解しました。スキル睡眠による限界値まで睡眠を開始します』
あれ? 今、限界値って……もしかして今オレとんでもないことを口にした?
そう思ったのも束の間、オレの意識は見る見る内に遠くなり、閉じていくまぶたの向こうで湊や花澄ちゃん、壮一、それに離れた場所で座っていた俊がオレを見つめていた。
――それが彼らとの遠い別れになることをこの時のオレは知らずにいた。
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